物置小屋

１人向け・other

耳を癒やす魔法(『半人前』)

こんばんは。また来てしまったのか。
こんな時間に来ると危ないし、ここは立入禁止扱いになっているだろうに…。
僕はいいんだ。強いて言えば、ここの管理人みたいなものだから。
ただ、君が疲れた様子なのが気になってね。
この前みたいに身を投げようとしているわけではなさそうだけど、かなり疲れているように見える。
…流石に僕でもそれくらいは分かるよ。
生きているのが辛くなったのか。
上手くいかないことなんて誰にでもある。
だから…結果が全てなんて、悲しいことを言わないでほしい。
この世界はそう思っているのだろうけど、僕は違う。
どういう過程を経て結果にたどり着いたかを考えた方がいいと思っている。
勿論、世の中には努力しなくてもなんでも上手くやっていける人間もいるだろう。
だが、大多数が努力して挫折してしまう。
そこでぽっきり折れてしまう者もいれば、這いつくばって必死で進む者もいるだろう。
どれが正しいかなんて人それぞれだ。
とにかく、今は無理せずここで休んでいけばいい。
…ところで、君はどんな音楽を聴くの？
分からない？だったら、君が聴きたい音は？
…成程、雨の音か。それなら目を閉じて。
音を止めたいと思うまで目を開けてはいけないよ。
…どうだい？素敵な音は聞こえたかな？
どういう仕掛けか？…手品か魔法か、どっちだと思う？
この間みたいに君が好きなように感じればいい。
それを否定できるものなんて誰もいないのだから。
そろそろ戻らないといけないのだろう？…それじゃあ、気をつけて。


…あの子、また来るつもりなんだろうか。
とりあえず僕にできることをやるしかない。
こんなことしかできなくても、いつかあの子が居場所を見つけられるといいな。
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『半人前』シリーズを綴ってみました。