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秋久ルート
第27話
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これからどうなるんだろうと不安に思いながら、私は今甘栗の近くで料理をしている。
「もう少しでできあがるので、待っててくださいね」
座っているのを気にしながら少しずつ仕上げていく。
「悪いな、お嬢ちゃん。任せっきりにして」
「いえ。料理をするのは好きなので…。朝ごはん、もうすぐ完成します」
「ああ。ありがとう」
あれからそのまま冬真さんに泊めてもらったので、そのお礼も兼ねて何かしたかった。
ただ、私にできるのはこんなふうにご飯を作ることだけだ。
まだ起きてきたところを見てないけれど、もしかして早起きが苦手なのだろうか。
「冬真さんは、まだ寝ているんですか?」
「昨日遅くまで色々やってたみたいだからな。もう少し寝かせてやりたい」
「分かりました」
そう答えながら、ひとつ気になっていることがある。
「あの、秋久さんは何をしているんですか?」
「ん?ああ、仕事で必要な手袋に穴が開いててな。昔から使ってるものだから直してみようと思ってる」
大切なものなのに私なんかが言ってしまっていいのか迷ったけれど、秋久さんにはずっとお世話になしっぱなしだ。
もっとできることがあるならやってみたい。
「私が直してみても、いいですか?」
「お嬢ちゃん、縫い物が得意なのか?」
「得意かどうかは分からないです。ただ、前にいた場所で自分の服を修繕するくらいならやっていました」
「…成程、だから持ってた服のほとんどに綺麗な手縫いの形跡があったのか」
「あの…?」
「悪い、こっちの話だ。お嬢ちゃんの腕を見込んで頼んでいいか?」
「私でよければ、頑張ります」
ちゃんと綺麗になるように頑張ろうと心に決めて、早速持ち歩いていた裁縫道具を取り出す。
「本格的だな」
「そんなことないと思います」
本当なら、素直にありがとうと伝えるのがいいのかもしれないけれど、どうしても真っ直ぐ受け取ることができない。
「すぐ仕上げますね」
「ありがとう」
その穴は思ったよりも小さくて、5分くらいで完成した。
その様子をずっと見られていたのか、秋久さんはただぽかんとした表情でこちらを見ている。
「あ、あの…」
声をかけると、何故か彼は笑い出した。
「ごめんなさい。どこかおかしかったでしょうか?」
「いや、そうじゃなくて…まさかここまで綺麗に直ると思ってなかったんだ。それに、もはやプロ並みの早さだと思って見てた。
お嬢ちゃんができたそれは、決して誰にでもできることじゃない。それだけは覚えておいてくれ」
「ぜ、善処します」
「よろしい」
直したものを手渡すと、秋久さんはとても複雑そうな表情をしていた。
失敗したかもしれないと思ったけれど、そういうわけではないらしい。
喜びと切なさ、悲しみ…色々な感情がごちゃごちゃと混ざっている。
「急に頼んだのに、丁寧に直してくれてありがとな。これからも大切に使うことにする」
「役に立ててよかったです」
態度に疑問を感じながら、取り敢えず失敗したわけではなさそうだということに安心する。
もしかすると、さっき直したものに対して大切以外の感情があるのかもしれない。
「もう少しでできあがるので、待っててくださいね」
座っているのを気にしながら少しずつ仕上げていく。
「悪いな、お嬢ちゃん。任せっきりにして」
「いえ。料理をするのは好きなので…。朝ごはん、もうすぐ完成します」
「ああ。ありがとう」
あれからそのまま冬真さんに泊めてもらったので、そのお礼も兼ねて何かしたかった。
ただ、私にできるのはこんなふうにご飯を作ることだけだ。
まだ起きてきたところを見てないけれど、もしかして早起きが苦手なのだろうか。
「冬真さんは、まだ寝ているんですか?」
「昨日遅くまで色々やってたみたいだからな。もう少し寝かせてやりたい」
「分かりました」
そう答えながら、ひとつ気になっていることがある。
「あの、秋久さんは何をしているんですか?」
「ん?ああ、仕事で必要な手袋に穴が開いててな。昔から使ってるものだから直してみようと思ってる」
大切なものなのに私なんかが言ってしまっていいのか迷ったけれど、秋久さんにはずっとお世話になしっぱなしだ。
もっとできることがあるならやってみたい。
「私が直してみても、いいですか?」
「お嬢ちゃん、縫い物が得意なのか?」
「得意かどうかは分からないです。ただ、前にいた場所で自分の服を修繕するくらいならやっていました」
「…成程、だから持ってた服のほとんどに綺麗な手縫いの形跡があったのか」
「あの…?」
「悪い、こっちの話だ。お嬢ちゃんの腕を見込んで頼んでいいか?」
「私でよければ、頑張ります」
ちゃんと綺麗になるように頑張ろうと心に決めて、早速持ち歩いていた裁縫道具を取り出す。
「本格的だな」
「そんなことないと思います」
本当なら、素直にありがとうと伝えるのがいいのかもしれないけれど、どうしても真っ直ぐ受け取ることができない。
「すぐ仕上げますね」
「ありがとう」
その穴は思ったよりも小さくて、5分くらいで完成した。
その様子をずっと見られていたのか、秋久さんはただぽかんとした表情でこちらを見ている。
「あ、あの…」
声をかけると、何故か彼は笑い出した。
「ごめんなさい。どこかおかしかったでしょうか?」
「いや、そうじゃなくて…まさかここまで綺麗に直ると思ってなかったんだ。それに、もはやプロ並みの早さだと思って見てた。
お嬢ちゃんができたそれは、決して誰にでもできることじゃない。それだけは覚えておいてくれ」
「ぜ、善処します」
「よろしい」
直したものを手渡すと、秋久さんはとても複雑そうな表情をしていた。
失敗したかもしれないと思ったけれど、そういうわけではないらしい。
喜びと切なさ、悲しみ…色々な感情がごちゃごちゃと混ざっている。
「急に頼んだのに、丁寧に直してくれてありがとな。これからも大切に使うことにする」
「役に立ててよかったです」
態度に疑問を感じながら、取り敢えず失敗したわけではなさそうだということに安心する。
もしかすると、さっき直したものに対して大切以外の感情があるのかもしれない。
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