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冬真ルート
第21話
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「冬真さん、あの、」
「君に言いたいことがあって来た」
「片づけなら俺がやっておくから、取り敢えずふたりで話してこい」
笑顔の秋久さんに一礼して、冬真さんに腕を引かれるまま歩き出す。
少しキッチンから離れた場所まで来たところで、ぴたりと足を止めた。
「…ごめん」
「どうして謝るんですか?」
「君を傷つけたんじゃないかと思ったんだ。僕は別に、君がお弁当を用意してくれることが嫌なわけじゃない。寧ろ、人が作ってくれることなんてなかったから嬉しい。
だけど、他の人たちみたいに美味しかったって伝える勇気がなかった。それに、伝えたら君は倒れるまで頑張りそうな気がして…ますます言っていいのか分からなかったんだ」
冬真さんの言葉が真っ直ぐ突き刺さる。
私も人に伝えるのが上手なわけじゃないから、彼が言っていることが理解できないわけじゃない。
ただ、私も言葉にして伝えていなかったから行けないんだと思う。
「やっぱり、お世話になりっぱなしは嫌なんです。だから、できることだけでもせいいっぱいやってみようと思ったんです。
結局失敗してしまったと思っていたので、美味しいって言ってもらえて嬉しかったです」
そう伝えると、冬真は少し驚いた顔をしていた。
どうしてそんなに吃驚しているのか分からなくて首を傾げているところに、誰かの足音が近づいてくる。
「あの、」
「…少しだけ静かにしてて」
冬真さんが扉を開けて確認している後ろで、私は言われたとおり息をひそめてできるだけ動かないようにした。
「ごめん、ちょっと煩くなると思う」
「え…?」
そう話す冬真さんの手にはナイフが握られていた。
何が起こるか分からなくて怖くなっていると、だんだん手のひらが熱くなっていくのを感じる。
今蕀さんたちが出てきてしまうと、もうここにはいられなくなるかもしれない。
自分に大丈夫と言い聞かせることしかできなくて、視線を冬真さんに向ける。
直後、ものすごい勢いで扉が破壊された。
「…やっぱり見られてたのか」
「こんにちは。おまえらに仲間をやられた礼に、いいものを売りに来たぜ」
ころころと音をたてて瓶のようなものが転がってきて、蓋が勝手に開いた。
「その煙、吸わないように気をつけて」
「分かりました」
たまたま持っていたハンカチで口を覆って、できるだけ息を止める。
冬真さんはというと、相手にナイフを向けたまま止まっていた。
「その煙を吸うと、一気に、」
「煩い」
勢いよく刃物の柄で殴ったかと思うと、相手はすぐ倒れてしまった。
どんなことを考えているのか分からないけれど、冬真さんは何かのスイッチを押したみたいだ。
そのとき、もうひとり近づいてくるのが見えた。
「危ない…!」
「え?」
気づいたときには、想像した鎌を蕀さんたちで再現していた。
「君に言いたいことがあって来た」
「片づけなら俺がやっておくから、取り敢えずふたりで話してこい」
笑顔の秋久さんに一礼して、冬真さんに腕を引かれるまま歩き出す。
少しキッチンから離れた場所まで来たところで、ぴたりと足を止めた。
「…ごめん」
「どうして謝るんですか?」
「君を傷つけたんじゃないかと思ったんだ。僕は別に、君がお弁当を用意してくれることが嫌なわけじゃない。寧ろ、人が作ってくれることなんてなかったから嬉しい。
だけど、他の人たちみたいに美味しかったって伝える勇気がなかった。それに、伝えたら君は倒れるまで頑張りそうな気がして…ますます言っていいのか分からなかったんだ」
冬真さんの言葉が真っ直ぐ突き刺さる。
私も人に伝えるのが上手なわけじゃないから、彼が言っていることが理解できないわけじゃない。
ただ、私も言葉にして伝えていなかったから行けないんだと思う。
「やっぱり、お世話になりっぱなしは嫌なんです。だから、できることだけでもせいいっぱいやってみようと思ったんです。
結局失敗してしまったと思っていたので、美味しいって言ってもらえて嬉しかったです」
そう伝えると、冬真は少し驚いた顔をしていた。
どうしてそんなに吃驚しているのか分からなくて首を傾げているところに、誰かの足音が近づいてくる。
「あの、」
「…少しだけ静かにしてて」
冬真さんが扉を開けて確認している後ろで、私は言われたとおり息をひそめてできるだけ動かないようにした。
「ごめん、ちょっと煩くなると思う」
「え…?」
そう話す冬真さんの手にはナイフが握られていた。
何が起こるか分からなくて怖くなっていると、だんだん手のひらが熱くなっていくのを感じる。
今蕀さんたちが出てきてしまうと、もうここにはいられなくなるかもしれない。
自分に大丈夫と言い聞かせることしかできなくて、視線を冬真さんに向ける。
直後、ものすごい勢いで扉が破壊された。
「…やっぱり見られてたのか」
「こんにちは。おまえらに仲間をやられた礼に、いいものを売りに来たぜ」
ころころと音をたてて瓶のようなものが転がってきて、蓋が勝手に開いた。
「その煙、吸わないように気をつけて」
「分かりました」
たまたま持っていたハンカチで口を覆って、できるだけ息を止める。
冬真さんはというと、相手にナイフを向けたまま止まっていた。
「その煙を吸うと、一気に、」
「煩い」
勢いよく刃物の柄で殴ったかと思うと、相手はすぐ倒れてしまった。
どんなことを考えているのか分からないけれど、冬真さんは何かのスイッチを押したみたいだ。
そのとき、もうひとり近づいてくるのが見えた。
「危ない…!」
「え?」
気づいたときには、想像した鎌を蕀さんたちで再現していた。
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