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物語の欠片
バニラと初詣とストロベリー(バニスト)※GL表現あり
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夜の古書店、奏は自分を迎えに来てくれたであろう影を見つけて声をかける。
「奏、あけましておめでとう」
「清香もおめでとう」
ふたりきりこの場所で、清香は自分を偽らず奏に接している。
「この時間に神社に行くの、初めてかもしれない」
「私も」
「え、そうなの?てっきり行ったことがあるから誘われたんだと思ってた」
「いつも聴いてるラジオ番組で、夜の神社デートが楽しかったっていう内容を投稿している人がいたの。
だから、ちょっとやってみたいと思ったというか…」
だんだん小さくなっていく清香の声に、奏はただ楽しそうに笑った。
「清香、やっぱり可愛いね」
ふたりで手を繋いだまま目的の場所へ向かう。
昼間であれば賑わっていたであろう神社は静かだった。
「この時間に来て正解だったね」
「うん。町にふたりだけで住んでるみたい…」
清香も奏も人が多い場所があまり好きではない。
見られるという環境が苦手な清香と、人の感情を受け取りやすい奏。
理由は少し違えどできるだけ人がいる場所には立ち入りたくないのだ。
「お参りしたらお守り買って帰ろうか。販売所がぎりぎり開いてるみたいだし…」
「お守りってどれを買うのが正解なのかな?」
「それは人によって違うと思うよ。…因みに僕は厄除け。どうするかは見てから決めた方がいい」
「そうだね」
ふたりは手水をしてすぐ二礼二拍手一礼した。
奏がうっすら目を開けると、清香はまだ何かお願いしている。
「何をお願いしたの?」
「内緒。奏は?」
「僕も秘密。お守り買いに行こう」
手を繋いだまま色とりどりに並ぶお守りをぼんやり眺める。
奏は即決したものの、清香は少し迷っていた。
「どれがいいか決まらない?」
「…こっちとこっち、どっちがいい?」
その手には可愛らしい虎が刺繍されたお守りがふたつ取られていて、それぞれ水色の紐と黒の紐が結ばれていた。
「僕なら黒にするけど、清香なら水色が似合うと思う」
「それじゃあ決まり」
そうして購入したお守りのうち、黒い紐の方を奏に渡す。
「あげる。今日付き合ってくれたお礼」
「ありがとう。…それなら、今日一緒にいられた記念に」
実は奏も別のお守りを色違いで購入していたのだ。
流石に厄除けを人にあげるのはどうかと考えた彼女は、幸運守と書かれたお守りを渡した。
「ありがとう。大切にするね」
「僕も大切にするよ」
ふたりが微笑んだ先にあったのは、まだ願い事が書かれていない絵馬だった。
「500円だって。書いてみる?」
「うん。やってみたい!」
休みだからかいつもより元気な様子の清香に、奏は内心安堵していた。
少し前まで忙しさのあまり闇がこもりがちだった瞳をきらきらさせて、今この瞬間を楽しんでいる。
奏にとってはそれが1番の幸せだ。
「書くこと決めた?」
「うん。これ以外願うことなんてないから」
「僕も決まってる。…内緒にしてたら叶うかな?」
「そうなるといいなって思ってる」
清香の言葉に奏は同意して絵馬をかけた。
そして、暗闇の中愛しい恋人の方を見て微笑む。
「今夜は泊まる?」
「行っていいの?」
「勿論」
「それじゃあ、お邪魔させてもらおうかな」
長い階段を降りきったところで、冷えた体を温めあうように抱きしめる。
「今年も沢山想い出を作ろう」
「うん。約束だよ」
しばらくそのままの体勢でいたが、やがて奏が清香の手をひいて歩き出す。
「ちょっとだけコンビニに行ってもいい?」
「賛成!ホットスナックが見たいな」
「今夜は特に冷えてるからね…」
自分がしていたマフラーを渡しながら、奏は清香の手を絶対に離さない。
月明かりに照らされて、ふたりはお互い顔を赤くしながらゆっくり歩く。
《たとえ誰にも許されなくても、大切な恋人と一緒にいられますように》
誰もいなくなった神社で、そう書かれた絵馬がふたつ風に揺られていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
珍しく清香が1度もお嬢様言葉を使わない回になりました。
「奏、あけましておめでとう」
「清香もおめでとう」
ふたりきりこの場所で、清香は自分を偽らず奏に接している。
「この時間に神社に行くの、初めてかもしれない」
「私も」
「え、そうなの?てっきり行ったことがあるから誘われたんだと思ってた」
「いつも聴いてるラジオ番組で、夜の神社デートが楽しかったっていう内容を投稿している人がいたの。
だから、ちょっとやってみたいと思ったというか…」
だんだん小さくなっていく清香の声に、奏はただ楽しそうに笑った。
「清香、やっぱり可愛いね」
ふたりで手を繋いだまま目的の場所へ向かう。
昼間であれば賑わっていたであろう神社は静かだった。
「この時間に来て正解だったね」
「うん。町にふたりだけで住んでるみたい…」
清香も奏も人が多い場所があまり好きではない。
見られるという環境が苦手な清香と、人の感情を受け取りやすい奏。
理由は少し違えどできるだけ人がいる場所には立ち入りたくないのだ。
「お参りしたらお守り買って帰ろうか。販売所がぎりぎり開いてるみたいだし…」
「お守りってどれを買うのが正解なのかな?」
「それは人によって違うと思うよ。…因みに僕は厄除け。どうするかは見てから決めた方がいい」
「そうだね」
ふたりは手水をしてすぐ二礼二拍手一礼した。
奏がうっすら目を開けると、清香はまだ何かお願いしている。
「何をお願いしたの?」
「内緒。奏は?」
「僕も秘密。お守り買いに行こう」
手を繋いだまま色とりどりに並ぶお守りをぼんやり眺める。
奏は即決したものの、清香は少し迷っていた。
「どれがいいか決まらない?」
「…こっちとこっち、どっちがいい?」
その手には可愛らしい虎が刺繍されたお守りがふたつ取られていて、それぞれ水色の紐と黒の紐が結ばれていた。
「僕なら黒にするけど、清香なら水色が似合うと思う」
「それじゃあ決まり」
そうして購入したお守りのうち、黒い紐の方を奏に渡す。
「あげる。今日付き合ってくれたお礼」
「ありがとう。…それなら、今日一緒にいられた記念に」
実は奏も別のお守りを色違いで購入していたのだ。
流石に厄除けを人にあげるのはどうかと考えた彼女は、幸運守と書かれたお守りを渡した。
「ありがとう。大切にするね」
「僕も大切にするよ」
ふたりが微笑んだ先にあったのは、まだ願い事が書かれていない絵馬だった。
「500円だって。書いてみる?」
「うん。やってみたい!」
休みだからかいつもより元気な様子の清香に、奏は内心安堵していた。
少し前まで忙しさのあまり闇がこもりがちだった瞳をきらきらさせて、今この瞬間を楽しんでいる。
奏にとってはそれが1番の幸せだ。
「書くこと決めた?」
「うん。これ以外願うことなんてないから」
「僕も決まってる。…内緒にしてたら叶うかな?」
「そうなるといいなって思ってる」
清香の言葉に奏は同意して絵馬をかけた。
そして、暗闇の中愛しい恋人の方を見て微笑む。
「今夜は泊まる?」
「行っていいの?」
「勿論」
「それじゃあ、お邪魔させてもらおうかな」
長い階段を降りきったところで、冷えた体を温めあうように抱きしめる。
「今年も沢山想い出を作ろう」
「うん。約束だよ」
しばらくそのままの体勢でいたが、やがて奏が清香の手をひいて歩き出す。
「ちょっとだけコンビニに行ってもいい?」
「賛成!ホットスナックが見たいな」
「今夜は特に冷えてるからね…」
自分がしていたマフラーを渡しながら、奏は清香の手を絶対に離さない。
月明かりに照らされて、ふたりはお互い顔を赤くしながらゆっくり歩く。
《たとえ誰にも許されなくても、大切な恋人と一緒にいられますように》
誰もいなくなった神社で、そう書かれた絵馬がふたつ風に揺られていた。
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珍しく清香が1度もお嬢様言葉を使わない回になりました。
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