335 / 385
冬真ルート
第21話
しおりを挟む
「冬真さん、あの、」
「君に言いたいことがあって来た」
「片づけなら俺がやっておくから、取り敢えずふたりで話してこい」
笑顔の秋久さんに一礼して、冬真さんに腕を引かれるまま歩き出す。
少しキッチンから離れた場所まで来たところで、ぴたりと足を止めた。
「…ごめん」
「どうして謝るんですか?」
「君を傷つけたんじゃないかと思ったんだ。僕は別に、君がお弁当を用意してくれることが嫌なわけじゃない。寧ろ、人が作ってくれることなんてなかったから嬉しい。
だけど、他の人たちみたいに美味しかったって伝える勇気がなかった。それに、伝えたら君は倒れるまで頑張りそうな気がして…ますます言っていいのか分からなかったんだ」
冬真さんの言葉が真っ直ぐ突き刺さる。
私も人に伝えるのが上手なわけじゃないから、彼が言っていることが理解できないわけじゃない。
ただ、私も言葉にして伝えていなかったから行けないんだと思う。
「やっぱり、お世話になりっぱなしは嫌なんです。だから、できることだけでもせいいっぱいやってみようと思ったんです。
結局失敗してしまったと思っていたので、美味しいって言ってもらえて嬉しかったです」
そう伝えると、冬真は少し驚いた顔をしていた。
どうしてそんなに吃驚しているのか分からなくて首を傾げているところに、誰かの足音が近づいてくる。
「あの、」
「…少しだけ静かにしてて」
冬真さんが扉を開けて確認している後ろで、私は言われたとおり息をひそめてできるだけ動かないようにした。
「ごめん、ちょっと煩くなると思う」
「え…?」
そう話す冬真さんの手にはナイフが握られていた。
何が起こるか分からなくて怖くなっていると、だんだん手のひらが熱くなっていくのを感じる。
今蕀さんたちが出てきてしまうと、もうここにはいられなくなるかもしれない。
自分に大丈夫と言い聞かせることしかできなくて、視線を冬真さんに向ける。
直後、ものすごい勢いで扉が破壊された。
「…やっぱり見られてたのか」
「こんにちは。おまえらに仲間をやられた礼に、いいものを売りに来たぜ」
ころころと音をたてて瓶のようなものが転がってきて、蓋が勝手に開いた。
「その煙、吸わないように気をつけて」
「分かりました」
たまたま持っていたハンカチで口を覆って、できるだけ息を止める。
冬真さんはというと、相手にナイフを向けたまま止まっていた。
「その煙を吸うと、一気に、」
「煩い」
勢いよく刃物の柄で殴ったかと思うと、相手はすぐ倒れてしまった。
どんなことを考えているのか分からないけれど、冬真さんは何かのスイッチを押したみたいだ。
そのとき、もうひとり近づいてくるのが見えた。
「危ない…!」
「え?」
気づいたときには、想像した鎌を蕀さんたちで再現していた。
「君に言いたいことがあって来た」
「片づけなら俺がやっておくから、取り敢えずふたりで話してこい」
笑顔の秋久さんに一礼して、冬真さんに腕を引かれるまま歩き出す。
少しキッチンから離れた場所まで来たところで、ぴたりと足を止めた。
「…ごめん」
「どうして謝るんですか?」
「君を傷つけたんじゃないかと思ったんだ。僕は別に、君がお弁当を用意してくれることが嫌なわけじゃない。寧ろ、人が作ってくれることなんてなかったから嬉しい。
だけど、他の人たちみたいに美味しかったって伝える勇気がなかった。それに、伝えたら君は倒れるまで頑張りそうな気がして…ますます言っていいのか分からなかったんだ」
冬真さんの言葉が真っ直ぐ突き刺さる。
私も人に伝えるのが上手なわけじゃないから、彼が言っていることが理解できないわけじゃない。
ただ、私も言葉にして伝えていなかったから行けないんだと思う。
「やっぱり、お世話になりっぱなしは嫌なんです。だから、できることだけでもせいいっぱいやってみようと思ったんです。
結局失敗してしまったと思っていたので、美味しいって言ってもらえて嬉しかったです」
そう伝えると、冬真は少し驚いた顔をしていた。
どうしてそんなに吃驚しているのか分からなくて首を傾げているところに、誰かの足音が近づいてくる。
「あの、」
「…少しだけ静かにしてて」
冬真さんが扉を開けて確認している後ろで、私は言われたとおり息をひそめてできるだけ動かないようにした。
「ごめん、ちょっと煩くなると思う」
「え…?」
そう話す冬真さんの手にはナイフが握られていた。
何が起こるか分からなくて怖くなっていると、だんだん手のひらが熱くなっていくのを感じる。
今蕀さんたちが出てきてしまうと、もうここにはいられなくなるかもしれない。
自分に大丈夫と言い聞かせることしかできなくて、視線を冬真さんに向ける。
直後、ものすごい勢いで扉が破壊された。
「…やっぱり見られてたのか」
「こんにちは。おまえらに仲間をやられた礼に、いいものを売りに来たぜ」
ころころと音をたてて瓶のようなものが転がってきて、蓋が勝手に開いた。
「その煙、吸わないように気をつけて」
「分かりました」
たまたま持っていたハンカチで口を覆って、できるだけ息を止める。
冬真さんはというと、相手にナイフを向けたまま止まっていた。
「その煙を吸うと、一気に、」
「煩い」
勢いよく刃物の柄で殴ったかと思うと、相手はすぐ倒れてしまった。
どんなことを考えているのか分からないけれど、冬真さんは何かのスイッチを押したみたいだ。
そのとき、もうひとり近づいてくるのが見えた。
「危ない…!」
「え?」
気づいたときには、想像した鎌を蕀さんたちで再現していた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
Tell me eMotion
黒蝶
キャラ文芸
突きつけられるのは、究極の選択。
「生き返るか、僕と一緒にくるか...」
全てに絶望した少女・雪芽は、ある存在と出会う。
そしてその存在は告げる。
「僕には感情がないんだ」
これは、そんな彼と過ごしていくうちにお互いの心を彩づけていく選択の物語。
※内容が内容なので、念のためレーティングをかけてあります。
ハーフ&ハーフ
黒蝶
恋愛
ある雨の日、野崎七海が助けたのは中津木葉という男。
そんな木葉から告げられたのは、哀しい事実。
「僕には関わらない方がいいよ。...半分とはいえ、人間じゃないから」
...それから2ヶ月、ふたりは恋人として生きていく選択をしていた。
これは、極々普通?な少女と人間とヴァンパイアのハーフである少年の物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラシオン
黒蝶
ライト文芸
「ねえ、知ってる?どこかにある、幸福を招くカフェの話...」
町で流行っているそんな噂を苦笑しながら受け流す男がいた。
「...残念ながら、君たちでは俺の店には来られないよ」
決して誰でも入れるわけではない場所に、今宵やってくるお客様はどんな方なのか。
「ようこそ、『クラシオン』へ」
これは、傷ついた心を優しく包みこむカフェと、謎だらけのマスターの話。
泣けない、泣かない。
黒蝶
ライト文芸
毎日絶望に耐えている少女・詩音と、偶然教育実習生として彼女の高校に行くことになった恋人・優翔。
ある事情から不登校になった少女・久遠と、通信制高校に通う恋人・大翔。
兄である優翔に憧れる弟の大翔。
しかし、そんな兄は弟の言葉に何度も救われている。
これは、そんな4人から為る物語。
《主な登場人物》
如月 詩音(きらさぎ しおん):大人しめな少女。歌うことが大好きだが、人前ではなかなか歌わない。
小野 優翔(おの ゆうと):詩音の恋人。養護教諭になる為、教育実習に偶然詩音の学校にやってくる。
水無月 久遠(みなづき くおん):家からほとんど出ない少女。読書家で努力家。
小野 大翔(おの ひろと):久遠の恋人。優翔とは兄弟。天真爛漫な性格で、人に好かれやすい。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
母になる、その途中で
ゆう
恋愛
『母になる、その途中で』
大学卒業を控えた21歳の如月あゆみは、かつての恩師・星宮すばると再会する。すばるがシングルファーザーで、二人の子ども(れん・りお)を育てていることを知ったあゆみは、家族としての役割に戸惑いながらも、次第に彼らとの絆を深めていく。しかし、子どもを愛せるのか、母親としての自分を受け入れられるのか、悩む日々が続く。
完璧な母親像に縛られることなく、ありのままの自分で家族と向き合うあゆみの成長と葛藤を描いた物語。家庭の温かさや絆、自己成長の大切さを通じて、家族の意味を見つけていく彼女の姿に共感すること間違いなしです。
不安と迷いを抱えながらも、自分を信じて前に進むあゆみの姿が描かれた、感動的で温かいストーリー。あなたもきっと、あゆみの成長に胸を打たれることでしょう。
【この物語の魅力】
成長する主人公が描く心温まる家族の物語
母親としての葛藤と自己矛盾を描いたリアルな感情
家族としての絆を深めながら進んでいく愛と挑戦
心温まるストーリーをぜひお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる