物置小屋

黒蝶

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物語の欠片

ピュアホワイトの純心・中篇(ブラ約)

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「……そう。あのふたり、何をしているのかしら」
クロウから報告を受けたリーゼは、ひとり墓前にたっていた。
「私、今年はひとりではないの。クロウ以外にも大切にしたい人ができた。
何も話せないけれど。…あのときのお礼も、あなたのことも」
さみしげなリーゼを慰めるように冷たい風がさわさわと頬を撫でる。
顔を上げた彼女は家路を急いだ。


「あ…おかえりなさい」
「ただいま」
「やあ、リーゼ。お邪魔させてもらっているよ」
「…事前連絡は大事だと思うけど」
「それはすまない。けど、緊急だったんだ」
リリーが来たということは、吸血鬼事件の捜査に進展があったということだ。
翳りゆく表情さえも美しいと感じた陽和だったが、やはり笑顔になってほしいと決意を新たに先程まで作っていたものを部屋に隠す。
それから3人で夕飯を楽しんだ。


──それからさらに数日が経過し、陽和はほっとした様子で手元のリースを見つめた。
「か、完成しました」
「流石だね。飾るならドアにかけるのがいいだろう。それには魔除けの意味もあるからね」
リリーはこっそり家に来てはリーゼを呆れさせていた。
それでも、陽和にできる限りつきっきりで教えた結果間に合ったのだ。
「あ、あの…ありがとうございました」
「僕は何もしていないよ。お嬢さん、いいクリスマスを」
「クリスマス…?」
きょとんとした陽和の前に、寝起きのリーゼが姿を見せた。
「またリリーと内緒話?」
「あ、おはようございます。内緒話といいますか、その…」
「無理矢理聞こうとは思ってない。食べたら少し出かけてくる」
「あ……」
雪道を歩きながら、らしくないと息を吐く。
陽和の少し寂しそうな表情を思い出して苦しくなったが、リーゼにはどうしてもやりたいことがあった。
急ぎ足で家に戻ると、扉のところに何かがかかっているのが目に入る。
「…リース?」
真っ赤なポインセチアの花に祝福されながら扉を開ける。
ソファーでうとうとしていた陽和がぱっと顔を上げ、リーゼに駆け寄った。
「おかえりなさい。今日は早かったんですね」
「仕事ではなかったから。…これを買いに行っていたの」
色とりどりのオーナメントを並べると、陽和はそのなかのひとつを手にとってじっと見つめていた。
「綺麗な色ですね」
「気に入ってもらえたならよかった。それをこっちの木に飾りつけていくの。…やってみる?」
「はい。やってみたいです」
ふたりで小さな樅の木を飾りつけながら、少しずつ話をする。
「あのリース、とっても綺麗だった」
「リリーさんに教えてもらったんです。リーゼに悪いものが近づいてきたら護ってくれるはずだって言ってました」
親友に感謝しつつ陽和の方を見ると、所々怪我をしているのを見つけた。
「手、見せて」
「こう、ですか?」
差し出された指を、無意識のうちに口にくわえる。
「あ、あの…」
「…ごめんなさい。怪我をしていたから、つい。傷薬を持ってくるから待ってて」
「分かりました」
陽和が純粋だからか生贄の血筋だからか、あるいはもっと別の何かがあるのか。
リーゼは陽和の血を見ると吸い寄せられてしまう。
怖い思いをさせたくないという理性がはたらいているため抑制できるが、もしただ吸血衝動に従うだけの存在だったらかなり危険だった。
焦りを隠しつつ、応急処置を済ませる。
「できた」
「ありがとうございます。あ、あの…リーゼ」
「どうかした?」
「私、クリスマスというものを知らないんです。本で読んだ知識しかなくて…。
初めて作ったものも多いんですけど、食べてもらえませんか?」
ふとテーブルに目をやると、そこにはごちそうが並べられていた。
「これ、全部食べていいの?」
「はい!リーゼに食べてほしいんです」
近くにあったお菓子をひとつまみすると、思わず笑みが零れる。
「……美味しい」
「本当、ですか?無理してませんか?」
「してない」
「…楽しい、ですか?」
陽和の健気な姿に、リーゼは嘘偽りなく答えた。
「楽しい。いつも独りだったから、こうやって一緒に食事をする相手がいるのが不思議な感覚。あなたが楽しんでくれるならもっと楽しめる」
陽和のほっとした表情を確認し、買ってきたものをひとつひとつ見せる。
「クリスマスマーケットというものがある。そこで色々買ってきたから見てほしい。折角作ってくれた食事が冷めるといけないから、今はこの袋だけ」
「ありがとうございます。楽しみです」
陽和の様子を見て安堵しつつ、リーゼは少し緊張していた。
どうしても渡さなければならないものがあるからだ。
「…マーケットで飲み物も買ってきたから、少し飲んでみよう」
「はい!」
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ふたりのクリスマスを綴るのは少し難しいですが、なるべくほっこりした雰囲気になるようにしたいです。
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