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冬真ルート
第18話
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「あ、あの、これは一体…」
「…お礼」
「え?」
「あの兄妹から情報を聞き出せたのは君のおかげだから、そのお礼」
いきなりそんなことを言われても、目の前にある素敵なものに触れていいのかさえ分からない。
「気に入ったのを教えてほしい」
「わ、分かりました」
どの生地も恐ろしいほど触り心地がいい。
どれにするのがいいかなんて、私には分からなかった。
「選べない?」
「ごめんなさい」
「別に怒ってるわけじゃない。…君はこういう色が好きかもしれないと思っただけ」
そう話す冬真さんは、雪のように真っ白な生地を私に見せてくれる。
その言葉に首を傾げた。
「私の好きな色で、いいんですか?冬真さんが使うものなんじゃ…」
「それじゃあお礼にならないでしょ?君が好きなものを教えてくれないと、困る」
きっと冬真さんなりに色々考えてくれたんだろうと思うと、だんだん胸が熱くなる。
「好きなものが、分からないです」
「分からない?」
「考えたことがなかったんです。使えるものを使っていたので、こんな綺麗な生地を触ったのも初めてです」
「…そう。それなら僕が見せるものの中で直感的にいいと思うものがあったら言って」
「わ、分かりました」
冬真さんの雰囲気が少しだけ変わったような気がしたけれど、いくつか見せてもらった。
色々考えてみたけれど、自分にどれがいいのかなんて分からない。
その中から私が選んだのは、冬真さんがはじめに見せてくれたものだった。
「本当にこの色でいいの?」
「え、あ、はい。綺麗だなって思ったんです」
冬真さんが何かを持ってきてくれて、テーブルの上に広げて見せてくれた。
「ワンピースとか、好き?」
「…ごめんなさい」
「ズボンなら履ける?」
「はい」
「それならこっちの方がいいかもしれない」
洋服の型だと気づいたときには申し訳なくて、冬真さんを止めようとした。
ただ、それを察知されたのか彼は私の方を見て告げる。
「洋服、色々あった方が便利でしょ?その白い生地は上の服に使ってもらうから、あんまり深く考えないでほしい。
というか、ちゃんと受け取ってもらえた方が僕にとってはありがたいんだけど…駄目?」
「えっと、それじゃあ…こういう服を着たことがないんです。私でも着られるでしょうか?」
「それで注文しておく」
真っ直ぐ見つめられて、私は初めて我儘というものを言ってしまった。
迷惑にならないように気をつけながら、とにかく何かお礼がしたい。
ただ、どうしてもひとつ訊いておきたいことがある。
「…どうして」
「え?」
「どうして、私なんかに優しくしてくれるんですか?」
「僕は別に、優しくしたつもりなんてない。ただやりたいようにやってるだけだから」
「私からすれば、充分優しいです」
それから生地や型紙を片づける手伝いをして、おやつを作らせてほしいとお願いした。
許可してもらえたけれど、私が冬真さんに優しいと話したとき、彼から一瞬だけ感じた哀しみは何だったんだろう。
「…お礼」
「え?」
「あの兄妹から情報を聞き出せたのは君のおかげだから、そのお礼」
いきなりそんなことを言われても、目の前にある素敵なものに触れていいのかさえ分からない。
「気に入ったのを教えてほしい」
「わ、分かりました」
どの生地も恐ろしいほど触り心地がいい。
どれにするのがいいかなんて、私には分からなかった。
「選べない?」
「ごめんなさい」
「別に怒ってるわけじゃない。…君はこういう色が好きかもしれないと思っただけ」
そう話す冬真さんは、雪のように真っ白な生地を私に見せてくれる。
その言葉に首を傾げた。
「私の好きな色で、いいんですか?冬真さんが使うものなんじゃ…」
「それじゃあお礼にならないでしょ?君が好きなものを教えてくれないと、困る」
きっと冬真さんなりに色々考えてくれたんだろうと思うと、だんだん胸が熱くなる。
「好きなものが、分からないです」
「分からない?」
「考えたことがなかったんです。使えるものを使っていたので、こんな綺麗な生地を触ったのも初めてです」
「…そう。それなら僕が見せるものの中で直感的にいいと思うものがあったら言って」
「わ、分かりました」
冬真さんの雰囲気が少しだけ変わったような気がしたけれど、いくつか見せてもらった。
色々考えてみたけれど、自分にどれがいいのかなんて分からない。
その中から私が選んだのは、冬真さんがはじめに見せてくれたものだった。
「本当にこの色でいいの?」
「え、あ、はい。綺麗だなって思ったんです」
冬真さんが何かを持ってきてくれて、テーブルの上に広げて見せてくれた。
「ワンピースとか、好き?」
「…ごめんなさい」
「ズボンなら履ける?」
「はい」
「それならこっちの方がいいかもしれない」
洋服の型だと気づいたときには申し訳なくて、冬真さんを止めようとした。
ただ、それを察知されたのか彼は私の方を見て告げる。
「洋服、色々あった方が便利でしょ?その白い生地は上の服に使ってもらうから、あんまり深く考えないでほしい。
というか、ちゃんと受け取ってもらえた方が僕にとってはありがたいんだけど…駄目?」
「えっと、それじゃあ…こういう服を着たことがないんです。私でも着られるでしょうか?」
「それで注文しておく」
真っ直ぐ見つめられて、私は初めて我儘というものを言ってしまった。
迷惑にならないように気をつけながら、とにかく何かお礼がしたい。
ただ、どうしてもひとつ訊いておきたいことがある。
「…どうして」
「え?」
「どうして、私なんかに優しくしてくれるんですか?」
「僕は別に、優しくしたつもりなんてない。ただやりたいようにやってるだけだから」
「私からすれば、充分優しいです」
それから生地や型紙を片づける手伝いをして、おやつを作らせてほしいとお願いした。
許可してもらえたけれど、私が冬真さんに優しいと話したとき、彼から一瞬だけ感じた哀しみは何だったんだろう。
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