皓皓、天翔ける

黒蝶

文字の大きさ
上 下
4 / 236
第1章『はじまりの物語』

第3話

しおりを挟む
「列車が来たから乗っただけなんだけど…。宵月君はどうしてここにいるの?」
バイトにしては遅い時間だ。
もう日付をまたいでいるし、そもそも車掌さんのバイトなんてあるはずがない。
あったとしても高校生が勤めるのは無理だろう。
「…切符見せてくれる?」
質問がスルーされてしまったことはさておき、さっきの車掌さんに見せたものと同じものを見せた。
「これがポケットに入ってて…」
切符を見た宵月君は少し複雑そうな表情をする。
「……レアケースだ」
「え?」
「いいって言うまで絶対この部屋から出ないで」
「あ、ちょっと…」
小走りでどこかへ行ってしまった彼の背中を目で追いながら、首を傾げて近くのソファーに体を預ける。
自分が思っていたより疲れていたみたいで、少しうとうとしてしまった。
こんこん、と扉がたたかれる音がして目が覚める。
《す、すみません》
声をかけた方がいいかもしれないと思って体を起こすと、明らかに顔色が悪い人が扉の前に立っていた。
絶対にこの部屋から出るなと言われているけど、体調が悪いなら放っておくわけにはいかない。
「えっと…」
《すみません、すみません……》
扉を開けようとして、様子がおかしいことに気づく。
両足が焼けているのに、どうしてこの人は杖1本で歩けているんだろう。
そもそもどうやって立っているの?
「遅くなってしまい申し訳ありません。お客様、どうされましたか?」
《あの、喉が渇いて…》
「そうですか。お席までご案内します」
宵月君は慣れた手つきでおばあさんを別の車両へ送り届ける。
足から力が抜けて、その場にへたりこんでしまった。
彼には普通の人と変わらず視えたのだろうか。
「大丈夫?」
「あ、うん。さっきの人は?」
「大丈夫。他の車掌に任せてきた」
「そっか」
「……視えてた?」
宵月君は真剣な顔で尋ねてくる。
その言葉に私は首を縦にふった。
「そう。あの人のことが視えるってことは、やっぱり霊力が強いんだろうね」
「れいりょく?」
「簡単に言えば、幽霊を視る力ってこと。俺のは少し違うけど、普通の人間にあのおばあさんは視えない」
話が見えなくて呆然としてしまう。
普通の人には視えない?だけど、さっきたしかにおばあさんがいて…冷静に考えたところで納得した。
「思ったより驚いてなさそうだけど、もしかしてこういう経験は初めてじゃない?」
「うん。…私だけじゃなかったんだね、視えるの」
もう一度ソファーに腰掛け、淹れてくれた紅茶をごちそうになる。
向かい側に座った宵月君は困った顔をしていたものの、恐る恐るといった様子で尋ねてきた。
「霊力がどれくらい強いとか、そういうのは今は置いておいてもいい?」
「うん。この列車のこととか、さっきのおばあさんのこととか…宵月君のことを教えてほしい」
「分かった。順番に話す」
宵月君はひと呼吸おいて、少しずつ話しはじめる。
「まず、この列車は本来死者しか乗れない。…毎日丑の刻にしか運行しない黄泉行列車だから」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

東京カルテル

wakaba1890
ライト文芸
2036年。BBCジャーナリスト・綾賢一は、独立系のネット掲示板に投稿された、とある動画が発端になり東京出張を言い渡される。 東京に到着して、待っていたのはなんでもない幼い頃の記憶から、より洗練されたクールジャパン日本だった。 だが、東京都を含めた首都圏は、大幅な規制緩和と経済、金融、観光特区を設けた結果、世界中から企業と優秀な人材、莫大な投機が集まり、東京都の税収は年16兆円を超え、名実ともに世界一となった都市は更なる独自の進化を進めていた。 その掴みきれない光の裏に、綾賢一は知らず知らずの内に飲み込まれていく。 東京カルテル 第一巻 BookWalkerにて配信中。 https://bookwalker.jp/de6fe08a9e-8b2d-4941-a92d-94aea5419af7/

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)

青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。 けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。 マルガレータ様は実家に帰られる際、 「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。 信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!! でも、それは見事に裏切られて・・・・・・ ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。 エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。 元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。

ベスティエンⅢ【改訂版】

花閂
ライト文芸
美少女と強面との美女と野獣っぽい青春恋愛物語。 恋するオトメと武人のプライドの狭間で葛藤するちょっと天然の少女と、モンスターと恐れられるほどの力を持つ強面との、たまにシリアスたまにコメディな学園生活。 名門お嬢様学校に通う少女が、彼氏を追いかけて地元で恐れられる最悪の不良校に入学。 女子生徒数はわずか1%という環境でかなり注目を集めるなか、入学早々に不良をのしてしまったり暴走族にさらわれてしまったり、彼氏の心配をよそに前途多難な学園生活。 不良たちに暴君と恐れられる彼氏に溺愛されながらも、さらに事件に巻き込まれていく。 人間の女に恋をしたモンスターのお話がハッピーエンドだったことはない。 鐵のような両腕を持ち、鋼のような無慈悲さで、鬼と怖れられ獣と罵られ、己のサガを自覚しながらも 恋して焦がれて、愛さずにはいられない。

隣の古道具屋さん

雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。 幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。 そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。 修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。

死者に咲く花

水瀬白龍
現代文学
 死者からは純白の花が咲き誇る。死者に咲く花を生者から守るのが「墓の守り人」と呼ばれる一族の務めであった。隔離された墓場で孤独に生きるはずであった墓の守り人のイエンは、しかし、掟を破り、一人の少女と交流を深めてゆく――。   ※カクヨム様、小説家になろう様にて重複投稿しております。

深紅の愛「Crimson of love」~モブキャラ喪女&超美形ヴァンパイアの戀物語~

大和撫子
ライト文芸
 平和主義者、かつ野菜や植物等を食材とするベジタリアンなヴァンパイア、異端なる者。  その者は1000年以上もの間探し求めていた、人間の乙女を。  自他(?)共に認めるモブキャラ喪女、武永薔子《たけながしょうこ》は、美人の姉麗華と可愛い妹蕾を姉妹に持つ。両親どもに俳優という華やかなる家族に囲まれ、薔子は齢17にして自分の人生はこんなもんだと諦めていた。とは言うものの、巷で言われているモブキャラ喪女に当てはまる中にも、ポジティブ思考かつ最低限の対人スキルと身だしなみは身につけている! 言わば『新しい(自称)タイプのモブキャラ喪女』と秘かに自負していた。  そんなある日、不思議な男と出会う。彼は何か深く思い悩んでいる様子であった……。彼は薔子の通う学園のスクールカウンセラーとして赴任すると言うのだが?  モブキャラ喪女と超美形ヴァンパイアに芽生えたのは恋??? 果たして……?

恋もバイトも24時間営業?

鏡野ゆう
ライト文芸
とある事情で、今までとは違うコンビニでバイトを始めることになった、あや。 そのお店があるのは、ちょっと変わった人達がいる場所でした。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中です※ ※第3回ほっこり・じんわり大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます。※ ※第6回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます。※

処理中です...