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春人ルート
第97話
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「おはようございます」
「ごめん」
翌朝、冬真さんにも謝られてしまった。
「大丈夫です。寧ろ、きちんと話が聞けてよかったです」
私は全然気にしてないのに、どうしてみんなして申し訳なさそうにするんだろう。
「それから、いちゃいちゃしてるところ悪いんだけど…」
「い、いちゃいちゃ、ですか?」
まさかそんなふうに思われているとは思っていなかった。
朝まで春人に手を離してもらえなくて、そのまま側についていただけだ。
冬真さんがやってくるということは、検査の時間なのかもしれない。
「すみません、すぐに出ます」
「あ、うん…」
なんとかゆるゆると離れていった手を見つめて、一礼してから部屋を出る。
まだ少しどきどきしているけれど、春人の手が離れたときに感じたのは寂しさだった。
また後で話しに行ってみようと思いつつ、自分が貸してもらっている部屋に入る。
そこには、まだ湯気があがっている食事が置かれていた。
「…いただきます」
少しずつ食べられる量が増えたのを嬉しく思いながら、一口一口噛みしめて食べた。
「ほら、久しぶりに出掛けられるんだからそんな顔しない」
「夏彦が乱暴にするから…」
食べ終わった頃、そんな声が聞こえてくる。
部屋の扉を開けると、春人と夏彦さんが並んで立っていた。
「絶対部屋から出ないように」
「は、はい」
「この子たちのこと、お願いするね」
「ハル、それじゃ説明不足だよ」
夏彦さんは大きく息を吐き出して、私に向き直って話しはじめた。
「仕事ってわけじゃないんだけど、俺たちはどうしてもこれから行かないといけない場所があるんだ。そこは特にハルにとっては踏ん切りをつけるのに出向かないといけない場所で、今日しか予定が合わなかった。
だけど、まー君は今大学に行ってていないし…そこで、月見ちゃんには留守番をお願いしたいんだ」
「留守番、ですか?」
「そう。だけど、ハルは月見ちゃんを独りにするのが心配なんだって」
「夏彦…」
顔を真っ赤にして俯いてしまった春人の反応に、また心臓が壊れそうになる。
夏彦さんが苦笑いしながらそんな様子を見ていてはっとした。
「ごめんなさい。分かりました、ちゃんと待ってます」
「ごめんね」
「いえ」
留守番なら慣れている。
寂しいけれど、今の私が一緒に行ってもできることなんてない。
だったら、このまま大人しく待っていよう。
「…気をつけて行ってきてくださいね」
なんとか寂しさを誤魔化そうとすると、優しく頭を撫でられた。
「…いってきます」
顔が赤いままの春人に、それを笑いながら見ている夏彦さん。
ふたりの後ろ姿を見送りながら、腕の中にいるふたりを抱きしめた。
「…大丈夫、留守番なら慣れてるから」
ラビとチェリーを抱きしめたまま、無意識にそんな言葉を呟いていた。
「ごめん」
翌朝、冬真さんにも謝られてしまった。
「大丈夫です。寧ろ、きちんと話が聞けてよかったです」
私は全然気にしてないのに、どうしてみんなして申し訳なさそうにするんだろう。
「それから、いちゃいちゃしてるところ悪いんだけど…」
「い、いちゃいちゃ、ですか?」
まさかそんなふうに思われているとは思っていなかった。
朝まで春人に手を離してもらえなくて、そのまま側についていただけだ。
冬真さんがやってくるということは、検査の時間なのかもしれない。
「すみません、すぐに出ます」
「あ、うん…」
なんとかゆるゆると離れていった手を見つめて、一礼してから部屋を出る。
まだ少しどきどきしているけれど、春人の手が離れたときに感じたのは寂しさだった。
また後で話しに行ってみようと思いつつ、自分が貸してもらっている部屋に入る。
そこには、まだ湯気があがっている食事が置かれていた。
「…いただきます」
少しずつ食べられる量が増えたのを嬉しく思いながら、一口一口噛みしめて食べた。
「ほら、久しぶりに出掛けられるんだからそんな顔しない」
「夏彦が乱暴にするから…」
食べ終わった頃、そんな声が聞こえてくる。
部屋の扉を開けると、春人と夏彦さんが並んで立っていた。
「絶対部屋から出ないように」
「は、はい」
「この子たちのこと、お願いするね」
「ハル、それじゃ説明不足だよ」
夏彦さんは大きく息を吐き出して、私に向き直って話しはじめた。
「仕事ってわけじゃないんだけど、俺たちはどうしてもこれから行かないといけない場所があるんだ。そこは特にハルにとっては踏ん切りをつけるのに出向かないといけない場所で、今日しか予定が合わなかった。
だけど、まー君は今大学に行ってていないし…そこで、月見ちゃんには留守番をお願いしたいんだ」
「留守番、ですか?」
「そう。だけど、ハルは月見ちゃんを独りにするのが心配なんだって」
「夏彦…」
顔を真っ赤にして俯いてしまった春人の反応に、また心臓が壊れそうになる。
夏彦さんが苦笑いしながらそんな様子を見ていてはっとした。
「ごめんなさい。分かりました、ちゃんと待ってます」
「ごめんね」
「いえ」
留守番なら慣れている。
寂しいけれど、今の私が一緒に行ってもできることなんてない。
だったら、このまま大人しく待っていよう。
「…気をつけて行ってきてくださいね」
なんとか寂しさを誤魔化そうとすると、優しく頭を撫でられた。
「…いってきます」
顔が赤いままの春人に、それを笑いながら見ている夏彦さん。
ふたりの後ろ姿を見送りながら、腕の中にいるふたりを抱きしめた。
「…大丈夫、留守番なら慣れてるから」
ラビとチェリーを抱きしめたまま、無意識にそんな言葉を呟いていた。
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