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秋久ルート
第28話
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「おはよう。秋久さん、こんなに豪華なもの作ってた?」
「これはお嬢ちゃんが作ったもんなんだ。俺じゃ繊細な盛りつけはできないからな」
「…君、すごいね」
「あ、ありがとうございます」
初めて役に立てた気がする。
内心ほっとしていると、ふたりが席についた。
どこに座ろうか迷ったものの、秋久さんの近くに自分が食べる分を置く。
「いただきます。…やっぱり美味いな」
「…美味しい」
「ありがとうございます」
いつもどおり作っただけなのに、美味しいと言ってもらえるのはやっぱり嬉しい。
「冬真、まだ家にいて間に合うのか?今日は午前中から講義が始まるはずだろ?」
「その時間、先生が来られなくなったから休みになるって学校から連絡がきてた」
「そうか。悪いな、泊めてもらって」
「全然。嫌な思いをしてるわけじゃないし、そんなに気にしないで。
…それに、たまにはこうやって誰かがいる朝も悪くないって思ったよ」
「そうか」
ふたりの会話を聞いていると、とても仲がいいのはすぐ分かった。
のろのろと困った様子でこちらに向かって歩いてくる甘栗が視界の隅に入って、一旦箸を持つ手を止める。
「お嬢ちゃん?」
「すみません、甘栗が困っているみたいなので見てきます」
もしかすると、いつもと周りの景色が違うから戸惑っているのかもしれない。
そう思って不安がっているんじゃないかと考えただけで、なんだか放っておけなくなる。
「甘栗、大丈夫ですか?」
「…あら、あなたがお嬢さん?」
その声は知らない人のもので、顔をあげるのが怖くなる。
「そんなに怯えなくても、私はただ自分の部下がしでかしたことをお詫びしに来ただけなの」
「どういう、ことですか…?」
甘栗を抱きあげるのとほぼ同時に、秋久さんが勢いよく部屋に入ってきた。
「何しに来た、カルナ」
「私はただ詫びに来ただけ。それに、部下たちがあなたに渡してほしいって言ってたものがあるから、ついでにね」
お茶目な女性のがカルナさんという人なのだとこのとき初めて気づく。
「それならせめて玄関から入ってきてほしいんだけど」
「あら、ごめんなさい。いつもの癖で、つい窓から入っちゃった。それにしても、いつものことながら気配を消すのが得意なのね」
癖で窓から入るなんて、普段どんな暮らしをしているんだろう。
想像しきれずに首を傾げていると、女性の口角がゆっくり持ち上がった。
「お嬢さん、随分可愛らしいのね」
「えっと、ありがとうございます…?」
「まあ、何か困ったことがあったらすぐ言って頂戴。私たちの全てを結集して手を貸すから」
「ありがとうございます」
「私、律儀な子は好きよ。それに、カルテットには恩を返したいところだしね」
それだけ話してどこかへ消えてしまった女性を探してはみるけれど、その姿はもうどこにもない。
膝の上で甘栗が安心したように体を丸めた。
「これはお嬢ちゃんが作ったもんなんだ。俺じゃ繊細な盛りつけはできないからな」
「…君、すごいね」
「あ、ありがとうございます」
初めて役に立てた気がする。
内心ほっとしていると、ふたりが席についた。
どこに座ろうか迷ったものの、秋久さんの近くに自分が食べる分を置く。
「いただきます。…やっぱり美味いな」
「…美味しい」
「ありがとうございます」
いつもどおり作っただけなのに、美味しいと言ってもらえるのはやっぱり嬉しい。
「冬真、まだ家にいて間に合うのか?今日は午前中から講義が始まるはずだろ?」
「その時間、先生が来られなくなったから休みになるって学校から連絡がきてた」
「そうか。悪いな、泊めてもらって」
「全然。嫌な思いをしてるわけじゃないし、そんなに気にしないで。
…それに、たまにはこうやって誰かがいる朝も悪くないって思ったよ」
「そうか」
ふたりの会話を聞いていると、とても仲がいいのはすぐ分かった。
のろのろと困った様子でこちらに向かって歩いてくる甘栗が視界の隅に入って、一旦箸を持つ手を止める。
「お嬢ちゃん?」
「すみません、甘栗が困っているみたいなので見てきます」
もしかすると、いつもと周りの景色が違うから戸惑っているのかもしれない。
そう思って不安がっているんじゃないかと考えただけで、なんだか放っておけなくなる。
「甘栗、大丈夫ですか?」
「…あら、あなたがお嬢さん?」
その声は知らない人のもので、顔をあげるのが怖くなる。
「そんなに怯えなくても、私はただ自分の部下がしでかしたことをお詫びしに来ただけなの」
「どういう、ことですか…?」
甘栗を抱きあげるのとほぼ同時に、秋久さんが勢いよく部屋に入ってきた。
「何しに来た、カルナ」
「私はただ詫びに来ただけ。それに、部下たちがあなたに渡してほしいって言ってたものがあるから、ついでにね」
お茶目な女性のがカルナさんという人なのだとこのとき初めて気づく。
「それならせめて玄関から入ってきてほしいんだけど」
「あら、ごめんなさい。いつもの癖で、つい窓から入っちゃった。それにしても、いつものことながら気配を消すのが得意なのね」
癖で窓から入るなんて、普段どんな暮らしをしているんだろう。
想像しきれずに首を傾げていると、女性の口角がゆっくり持ち上がった。
「お嬢さん、随分可愛らしいのね」
「えっと、ありがとうございます…?」
「まあ、何か困ったことがあったらすぐ言って頂戴。私たちの全てを結集して手を貸すから」
「ありがとうございます」
「私、律儀な子は好きよ。それに、カルテットには恩を返したいところだしね」
それだけ話してどこかへ消えてしまった女性を探してはみるけれど、その姿はもうどこにもない。
膝の上で甘栗が安心したように体を丸めた。
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