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物語の欠片
バニラと短冊とストロベリー(バニスト)※百合表現あり
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「奏」
「清香…」
「明日、もし時間があるなら放課後家に行ってもいい?」
奏の様子がいつもと違うことを見抜いた清香は、誰もいないことを確認して素の状態で話しかける。
奏は少し迷っていたが、清香の真っ直ぐな視線に射抜かれて承諾した。
「僕はいいけど、清香は忙しくないの?」
「平気。生徒会の仕事もだいぶ片づいたから」
「それなら明日はごちそうだね」
「楽しみにしてる。私も何か作っていくよ」
ここ数日、清香はまた生徒会の仕事でばたばたしていた。
七夕に向け、生徒会を中心に笹を設置することになったからだ。
勿論生徒たちが願いを書いた短冊は綺麗につるされている。
「生徒会長、こっちの網飾りってどこに飾ったらいいですか?」
「少し待っていてください。すぐ確認するわ」
いつもどおりいい子を演じながら、清香は内心奏のことが気になってしかたなかった。
──そして迎えた翌日。
「あの、朝倉さん。今日クラスで集まるんだけど、」
「ごめん。先約があるんだ。とても大切な約束だから先延ばしにはできない」
「そっか…」
「…もういい?僕、行かないといけないところがあるから」
帰り道でクラスの男子生徒に呼び止められて、奏はうんざりしたのを隠してなんとか断る。
清香と約束した時間までに、少しでも料理を仕上げておきたい。
そんなことを考えながら自宅の鍵を開こうとすると、ドアノブが回った。
行く前に施錠の確認はしたので閉め忘れたはずはない。
恐る恐る扉を開くと、エプロン姿の清香がキッチンに立っていた。
「おかえり。放送部の仕事はもういいの?」
「あ、うん…」
「ごめん。勝手に合鍵で入らせてもらっちゃった」
そういえば鍵を渡したな…なんて思い返しながら、奏は手を洗って清香の隣に立つ。
「清香こそ、生徒会の仕事はいいの?」
「うん。あとは他の人たちが上手くやってくれるだろうから」
清香の疲労に気づいた奏は座らせようとしたが、清香はふたりでやった方が楽しいからと押し切った。
「できた…」
「清香のハンバーグ、久しぶりに食べる気がする」
「奏がきんぴらとか白和えとか用意してくれてて助かったよ。ありがとう」
ふたりで黙々と食事を摂っていたが、清香が鞄から短冊を取り出す。
「私たちも願い事を書かない?」
「…もしかして、全部手作りで用意してくれた?」
不器用な切り紙に、バランスがあまりよくないプラスチック製の笹…見た瞬間すぐに分かった。
「もっと器用にできればよかったんだけど、これが限界だったんだ。ごめんね」
「ううん。僕、こういうのすごく嬉しい。…誰かと願い事を書くなんて、もう二度とそんな経験しないと思ってたから」
奏は短い髪を触りながら、はっとした様子で食事の続きを促す。
人から距離をとったりとられながら過ごしてきたことを、清香はよく知っている。
だからこそ奏にどんな言葉をかければいいのか分からなかった。
「ごちそうさまでした」
ふたり揃って両手をあわせ、早速願い事を認める。
「何を書くの?」
「内緒。僕のお願い、絶対叶えてほしいから。清香は?」
「秘密。私もお願い叶えてもらいたいから」
書き終えたふたりはすぐ笹にくくりつけた。
「今夜は泊まっていく?久しぶりに話したいし…」
「私も今、泊めてほしいって言おうとしてた」
「嬉しいな」
「ふたりで過ごせるなんて夢みたい…。最近話す時間もなくて寂しかった」
ふたりは抱き合いそのままソファーで横になる。
ふたりの楽しそうな声が響くなか、涼風がふたつの短冊を揺らした。
──ずっとふたりでいられますようにと。
いつかふたりの苦しみがなくなりますようにと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バニストで七夕の話を綴ってみました。
「清香…」
「明日、もし時間があるなら放課後家に行ってもいい?」
奏の様子がいつもと違うことを見抜いた清香は、誰もいないことを確認して素の状態で話しかける。
奏は少し迷っていたが、清香の真っ直ぐな視線に射抜かれて承諾した。
「僕はいいけど、清香は忙しくないの?」
「平気。生徒会の仕事もだいぶ片づいたから」
「それなら明日はごちそうだね」
「楽しみにしてる。私も何か作っていくよ」
ここ数日、清香はまた生徒会の仕事でばたばたしていた。
七夕に向け、生徒会を中心に笹を設置することになったからだ。
勿論生徒たちが願いを書いた短冊は綺麗につるされている。
「生徒会長、こっちの網飾りってどこに飾ったらいいですか?」
「少し待っていてください。すぐ確認するわ」
いつもどおりいい子を演じながら、清香は内心奏のことが気になってしかたなかった。
──そして迎えた翌日。
「あの、朝倉さん。今日クラスで集まるんだけど、」
「ごめん。先約があるんだ。とても大切な約束だから先延ばしにはできない」
「そっか…」
「…もういい?僕、行かないといけないところがあるから」
帰り道でクラスの男子生徒に呼び止められて、奏はうんざりしたのを隠してなんとか断る。
清香と約束した時間までに、少しでも料理を仕上げておきたい。
そんなことを考えながら自宅の鍵を開こうとすると、ドアノブが回った。
行く前に施錠の確認はしたので閉め忘れたはずはない。
恐る恐る扉を開くと、エプロン姿の清香がキッチンに立っていた。
「おかえり。放送部の仕事はもういいの?」
「あ、うん…」
「ごめん。勝手に合鍵で入らせてもらっちゃった」
そういえば鍵を渡したな…なんて思い返しながら、奏は手を洗って清香の隣に立つ。
「清香こそ、生徒会の仕事はいいの?」
「うん。あとは他の人たちが上手くやってくれるだろうから」
清香の疲労に気づいた奏は座らせようとしたが、清香はふたりでやった方が楽しいからと押し切った。
「できた…」
「清香のハンバーグ、久しぶりに食べる気がする」
「奏がきんぴらとか白和えとか用意してくれてて助かったよ。ありがとう」
ふたりで黙々と食事を摂っていたが、清香が鞄から短冊を取り出す。
「私たちも願い事を書かない?」
「…もしかして、全部手作りで用意してくれた?」
不器用な切り紙に、バランスがあまりよくないプラスチック製の笹…見た瞬間すぐに分かった。
「もっと器用にできればよかったんだけど、これが限界だったんだ。ごめんね」
「ううん。僕、こういうのすごく嬉しい。…誰かと願い事を書くなんて、もう二度とそんな経験しないと思ってたから」
奏は短い髪を触りながら、はっとした様子で食事の続きを促す。
人から距離をとったりとられながら過ごしてきたことを、清香はよく知っている。
だからこそ奏にどんな言葉をかければいいのか分からなかった。
「ごちそうさまでした」
ふたり揃って両手をあわせ、早速願い事を認める。
「何を書くの?」
「内緒。僕のお願い、絶対叶えてほしいから。清香は?」
「秘密。私もお願い叶えてもらいたいから」
書き終えたふたりはすぐ笹にくくりつけた。
「今夜は泊まっていく?久しぶりに話したいし…」
「私も今、泊めてほしいって言おうとしてた」
「嬉しいな」
「ふたりで過ごせるなんて夢みたい…。最近話す時間もなくて寂しかった」
ふたりは抱き合いそのままソファーで横になる。
ふたりの楽しそうな声が響くなか、涼風がふたつの短冊を揺らした。
──ずっとふたりでいられますようにと。
いつかふたりの苦しみがなくなりますようにと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バニストで七夕の話を綴ってみました。
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