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夏彦ルート
第83話
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「…潜入完了」
「入りこめたのか?」
翌朝、採血の後に会議をしている場所に行ってみると、そこでは入念な報告会がおこなわれていた。
「うん。ちょっといじった独自のルートを使ってるから、なんとか見つからずにすみそうだよ」
それは恐らく、つい最近まで作っていたもののことだろう。
あれから私はもう少しだけベッドの下で育った蔦を持っていった。
夏彦からはすごく心配されてしまったけれど、感情が揺れて出てしまったものなので特に痛みはない。
強いて言うなら、心が少しだけもやもやしていた。
「情報はどれくらいある?」
「…蔡原についてはちょっと暗号化されてるのを解かないといけないからもう少し待って。
ただ、雇ってる奴らのリストはあったからプリントアウトするね」
「すみません、お待たせしました」
「春人さん、ちょっと手伝って」
「構いませんよ。冬真は何を調べてきたんですか?」
「次の依頼の話なんだけど…」
話についていけないのも、何の役にたてないのも私だけだ。
相手のことを知ることさえできない私がここにいても足手まといになってしまう。
小声で失礼しましたと声をかけて、なんとか自分の部屋まで戻る。
「…ソルトもここにいる?」
からんと杖が倒れた音がしたけれど、そんなことは気にせずソルトと向き合う。
沢山遊んでもらっているのかいつもより機嫌がいいような気がする。
「…少しだけなら、外に出ても大丈夫かな」
ゆっくり杖を拾って持ち直し、ソルトと一緒に外の空気を吸いに行く。
蕀さんたちの近くで休んでいると、星がきらきらと輝いているのが目に入った。
「綺麗…吸いこまれそうです」
近くにあったベンチに座ってぼんやり眺める。
ここにいる人たちに見つけてもらってから世界の見え方が変わった。
暗い窓もない小部屋でいつも願っていたのは、あの場所からの解放。
そして今この場所で願うのは、ずっとここにいること。
こんなにも正反対なことを思う日がくるなんて、あの頃は思っていなかった。
「…今ならデザインも考えられそうです」
また着たいとお世辞だったとしても花菜が言ってくれるなら、頑張って自分ができることをしたい。
今の私が役に立てるとしたらこれだけだ。
街灯の明かりを頼りに星空をイメージしたデザインを完成させていく。
描くのに夢中で、誰かが近づいてきていることに気づいていなかった。
「…ソルト?」
にゃあとひと鳴きしたソルトの様子はなんだかおかしくて、少し動揺しているように見えた。
どうしたんだろうと首を傾げていると、後ろから突然腕がまわされる。
「…月見ちゃん、見つけた」
「な、夏彦…?」
走ってきてくれたのか、彼は汗だらけだった。
本当なら無理をしたらいけないはずなのに…そう思っていると、服が血で染まっていくことに気づく。
「夏彦…?」
夏彦はその場に崩れ落ちる。
ソルトが鳴いていたのは、それを見ていたからなのか。
「夏彦!」
蔦で近くにいる人の気配を探っていると、いつもとは違う雰囲気を纏ったものが近づいてきている。
…誰かが気づいてくれるはず。
「ソルト、これをあの中の誰かに届けてください」
「月見ちゃん…?」
たとえ知られることになったとしても、私に後悔はない。
「──お願い、蕀さんたち」
「入りこめたのか?」
翌朝、採血の後に会議をしている場所に行ってみると、そこでは入念な報告会がおこなわれていた。
「うん。ちょっといじった独自のルートを使ってるから、なんとか見つからずにすみそうだよ」
それは恐らく、つい最近まで作っていたもののことだろう。
あれから私はもう少しだけベッドの下で育った蔦を持っていった。
夏彦からはすごく心配されてしまったけれど、感情が揺れて出てしまったものなので特に痛みはない。
強いて言うなら、心が少しだけもやもやしていた。
「情報はどれくらいある?」
「…蔡原についてはちょっと暗号化されてるのを解かないといけないからもう少し待って。
ただ、雇ってる奴らのリストはあったからプリントアウトするね」
「すみません、お待たせしました」
「春人さん、ちょっと手伝って」
「構いませんよ。冬真は何を調べてきたんですか?」
「次の依頼の話なんだけど…」
話についていけないのも、何の役にたてないのも私だけだ。
相手のことを知ることさえできない私がここにいても足手まといになってしまう。
小声で失礼しましたと声をかけて、なんとか自分の部屋まで戻る。
「…ソルトもここにいる?」
からんと杖が倒れた音がしたけれど、そんなことは気にせずソルトと向き合う。
沢山遊んでもらっているのかいつもより機嫌がいいような気がする。
「…少しだけなら、外に出ても大丈夫かな」
ゆっくり杖を拾って持ち直し、ソルトと一緒に外の空気を吸いに行く。
蕀さんたちの近くで休んでいると、星がきらきらと輝いているのが目に入った。
「綺麗…吸いこまれそうです」
近くにあったベンチに座ってぼんやり眺める。
ここにいる人たちに見つけてもらってから世界の見え方が変わった。
暗い窓もない小部屋でいつも願っていたのは、あの場所からの解放。
そして今この場所で願うのは、ずっとここにいること。
こんなにも正反対なことを思う日がくるなんて、あの頃は思っていなかった。
「…今ならデザインも考えられそうです」
また着たいとお世辞だったとしても花菜が言ってくれるなら、頑張って自分ができることをしたい。
今の私が役に立てるとしたらこれだけだ。
街灯の明かりを頼りに星空をイメージしたデザインを完成させていく。
描くのに夢中で、誰かが近づいてきていることに気づいていなかった。
「…ソルト?」
にゃあとひと鳴きしたソルトの様子はなんだかおかしくて、少し動揺しているように見えた。
どうしたんだろうと首を傾げていると、後ろから突然腕がまわされる。
「…月見ちゃん、見つけた」
「な、夏彦…?」
走ってきてくれたのか、彼は汗だらけだった。
本当なら無理をしたらいけないはずなのに…そう思っていると、服が血で染まっていくことに気づく。
「夏彦…?」
夏彦はその場に崩れ落ちる。
ソルトが鳴いていたのは、それを見ていたからなのか。
「夏彦!」
蔦で近くにいる人の気配を探っていると、いつもとは違う雰囲気を纏ったものが近づいてきている。
…誰かが気づいてくれるはず。
「ソルト、これをあの中の誰かに届けてください」
「月見ちゃん…?」
たとえ知られることになったとしても、私に後悔はない。
「──お願い、蕀さんたち」
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