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冬真ルート
第4話
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「あ、冬真」
「あ、じゃない。中に患者がいるから驚かせたくない、入らないでって言ったよね?」
「でも、鍵が開いてた」
「開いてたら入っていいわけじゃないから」
そんなふたりの会話についていけず戸惑っていると、冬真さんがテーブルの上を見て呆然としている。
「僕のなんていらなかったのに」
「…ごめんなさい」
ここにいると邪魔になる…そう思って一礼してからその場を離れる。
後ろから何か聞こえた気がしたけれど、きっと私相手に話していたわけではないだろう。
ここにいると、私はすごく邪魔になる。
一旦気分を変えようと近くにあったメモ用紙にすぐ戻ると書き残して、そのまま部屋を出た。
この建物がどんなふうになっているのか、大体のことは把握している。
「…失礼します」
この言い方で合っているのか分からないけれど、いつか読んだ本にあった中庭のような場所に出た。
いつもより頭痛が酷いのはどうしてだろう。
もしかすると、自覚していない何かがあったのかもしれない。
「あれ、月見ちゃん?」
顔をあげると、そこには夏彦さんが驚いたような顔をして立っていた。
一緒にいた秋久さんがこちらに近づいてきて、しゃがんで地べたに座っていた私と目線を合わせてくれる。
「お嬢ちゃん、顔色がよくないみたいだが何かあったか?」
「い、いえ。何もないんです。ただ、少し外の空気を吸いたくなったといいますか…」
「まー君に冷たくされた?」
「いえ、よくしてもらっています。寧ろ申し訳ないくらいで…」
『僕のなんていらなかったのに』…その言葉が頭にこびりついて、どうしても離れてくれない。
自分で勝手に作ったものとはいえ、気づかないうちにショックを受けていたみたいだ。
「月見ちゃん?」
「ごめんなさい、その、もう少し気分転換、したいので…。
それから、お客様がいらっしゃっているので今は行かない方がいいかもしれません」
「そうか。教えてくれてありがとな」
「だけど多分、そのお客さんはそろそろ帰るはずだよ。店をやってるから、長居はしないはずなんだ」
「え…?」
顔をあげると、たしかに玄関と思われる場所からさっきの女性が出ていくのが見えた。
…それなら、もう少しだけここにいてもいいだろうか。
「風邪ひかないように気をつけろよ、お嬢ちゃん」
「あ、ありがとうございます…」
今度はきっとふたりと話すことがあるはずだ。
今戻ったらまた邪魔になってしまう。
だったら、もう少しここにいたい。
頬にあたる風がなんだかいつもより冷たくて、少し体が震えた。
できるだけ迷惑をかけないようにしないと、きっとここにも置いてもらえなくなってしまう。
もしそうなったら、なんて今は考えたくない。
「あ、じゃない。中に患者がいるから驚かせたくない、入らないでって言ったよね?」
「でも、鍵が開いてた」
「開いてたら入っていいわけじゃないから」
そんなふたりの会話についていけず戸惑っていると、冬真さんがテーブルの上を見て呆然としている。
「僕のなんていらなかったのに」
「…ごめんなさい」
ここにいると邪魔になる…そう思って一礼してからその場を離れる。
後ろから何か聞こえた気がしたけれど、きっと私相手に話していたわけではないだろう。
ここにいると、私はすごく邪魔になる。
一旦気分を変えようと近くにあったメモ用紙にすぐ戻ると書き残して、そのまま部屋を出た。
この建物がどんなふうになっているのか、大体のことは把握している。
「…失礼します」
この言い方で合っているのか分からないけれど、いつか読んだ本にあった中庭のような場所に出た。
いつもより頭痛が酷いのはどうしてだろう。
もしかすると、自覚していない何かがあったのかもしれない。
「あれ、月見ちゃん?」
顔をあげると、そこには夏彦さんが驚いたような顔をして立っていた。
一緒にいた秋久さんがこちらに近づいてきて、しゃがんで地べたに座っていた私と目線を合わせてくれる。
「お嬢ちゃん、顔色がよくないみたいだが何かあったか?」
「い、いえ。何もないんです。ただ、少し外の空気を吸いたくなったといいますか…」
「まー君に冷たくされた?」
「いえ、よくしてもらっています。寧ろ申し訳ないくらいで…」
『僕のなんていらなかったのに』…その言葉が頭にこびりついて、どうしても離れてくれない。
自分で勝手に作ったものとはいえ、気づかないうちにショックを受けていたみたいだ。
「月見ちゃん?」
「ごめんなさい、その、もう少し気分転換、したいので…。
それから、お客様がいらっしゃっているので今は行かない方がいいかもしれません」
「そうか。教えてくれてありがとな」
「だけど多分、そのお客さんはそろそろ帰るはずだよ。店をやってるから、長居はしないはずなんだ」
「え…?」
顔をあげると、たしかに玄関と思われる場所からさっきの女性が出ていくのが見えた。
…それなら、もう少しだけここにいてもいいだろうか。
「風邪ひかないように気をつけろよ、お嬢ちゃん」
「あ、ありがとうございます…」
今度はきっとふたりと話すことがあるはずだ。
今戻ったらまた邪魔になってしまう。
だったら、もう少しここにいたい。
頬にあたる風がなんだかいつもより冷たくて、少し体が震えた。
できるだけ迷惑をかけないようにしないと、きっとここにも置いてもらえなくなってしまう。
もしそうなったら、なんて今は考えたくない。
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