1,746 / 1,805
物語の欠片
バニラとかぼちゃとストロベリー※異性間以外の恋愛ものが苦手な方は読まないことをおすすめします…(バニスト)
しおりを挟む
「時任会長、こっちの書類の確認をお願いします」
「分かりました。ありがとう」
「会長、少しトラブルが発生したようです」
「すぐに行きます」
いつもとは少し違う日常に、奏は内心ため息を吐いた。
朝から呼び止められっぱなしの清香と一言も話せていないからだ。
「朝倉さん」
「ごめん、すぐ行く」
こうしてハロウィン間近の学園祭は慌ただしく終わっていく。
いつもと同じ男子生徒に呼び止められた奏は、未だに清香に会いに行けなかった。
「朝倉さん、今ちょっといい?」
ようやく終わったと思ったところで再び呼び止められる。
早く疲れ切っているであろう清香のところに行きたい気持ちはあるが、強引に振り切るわけにはいかない。
「どうかしたの?」
「あの…この後、予定空いてる?もしよかったら一緒に打ち上げしようって話してるんだけど、どうかな?」
「……ごめん。誘い自体はありがたいけど行けない。僕にはこれから大切な用事があるんだ」
引き止めようとする男子生徒に一礼して、そのまま真っ直ぐ愛しい人のところまで駆け抜ける。
毎日いい子という仮面を被って生活している清香だって、そろそろ限界なはずだ。
「清香!」
名前を呼ばれた清香は笑顔を隠しながらゆっくり奏に近づく。
ふたりの時間はここからはじまるのだ。
「今夜は泊まっていくでしょ?」
「うん」
奏の家、ふたりはいつものように会話する。
清香の表情は暗いものだったが、そのことに気づかない奏ではない。
「何か気になることでもあった?」
「え?」
「それとも、僕が気づかないうちに何かしちゃったのかな?」
かぼちゃのポタージュを運び、1度清香の前に座る。
ようやく合った視線から感じたのは申し訳なさだった。
「全然話せてなかったから、申し訳ないなって思ってたんだ。
それから…打ち上げ、奏は行ってきてよかったんだよ。私は苦手だから断っちゃったけどね」
清香は自分のせいで奏が打ち上げの誘いを断ったのではと感じたのだ。
だが、奏にはそんなつもりは全くない。
「僕もあんまり好きじゃないんだ。うわべだけのつきあいの人とか、よく知らない人の相手とか…違うと思っても、そうだねって言うしかない同調圧力が。
それに、僕は清香と一緒に過ごしたかったんだ。少しでもいいからパーティがしたかった」
人とあまり深く関わりたいと思っていない…ましてやクラスにほとんど存在していないも同然の奏にとって、打ち上げなんて苦痛でしかなかった。
それよりも大切な人と一緒に過ごす時間の方がずっとかけがえのないものだ。
「奏」
「どうかしたの?」
「…お菓子、ある?」
「かぼちゃクッキーなら焼いた。清香こそ、お菓子を持ってないなら──」
そこまで言ったところで口の中に甘さが広がる。
「かぼちゃ風味のチョコレート、買っておいたんだ」
「悪戯されたいのかと思ってたのに、残念」
「料理が冷めちゃう前に食べよう。僕、結構お腹空いちゃった」
「ありがとう」
今奏の目の前にいるのは、完璧な生徒会長の仮面をかぶった時任清香ではない。
可愛いものと甘いものに目がない、何にも縛られていないただの恋人の清香だ。
そして、清香の目の前にいるのもまた冷たい画面をかぶった朝倉奏ではない。
可愛いものが大好きで、いつもどおりかっこいいただの奏だ。
「奏、また料理の腕をあげたんじゃない?」
「そうかな?あんまり深く考えてなかったけど、清香がそう言ってくれるならそうかもしれない」
清香が食べてくれる姿を思い浮かべて作ったから美味しくできたなんて言ったら、困らせてしまうだろうか。
「「ごちそうさまでした」」
片づけがひと段落したところで、奏は本を読んでいた清香の頭に手を伸ばした。
「…清香、ちょっとじっとしててね」
「な、なに?」
「できた」
小さめの鏡を持ってくると、清香はそこに写った自分に少し驚く。
「猫耳カチューシャなんていつ用意したの?」
「内緒。やっぱり可愛い」
「奏も一緒に、」
「僕はこっちがいいんだ」
魔女の帽子を身につけた奏は、とても楽しそうに笑っている。
清香は微笑んでポケットから小さなキーホルダーを取り出した。
「魔女の帽子をかぶった猫ちゃん、どっちがいい?」
「僕がもらっていいの?」
「おそろいのものを持ちたい相手なんて奏以外考えられないもん」
その言葉に胸を撃ち抜かれ、その場に倒れそうになる。
「奏?」
「無自覚で可愛いこと言うからどきどきしちゃった」
「……?」
清香の左手を握って、奏は薬指にさり気なく指輪をはめる。
「こっちの黒い子にしようかな。ありがとう。大切にするね」
「奏、これ…」
「安物だけど、いつか本物をはめるまでの僕なりの誓い。少し色が違うけど、清香にはきっとその水色が似合う」
そう話す奏の首には見慣れない細めのネックレスチェーンがついていて、その中心では銀色のリングが輝いていた。
「僕たちの関係はあんまり公にできるものじゃないけど、いつかふたりで叶えよう」
「ありがとう。…すごく嬉しい」
いつかいい子から解放されたくてもがく清香と、これからも男性っぽい振る舞いをやめるつもりがない奏。
ふたりの恋路には障害が多いだろうが、ふたり一緒なら乗り越えられる。
「また泊まりに来てもいい?」
「勿論だよ。清香ならいつでも歓迎する」
ふたりは抱きしめあったままベッドに横になる。
ジャック・オ・ランタンやハロウィン仕様のぬいぐるみに囲まれながら、手を繋いで話をした。
今日までお互いどんなことをしていたのかを思い出しながら。…明るい未来を想像しながら。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
若干荒くなってしまった気もするのですが、バニラとストロベリーのシリーズを綴ってみました。
「分かりました。ありがとう」
「会長、少しトラブルが発生したようです」
「すぐに行きます」
いつもとは少し違う日常に、奏は内心ため息を吐いた。
朝から呼び止められっぱなしの清香と一言も話せていないからだ。
「朝倉さん」
「ごめん、すぐ行く」
こうしてハロウィン間近の学園祭は慌ただしく終わっていく。
いつもと同じ男子生徒に呼び止められた奏は、未だに清香に会いに行けなかった。
「朝倉さん、今ちょっといい?」
ようやく終わったと思ったところで再び呼び止められる。
早く疲れ切っているであろう清香のところに行きたい気持ちはあるが、強引に振り切るわけにはいかない。
「どうかしたの?」
「あの…この後、予定空いてる?もしよかったら一緒に打ち上げしようって話してるんだけど、どうかな?」
「……ごめん。誘い自体はありがたいけど行けない。僕にはこれから大切な用事があるんだ」
引き止めようとする男子生徒に一礼して、そのまま真っ直ぐ愛しい人のところまで駆け抜ける。
毎日いい子という仮面を被って生活している清香だって、そろそろ限界なはずだ。
「清香!」
名前を呼ばれた清香は笑顔を隠しながらゆっくり奏に近づく。
ふたりの時間はここからはじまるのだ。
「今夜は泊まっていくでしょ?」
「うん」
奏の家、ふたりはいつものように会話する。
清香の表情は暗いものだったが、そのことに気づかない奏ではない。
「何か気になることでもあった?」
「え?」
「それとも、僕が気づかないうちに何かしちゃったのかな?」
かぼちゃのポタージュを運び、1度清香の前に座る。
ようやく合った視線から感じたのは申し訳なさだった。
「全然話せてなかったから、申し訳ないなって思ってたんだ。
それから…打ち上げ、奏は行ってきてよかったんだよ。私は苦手だから断っちゃったけどね」
清香は自分のせいで奏が打ち上げの誘いを断ったのではと感じたのだ。
だが、奏にはそんなつもりは全くない。
「僕もあんまり好きじゃないんだ。うわべだけのつきあいの人とか、よく知らない人の相手とか…違うと思っても、そうだねって言うしかない同調圧力が。
それに、僕は清香と一緒に過ごしたかったんだ。少しでもいいからパーティがしたかった」
人とあまり深く関わりたいと思っていない…ましてやクラスにほとんど存在していないも同然の奏にとって、打ち上げなんて苦痛でしかなかった。
それよりも大切な人と一緒に過ごす時間の方がずっとかけがえのないものだ。
「奏」
「どうかしたの?」
「…お菓子、ある?」
「かぼちゃクッキーなら焼いた。清香こそ、お菓子を持ってないなら──」
そこまで言ったところで口の中に甘さが広がる。
「かぼちゃ風味のチョコレート、買っておいたんだ」
「悪戯されたいのかと思ってたのに、残念」
「料理が冷めちゃう前に食べよう。僕、結構お腹空いちゃった」
「ありがとう」
今奏の目の前にいるのは、完璧な生徒会長の仮面をかぶった時任清香ではない。
可愛いものと甘いものに目がない、何にも縛られていないただの恋人の清香だ。
そして、清香の目の前にいるのもまた冷たい画面をかぶった朝倉奏ではない。
可愛いものが大好きで、いつもどおりかっこいいただの奏だ。
「奏、また料理の腕をあげたんじゃない?」
「そうかな?あんまり深く考えてなかったけど、清香がそう言ってくれるならそうかもしれない」
清香が食べてくれる姿を思い浮かべて作ったから美味しくできたなんて言ったら、困らせてしまうだろうか。
「「ごちそうさまでした」」
片づけがひと段落したところで、奏は本を読んでいた清香の頭に手を伸ばした。
「…清香、ちょっとじっとしててね」
「な、なに?」
「できた」
小さめの鏡を持ってくると、清香はそこに写った自分に少し驚く。
「猫耳カチューシャなんていつ用意したの?」
「内緒。やっぱり可愛い」
「奏も一緒に、」
「僕はこっちがいいんだ」
魔女の帽子を身につけた奏は、とても楽しそうに笑っている。
清香は微笑んでポケットから小さなキーホルダーを取り出した。
「魔女の帽子をかぶった猫ちゃん、どっちがいい?」
「僕がもらっていいの?」
「おそろいのものを持ちたい相手なんて奏以外考えられないもん」
その言葉に胸を撃ち抜かれ、その場に倒れそうになる。
「奏?」
「無自覚で可愛いこと言うからどきどきしちゃった」
「……?」
清香の左手を握って、奏は薬指にさり気なく指輪をはめる。
「こっちの黒い子にしようかな。ありがとう。大切にするね」
「奏、これ…」
「安物だけど、いつか本物をはめるまでの僕なりの誓い。少し色が違うけど、清香にはきっとその水色が似合う」
そう話す奏の首には見慣れない細めのネックレスチェーンがついていて、その中心では銀色のリングが輝いていた。
「僕たちの関係はあんまり公にできるものじゃないけど、いつかふたりで叶えよう」
「ありがとう。…すごく嬉しい」
いつかいい子から解放されたくてもがく清香と、これからも男性っぽい振る舞いをやめるつもりがない奏。
ふたりの恋路には障害が多いだろうが、ふたり一緒なら乗り越えられる。
「また泊まりに来てもいい?」
「勿論だよ。清香ならいつでも歓迎する」
ふたりは抱きしめあったままベッドに横になる。
ジャック・オ・ランタンやハロウィン仕様のぬいぐるみに囲まれながら、手を繋いで話をした。
今日までお互いどんなことをしていたのかを思い出しながら。…明るい未来を想像しながら。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
若干荒くなってしまった気もするのですが、バニラとストロベリーのシリーズを綴ってみました。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
アレンジ可シチュボ等のフリー台本集77選
上津英
大衆娯楽
シチュエーションボイス等のフリー台本集です。女性向けで書いていますが、男性向けでの使用も可です。
一人用の短い恋愛系中心。
【利用規約】
・一人称・語尾・方言・男女逆転などのアレンジはご自由に。
・シチュボ以外にもASMR・ボイスドラマ・朗読・配信・声劇にどうぞお使いください。
・個人の使用報告は不要ですが、クレジットの表記はお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる