1,777 / 1,793
物語の欠片
ピュアホワイトの純心・中篇(ブラ約)
しおりを挟む
「……そう。あのふたり、何をしているのかしら」
クロウから報告を受けたリーゼは、ひとり墓前にたっていた。
「私、今年はひとりではないの。クロウ以外にも大切にしたい人ができた。
何も話せないけれど。…あのときのお礼も、あなたのことも」
さみしげなリーゼを慰めるように冷たい風がさわさわと頬を撫でる。
顔を上げた彼女は家路を急いだ。
「あ…おかえりなさい」
「ただいま」
「やあ、リーゼ。お邪魔させてもらっているよ」
「…事前連絡は大事だと思うけど」
「それはすまない。けど、緊急だったんだ」
リリーが来たということは、吸血鬼事件の捜査に進展があったということだ。
翳りゆく表情さえも美しいと感じた陽和だったが、やはり笑顔になってほしいと決意を新たに先程まで作っていたものを部屋に隠す。
それから3人で夕飯を楽しんだ。
──それからさらに数日が経過し、陽和はほっとした様子で手元のリースを見つめた。
「か、完成しました」
「流石だね。飾るならドアにかけるのがいいだろう。それには魔除けの意味もあるからね」
リリーはこっそり家に来てはリーゼを呆れさせていた。
それでも、陽和にできる限りつきっきりで教えた結果間に合ったのだ。
「あ、あの…ありがとうございました」
「僕は何もしていないよ。お嬢さん、いいクリスマスを」
「クリスマス…?」
きょとんとした陽和の前に、寝起きのリーゼが姿を見せた。
「またリリーと内緒話?」
「あ、おはようございます。内緒話といいますか、その…」
「無理矢理聞こうとは思ってない。食べたら少し出かけてくる」
「あ……」
雪道を歩きながら、らしくないと息を吐く。
陽和の少し寂しそうな表情を思い出して苦しくなったが、リーゼにはどうしてもやりたいことがあった。
急ぎ足で家に戻ると、扉のところに何かがかかっているのが目に入る。
「…リース?」
真っ赤なポインセチアの花に祝福されながら扉を開ける。
ソファーでうとうとしていた陽和がぱっと顔を上げ、リーゼに駆け寄った。
「おかえりなさい。今日は早かったんですね」
「仕事ではなかったから。…これを買いに行っていたの」
色とりどりのオーナメントを並べると、陽和はそのなかのひとつを手にとってじっと見つめていた。
「綺麗な色ですね」
「気に入ってもらえたならよかった。それをこっちの木に飾りつけていくの。…やってみる?」
「はい。やってみたいです」
ふたりで小さな樅の木を飾りつけながら、少しずつ話をする。
「あのリース、とっても綺麗だった」
「リリーさんに教えてもらったんです。リーゼに悪いものが近づいてきたら護ってくれるはずだって言ってました」
親友に感謝しつつ陽和の方を見ると、所々怪我をしているのを見つけた。
「手、見せて」
「こう、ですか?」
差し出された指を、無意識のうちに口にくわえる。
「あ、あの…」
「…ごめんなさい。怪我をしていたから、つい。傷薬を持ってくるから待ってて」
「分かりました」
陽和が純粋だからか生贄の血筋だからか、あるいはもっと別の何かがあるのか。
リーゼは陽和の血を見ると吸い寄せられてしまう。
怖い思いをさせたくないという理性がはたらいているため抑制できるが、もしただ吸血衝動に従うだけの存在だったらかなり危険だった。
焦りを隠しつつ、応急処置を済ませる。
「できた」
「ありがとうございます。あ、あの…リーゼ」
「どうかした?」
「私、クリスマスというものを知らないんです。本で読んだ知識しかなくて…。
初めて作ったものも多いんですけど、食べてもらえませんか?」
ふとテーブルに目をやると、そこにはごちそうが並べられていた。
「これ、全部食べていいの?」
「はい!リーゼに食べてほしいんです」
近くにあったお菓子をひとつまみすると、思わず笑みが零れる。
「……美味しい」
「本当、ですか?無理してませんか?」
「してない」
「…楽しい、ですか?」
陽和の健気な姿に、リーゼは嘘偽りなく答えた。
「楽しい。いつも独りだったから、こうやって一緒に食事をする相手がいるのが不思議な感覚。あなたが楽しんでくれるならもっと楽しめる」
陽和のほっとした表情を確認し、買ってきたものをひとつひとつ見せる。
「クリスマスマーケットというものがある。そこで色々買ってきたから見てほしい。折角作ってくれた食事が冷めるといけないから、今はこの袋だけ」
「ありがとうございます。楽しみです」
陽和の様子を見て安堵しつつ、リーゼは少し緊張していた。
どうしても渡さなければならないものがあるからだ。
「…マーケットで飲み物も買ってきたから、少し飲んでみよう」
「はい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ふたりのクリスマスを綴るのは少し難しいですが、なるべくほっこりした雰囲気になるようにしたいです。
クロウから報告を受けたリーゼは、ひとり墓前にたっていた。
「私、今年はひとりではないの。クロウ以外にも大切にしたい人ができた。
何も話せないけれど。…あのときのお礼も、あなたのことも」
さみしげなリーゼを慰めるように冷たい風がさわさわと頬を撫でる。
顔を上げた彼女は家路を急いだ。
「あ…おかえりなさい」
「ただいま」
「やあ、リーゼ。お邪魔させてもらっているよ」
「…事前連絡は大事だと思うけど」
「それはすまない。けど、緊急だったんだ」
リリーが来たということは、吸血鬼事件の捜査に進展があったということだ。
翳りゆく表情さえも美しいと感じた陽和だったが、やはり笑顔になってほしいと決意を新たに先程まで作っていたものを部屋に隠す。
それから3人で夕飯を楽しんだ。
──それからさらに数日が経過し、陽和はほっとした様子で手元のリースを見つめた。
「か、完成しました」
「流石だね。飾るならドアにかけるのがいいだろう。それには魔除けの意味もあるからね」
リリーはこっそり家に来てはリーゼを呆れさせていた。
それでも、陽和にできる限りつきっきりで教えた結果間に合ったのだ。
「あ、あの…ありがとうございました」
「僕は何もしていないよ。お嬢さん、いいクリスマスを」
「クリスマス…?」
きょとんとした陽和の前に、寝起きのリーゼが姿を見せた。
「またリリーと内緒話?」
「あ、おはようございます。内緒話といいますか、その…」
「無理矢理聞こうとは思ってない。食べたら少し出かけてくる」
「あ……」
雪道を歩きながら、らしくないと息を吐く。
陽和の少し寂しそうな表情を思い出して苦しくなったが、リーゼにはどうしてもやりたいことがあった。
急ぎ足で家に戻ると、扉のところに何かがかかっているのが目に入る。
「…リース?」
真っ赤なポインセチアの花に祝福されながら扉を開ける。
ソファーでうとうとしていた陽和がぱっと顔を上げ、リーゼに駆け寄った。
「おかえりなさい。今日は早かったんですね」
「仕事ではなかったから。…これを買いに行っていたの」
色とりどりのオーナメントを並べると、陽和はそのなかのひとつを手にとってじっと見つめていた。
「綺麗な色ですね」
「気に入ってもらえたならよかった。それをこっちの木に飾りつけていくの。…やってみる?」
「はい。やってみたいです」
ふたりで小さな樅の木を飾りつけながら、少しずつ話をする。
「あのリース、とっても綺麗だった」
「リリーさんに教えてもらったんです。リーゼに悪いものが近づいてきたら護ってくれるはずだって言ってました」
親友に感謝しつつ陽和の方を見ると、所々怪我をしているのを見つけた。
「手、見せて」
「こう、ですか?」
差し出された指を、無意識のうちに口にくわえる。
「あ、あの…」
「…ごめんなさい。怪我をしていたから、つい。傷薬を持ってくるから待ってて」
「分かりました」
陽和が純粋だからか生贄の血筋だからか、あるいはもっと別の何かがあるのか。
リーゼは陽和の血を見ると吸い寄せられてしまう。
怖い思いをさせたくないという理性がはたらいているため抑制できるが、もしただ吸血衝動に従うだけの存在だったらかなり危険だった。
焦りを隠しつつ、応急処置を済ませる。
「できた」
「ありがとうございます。あ、あの…リーゼ」
「どうかした?」
「私、クリスマスというものを知らないんです。本で読んだ知識しかなくて…。
初めて作ったものも多いんですけど、食べてもらえませんか?」
ふとテーブルに目をやると、そこにはごちそうが並べられていた。
「これ、全部食べていいの?」
「はい!リーゼに食べてほしいんです」
近くにあったお菓子をひとつまみすると、思わず笑みが零れる。
「……美味しい」
「本当、ですか?無理してませんか?」
「してない」
「…楽しい、ですか?」
陽和の健気な姿に、リーゼは嘘偽りなく答えた。
「楽しい。いつも独りだったから、こうやって一緒に食事をする相手がいるのが不思議な感覚。あなたが楽しんでくれるならもっと楽しめる」
陽和のほっとした表情を確認し、買ってきたものをひとつひとつ見せる。
「クリスマスマーケットというものがある。そこで色々買ってきたから見てほしい。折角作ってくれた食事が冷めるといけないから、今はこの袋だけ」
「ありがとうございます。楽しみです」
陽和の様子を見て安堵しつつ、リーゼは少し緊張していた。
どうしても渡さなければならないものがあるからだ。
「…マーケットで飲み物も買ってきたから、少し飲んでみよう」
「はい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ふたりのクリスマスを綴るのは少し難しいですが、なるべくほっこりした雰囲気になるようにしたいです。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる