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冬真ルート
第31話
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「いえ。ただ…勝手に出てしまってごめんなさい」
外に出ないように言われていたのに、結局中庭みたいなところまで出てしまった。
ただ、冬香さんがどうやってここに入ったのか気になる。
「やっぱり何か気になることでもあるんじゃない?」
「ごめんなさい、本当になんでもないんです。蕀さんたちをお部屋に入れてもいいですか?」
「…いつも疑問に思ってたこと、訊いてもいい?」
「は、はい」
どんなことなのか少しだけ不安に思いながら言葉が発せられるのを待っていると、冬真は遠慮がちに尋ねてきた。
「その蕀にいつもさんづけしてるのはなんで?」
「蕀さんの呼び方、ですか?」
「うん。何か理由があるのか、単純に癖だからなのか分からなかったから。ずっと気になってたんだ」
深く考えたことなんてなかった。
ただ、なんとなくこれかもしれないというものは思いつく。
「…私にとって、あの場所にいた頃のお友だちは蕀さんだけだったからです。誰かが近づいてきそうなときや、何かが迫ってきているとき、いつも教えてもらっていました。
…何もできない私と違って、蕀さんたちは本当にすごいんです」
なんとか答えると、冬真がはっきり一言告げた。
「君は自分を否定する思いが強すぎる」
その言葉の意味が分からなくて、ただ首を傾げる。
私はただ本当のことを言っただけなのに、どうして彼は悲しそうな顔をしているんだろう。
「…無意識なんだとは思うけど、自分のことを何もできないとかなんかなんて言葉で表現しないでほしい」
「私が何もできないのは本当のことで、」
「そんなことない。いつだって誰かの為にできることを探してるのは見れば分かる。
それに、料理だってやってくれてるし…それって、誰にでもできることじゃないと思う」
また優しい言葉をかけてくれて、その気持ちは本当に温かい。
だんだん視界がぼやけてきて、自分が泣いていることに気づいた。
「ご、ごめんなさい…」
「僕の方こそごめん。泣かせたかったわけじゃないんだ」
壊れ物に触るように、冬真は優しく頭を撫でてくれた。
その手は心を表しているみたいに温かくて安心する。
どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。
相変わらず理由は分からないままだけれど、この人と一緒ならほっとする。
涙が止まるまで何も言わずに側で待っていてくれて、それもただただありがたい。
「…ここで待ってて」
部屋に入るよう促されて、まだ涙でよく見えないなかベッドに座る。
一応蔦の中に紛れこませて冬香さんに渡された花を持ってこられた。
取り敢えずそれを部屋に飾ってお世話してみることにする。
この行動にどんな意味があるのか分からないけれど、折角頼んでくれたのだから頑張ってみたい。
扉の向こうで何か話しているのは聞こえたものの、ちゃんと聞き取らずにそのままぼんやりしていた。
外に出ないように言われていたのに、結局中庭みたいなところまで出てしまった。
ただ、冬香さんがどうやってここに入ったのか気になる。
「やっぱり何か気になることでもあるんじゃない?」
「ごめんなさい、本当になんでもないんです。蕀さんたちをお部屋に入れてもいいですか?」
「…いつも疑問に思ってたこと、訊いてもいい?」
「は、はい」
どんなことなのか少しだけ不安に思いながら言葉が発せられるのを待っていると、冬真は遠慮がちに尋ねてきた。
「その蕀にいつもさんづけしてるのはなんで?」
「蕀さんの呼び方、ですか?」
「うん。何か理由があるのか、単純に癖だからなのか分からなかったから。ずっと気になってたんだ」
深く考えたことなんてなかった。
ただ、なんとなくこれかもしれないというものは思いつく。
「…私にとって、あの場所にいた頃のお友だちは蕀さんだけだったからです。誰かが近づいてきそうなときや、何かが迫ってきているとき、いつも教えてもらっていました。
…何もできない私と違って、蕀さんたちは本当にすごいんです」
なんとか答えると、冬真がはっきり一言告げた。
「君は自分を否定する思いが強すぎる」
その言葉の意味が分からなくて、ただ首を傾げる。
私はただ本当のことを言っただけなのに、どうして彼は悲しそうな顔をしているんだろう。
「…無意識なんだとは思うけど、自分のことを何もできないとかなんかなんて言葉で表現しないでほしい」
「私が何もできないのは本当のことで、」
「そんなことない。いつだって誰かの為にできることを探してるのは見れば分かる。
それに、料理だってやってくれてるし…それって、誰にでもできることじゃないと思う」
また優しい言葉をかけてくれて、その気持ちは本当に温かい。
だんだん視界がぼやけてきて、自分が泣いていることに気づいた。
「ご、ごめんなさい…」
「僕の方こそごめん。泣かせたかったわけじゃないんだ」
壊れ物に触るように、冬真は優しく頭を撫でてくれた。
その手は心を表しているみたいに温かくて安心する。
どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。
相変わらず理由は分からないままだけれど、この人と一緒ならほっとする。
涙が止まるまで何も言わずに側で待っていてくれて、それもただただありがたい。
「…ここで待ってて」
部屋に入るよう促されて、まだ涙でよく見えないなかベッドに座る。
一応蔦の中に紛れこませて冬香さんに渡された花を持ってこられた。
取り敢えずそれを部屋に飾ってお世話してみることにする。
この行動にどんな意味があるのか分からないけれど、折角頼んでくれたのだから頑張ってみたい。
扉の向こうで何か話しているのは聞こえたものの、ちゃんと聞き取らずにそのままぼんやりしていた。
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