物置小屋

黒蝶

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物語の欠片

眼鏡と真面目ちゃんと、憧れと。(双子の勝負)

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「……見つけた」
「なんだ、真面目ちゃんか。何か用?」
眼鏡の少年に声をかけたのは、あるクラスの委員長だ。
ふたりきりの屋上で委員長は指さす。
「今日こそ授業、出てもらうから」
「相変わらず頭が固いね、真面目ちゃんは。…断る。というか、俺が出なくても誰にも迷惑かけてないでしょ?」
「分かった。そっちがそのつもりなら勝負しましょう」
「俺が勝てそうなものじゃないとやらないよ?」
眼鏡をかけ直しながら、少年は委員長の前に立つ。
「…で、何やるの?」
「今日はこれで勝負」
どこから持ってきたのか、委員長はチェス盤に駒を並べはじめた。
「しょうがないな…。恨みっこなしだよ」
こうして、昼休みの勝負が幕を開けた。


「うう…」
「また俺の勝ち。もう諦めてくれる?」
「もう1回!」
一体何度勝負を繰り広げたことだろう。
残念ながら委員長は全敗した。
眼鏡はにやりと笑い、こつんと委員長のでこを弾く。
「もう終わり。授業行けば?」
「…なんで急に教室来なくなっちゃったの?」
「必要な出席日数稼いだから、もういいんだ。あとは自主勉強でカバーするし」
この男のすごいところは、それを有言実行していることだ。
常に学年トップをキープしているため、教師たちも文句を言えない。
「今日も俺が全勝したから、ジュースが飲みたい」
「近くの自販機で買ってくるから、」
「違う違う。帰ってから作ってって言ってんの」
有無を言わせぬ笑みに、委員長は何も言い返せない。
「…いつか私が追い抜いてみせるから」
「それまで気長に待ってるよ」
教室に戻る委員長の背を眼鏡は黙って見送る。
その評定は先程までとは違い、とても冷たいものだった。


「和京、ちょっと来なさい」
放課後職員室に呼び出された委員長は、真っ直ぐ教師の目を見つめる。
「なんでしょうか?」
「おまえも知っているとおり、あいつは問題行動をおこしている。この前も喧嘩したそうじゃないか」
「それは…」
「そろそろ自主退学するよう、あいつに、」
「お願いします!それだけは待ってください!」
委員長は教師に向かって土下座した。
周りの生徒達からの視線が痛かったからか、教師は慌てて声をかける。
「なんでそこまでして庇うんだ」
「先生には関係ありません。…もういいですか?私忙しいので」
「あ、おい、」
まだ何か言いかけていたのをスルーして、委員長はさっさと教室へ戻る。
「…実際何があったのか全然知らないくせに」
誰に言うでもない言葉は窓に吸いこまれていった。


家に帰ると、もうすでに眼鏡がくつろいでいた。
「…怪我、大丈夫なの?」
「そろそろよくなると思う。…で、約束のジュースは?」
子猫の鳴き声を聞きながら、林檎と蜂蜜を入れてミキサーにかける。
「真面目ちゃん」
「……」
「夕陽」
「もうちょっと待って。陽太が作れって言ったんでしょ?」
双子のふたりは互いのことをよく知っている。
陽太が喧嘩をした理由は、暴行を受けていた子猫を助けるためだ。
そして、夕陽の成績がいいのは陽太が時々勉強を教えているからである。
「菜乃葉先輩の伊達眼鏡、いつまで持ってるつもりなの?」
「うーん…永遠に?」
「まあ、いいけど。…ジュース飲んだらまた勝負して」
「いいよ。けど、その前にむぎにご飯やらないと」
双子には、どうしてもあの学校を卒業したい理由がある。
「五目並べ?それとも花札?」
「チェス」
「昼間あんなにやったのに、」
「チェス」
「分かったよ。片付けるからちょっと待ってて」
チェス盤を用意しながら夕陽は尋ねる。
「…先輩と同じ景色、見えそう?」
「どうだろう。今日は無理だった気がする」
「そっか。…なら、私が先に見て知らせるよ」
「駄目。それだけは絶対譲れない」
卒業できずにこの世界からいなくなってしまった、憧れの人の為に。
ふたりは今日も全力で遊んで、休憩しながら勉強して…そうしていつか、素敵な作品をこの世に残したあの人と勝負するのだ。
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がたがたになってしまいましたが、双子の勝負の話にしてみました。
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