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第6章『護り方』
閑話『恋文』
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翌日、早速手紙を届けに向かうとまだ葬儀の最中だった。
「可哀想に…まだ若いのにねえ」
「犯人は捕まったらしいけど、別の子も襲おうとしてたんだろう?最近治安悪くなってきたな…」
それが終わるのを確認して、ひとり落ちこむ人物に駆け寄る。
「こんにちは。山本深雪さんでしょうか?」
「そうですけど、あなたは一体…」
「中谷麻友さんからお手紙です」
「冗談でそういうことを言うのは、」
「私は至って本気です」
封筒に書かれた文字を見て、山本深雪はようやく納得したようだ。
不思議そうな顔をしながら封を切る。
【みゆへ
私はみゆの笑顔が好きです。初めて会ったときからずっと、みゆだけは私と対等に接してくれて嬉しかったよ。
複雑な家庭環境っていうのもあって、腫れ物扱いされることも多かったけど…みゆが笑ってくれればそれだけで幸せです。
指輪は近々家に届くはずです。私のことを忘れてもいいから、これからも幸せになってね。
どれだけ離れていても、ずっと一緒だよ】
「麻友…恨み言ひとつ書かないのがあの子らしい……」
手紙を強く抱きしめ、ぽたぽたと涙を零す。
「犯人は捕まったけど、私の恋人は返ってこない。私のせいなのに、麻友がいないなら捕まっても意味がない。
…私、これからどうすればいいんでしょうか」
見ているだけで分かる。
恐らく彼女は後を追おうとしていて、このまま放っておくことはできない。
「…中谷麻友さんは、あなたに笑顔で生きていてほしいと願っています。
立ち止まって考える時間も必要ですが、彼女が望まない方向に進めばふたりとも苦しむことになります」
「それは、」
「あなたの幸せを願う姿を、少しで構わないので思い出してあげてください。…それでは、私はこれで失礼します」
最終的にどうするか決めるのは山本深雪自身だ。
ただ、中谷麻友のことを本気で想っているのならどうするかはもう決まっているだろう。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
偶然ぶつかった子どもを撫で、飴を渡しながらぼんやり考える。
星影氷空は泣きながら言った。
中谷麻友は最後まで大切な人を護りたくて動いた人だったのだと。
「おにいさん、ありがとう」
「どういたしまして」
「ゆうや、行くぞ」
「おにいさん、さよなら」
手をふって別れた後、冷たい風が背中に当たる。
「…どうしてそんなことを知ってるんだ」
星影氷空には何か秘密がある。
確証があるわけではないが、死者について知りすぎているのだ。
データにない情報を掴む何か……
「…何考えてるんだ」
小さく呟きながら、すれ違う人間に会釈する。
──死の香りを感じながら。
「可哀想に…まだ若いのにねえ」
「犯人は捕まったらしいけど、別の子も襲おうとしてたんだろう?最近治安悪くなってきたな…」
それが終わるのを確認して、ひとり落ちこむ人物に駆け寄る。
「こんにちは。山本深雪さんでしょうか?」
「そうですけど、あなたは一体…」
「中谷麻友さんからお手紙です」
「冗談でそういうことを言うのは、」
「私は至って本気です」
封筒に書かれた文字を見て、山本深雪はようやく納得したようだ。
不思議そうな顔をしながら封を切る。
【みゆへ
私はみゆの笑顔が好きです。初めて会ったときからずっと、みゆだけは私と対等に接してくれて嬉しかったよ。
複雑な家庭環境っていうのもあって、腫れ物扱いされることも多かったけど…みゆが笑ってくれればそれだけで幸せです。
指輪は近々家に届くはずです。私のことを忘れてもいいから、これからも幸せになってね。
どれだけ離れていても、ずっと一緒だよ】
「麻友…恨み言ひとつ書かないのがあの子らしい……」
手紙を強く抱きしめ、ぽたぽたと涙を零す。
「犯人は捕まったけど、私の恋人は返ってこない。私のせいなのに、麻友がいないなら捕まっても意味がない。
…私、これからどうすればいいんでしょうか」
見ているだけで分かる。
恐らく彼女は後を追おうとしていて、このまま放っておくことはできない。
「…中谷麻友さんは、あなたに笑顔で生きていてほしいと願っています。
立ち止まって考える時間も必要ですが、彼女が望まない方向に進めばふたりとも苦しむことになります」
「それは、」
「あなたの幸せを願う姿を、少しで構わないので思い出してあげてください。…それでは、私はこれで失礼します」
最終的にどうするか決めるのは山本深雪自身だ。
ただ、中谷麻友のことを本気で想っているのならどうするかはもう決まっているだろう。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
偶然ぶつかった子どもを撫で、飴を渡しながらぼんやり考える。
星影氷空は泣きながら言った。
中谷麻友は最後まで大切な人を護りたくて動いた人だったのだと。
「おにいさん、ありがとう」
「どういたしまして」
「ゆうや、行くぞ」
「おにいさん、さよなら」
手をふって別れた後、冷たい風が背中に当たる。
「…どうしてそんなことを知ってるんだ」
星影氷空には何か秘密がある。
確証があるわけではないが、死者について知りすぎているのだ。
データにない情報を掴む何か……
「…何考えてるんだ」
小さく呟きながら、すれ違う人間に会釈する。
──死の香りを感じながら。
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