1,787 / 1,805
物語の欠片
バニラとクリスマスとストロベリー(バニスト)
しおりを挟む
「おはよう」
「おはよう。奏、今少し構わないかしら?」
「僕は大丈夫だよ」
お嬢様モードの清香を前に、奏はいつもどおり接する。
誰もいない生徒会室に入ったところで、清香は小さく息を吐いた。
「ごめんなさい。こうでもしないと直接会えなかったから…」
「気にしないで。それより、疲れてない?」
「他の生徒会メンバーにも手伝ってもらっているから平気。それで、その…クリスマス、予定ある?」
「特にないよ。…一緒に出かけようか」
「うん」
清香の笑顔を見て、奏は今日まで忙しくて会えない寂しさを紛らわせてきた。
これからいつものように楽しく過ごせる。
ふたりでデートした後、少しだけ飾りつけた部屋で楽しい時間を過ごす。
……そのはずだった。
「清香、大丈夫?」
「…ごめんなさい。私のせいで間に合わなかったね」
清香の言葉に奏は首をふる。
「怪我したのは清香のせいじゃないでしょ?気にしなくていいんだよ」
毎年ふたりで見る大きなツリーの前で待ち合わせていたのだが、ガラの悪い連中に目をつけられた清香が逃げようとして怪我をしてしまったのだ。
「助けに入ってくれた奏にも怪我をさせて……本当にごめん」
「いいんだよ。僕の怪我より清香の怪我の方が心配だ」
助けに入った奏はわざと頬を殴られ出血した。
そして、周囲に人がいないのを確認してから相手を返り討ちにしたのだ。
「相手には通報しない代わりに大事にしないことを約束させたし、それでいいんだ。
清香が隣にいてくれるだけで充分幸せだし、ふたりで用意したものがまだあるから」
奏は昔から悪意を持ったものや清香を傷つけようとするものには容赦がない。
清香はその強さの理由をよく知っている。
「私も奏を護れるくらい強くなれたらいいのに」
「清香はそのままでいいんだよ。ただ笑って過ごせたら、それだけで心の平穏が保たれるから」
その言葉に安堵した清香は奏の手を握りなおす。
「そろそろ冷えてくるし帰ろう」
「そうだね。…こっちがいいかな」
奏はクラスメイトたちが歩いているのを見つけ、清香を人気がない抜け道へ誘導する。
彼女がどれだけ無理をしているか分かっているからこその行動だった。
会えなかった間の話をしながら少しずつ前へ進む。
「足、痛くない?」
「私は平気。心配してくれてありがとう」
「それならよかった。…あ、ついたよ」
ふたりが入った部屋には、豪華な食事が用意されている。
この日のためにふたりがそれぞれ準備しておいたものが並び、テーブルはほくほくしたものでいっぱいになった。
「このローストビーフ、奏が作ったの?」
「一応ね。清香はケーキを手作りしてきてくれたの?」
「飾りつけ、失敗しちゃったんだけどね」
お互いに顔を見合わせ、心からの笑顔で両手をあわせる。
「「いただきます」」
ふたりともそわそわしながら食事をすませ、片づけた後ラジオの音楽が静かに流れる。
先に口を開いたのは清香だった。
「…来年もこんなふうにふたりで過ごせるかな?」
「過ごせるよ。というか、僕もそうしたい」
そんな会話をして、プレゼントは開けないままふたりはソファーで眠ってしまった。
先に起きたのは奏だ。
首筋にある大きな傷痕を気にしながら清香を抱きかかえる。
「…ありがとう。今年もすごく楽しい1年を過ごせたよ」
ベッドに横たわらせた清香の耳元で想いを囁く。
残った片づけと出かける準備をすませ、再びソファーで横になった。
「それにしても、ふたりして同じことを考えていたなんて以心伝心だね」
「たしかに。僕たちってやっぱり相性がいいんだろうね」
翌朝、冷たい風が吹くなかふたりは買い物デートを楽しむ。
色違いのマフラーを身につけて、お互いのぬくもりを感じるように手を繋いだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バニストシリーズのふたりのクリスマスの話にしてみました。
「おはよう。奏、今少し構わないかしら?」
「僕は大丈夫だよ」
お嬢様モードの清香を前に、奏はいつもどおり接する。
誰もいない生徒会室に入ったところで、清香は小さく息を吐いた。
「ごめんなさい。こうでもしないと直接会えなかったから…」
「気にしないで。それより、疲れてない?」
「他の生徒会メンバーにも手伝ってもらっているから平気。それで、その…クリスマス、予定ある?」
「特にないよ。…一緒に出かけようか」
「うん」
清香の笑顔を見て、奏は今日まで忙しくて会えない寂しさを紛らわせてきた。
これからいつものように楽しく過ごせる。
ふたりでデートした後、少しだけ飾りつけた部屋で楽しい時間を過ごす。
……そのはずだった。
「清香、大丈夫?」
「…ごめんなさい。私のせいで間に合わなかったね」
清香の言葉に奏は首をふる。
「怪我したのは清香のせいじゃないでしょ?気にしなくていいんだよ」
毎年ふたりで見る大きなツリーの前で待ち合わせていたのだが、ガラの悪い連中に目をつけられた清香が逃げようとして怪我をしてしまったのだ。
「助けに入ってくれた奏にも怪我をさせて……本当にごめん」
「いいんだよ。僕の怪我より清香の怪我の方が心配だ」
助けに入った奏はわざと頬を殴られ出血した。
そして、周囲に人がいないのを確認してから相手を返り討ちにしたのだ。
「相手には通報しない代わりに大事にしないことを約束させたし、それでいいんだ。
清香が隣にいてくれるだけで充分幸せだし、ふたりで用意したものがまだあるから」
奏は昔から悪意を持ったものや清香を傷つけようとするものには容赦がない。
清香はその強さの理由をよく知っている。
「私も奏を護れるくらい強くなれたらいいのに」
「清香はそのままでいいんだよ。ただ笑って過ごせたら、それだけで心の平穏が保たれるから」
その言葉に安堵した清香は奏の手を握りなおす。
「そろそろ冷えてくるし帰ろう」
「そうだね。…こっちがいいかな」
奏はクラスメイトたちが歩いているのを見つけ、清香を人気がない抜け道へ誘導する。
彼女がどれだけ無理をしているか分かっているからこその行動だった。
会えなかった間の話をしながら少しずつ前へ進む。
「足、痛くない?」
「私は平気。心配してくれてありがとう」
「それならよかった。…あ、ついたよ」
ふたりが入った部屋には、豪華な食事が用意されている。
この日のためにふたりがそれぞれ準備しておいたものが並び、テーブルはほくほくしたものでいっぱいになった。
「このローストビーフ、奏が作ったの?」
「一応ね。清香はケーキを手作りしてきてくれたの?」
「飾りつけ、失敗しちゃったんだけどね」
お互いに顔を見合わせ、心からの笑顔で両手をあわせる。
「「いただきます」」
ふたりともそわそわしながら食事をすませ、片づけた後ラジオの音楽が静かに流れる。
先に口を開いたのは清香だった。
「…来年もこんなふうにふたりで過ごせるかな?」
「過ごせるよ。というか、僕もそうしたい」
そんな会話をして、プレゼントは開けないままふたりはソファーで眠ってしまった。
先に起きたのは奏だ。
首筋にある大きな傷痕を気にしながら清香を抱きかかえる。
「…ありがとう。今年もすごく楽しい1年を過ごせたよ」
ベッドに横たわらせた清香の耳元で想いを囁く。
残った片づけと出かける準備をすませ、再びソファーで横になった。
「それにしても、ふたりして同じことを考えていたなんて以心伝心だね」
「たしかに。僕たちってやっぱり相性がいいんだろうね」
翌朝、冷たい風が吹くなかふたりは買い物デートを楽しむ。
色違いのマフラーを身につけて、お互いのぬくもりを感じるように手を繋いだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バニストシリーズのふたりのクリスマスの話にしてみました。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【完結】もう関わらないでくれませんか、お母様?娘は学び、淑女になろうとしていますよ。
BBやっこ
大衆娯楽
貴族の家、女に産まれたからには、手本は母だった。
『お母様のような淑女になりなさい』
お父様もそう言ってた。けど成長するにつれお母様の違和感が強くなり…。
私は決めた。母のいう淑女にはならない。新しく目標となる人を見つけたから。
漠然とした淑女像を追わない。なりたい私を見つけたから。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる