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春人ルート
第63話
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「そういえばひとつ訊きたかったのだけれど、ふたりは恋人同士なの?」
「え?」
しばらく話しているうちに突然ふられた質問…その言葉の意味がよく分からなくて、つい聞き返してしまう。
「私と春人が恋人同士、ですか?」
「今まで依頼人を護ったことはあっても、こんなに長く一緒にいるのは月見が初めてだから気になった。
てっきり好きあっているからだと思ったんだけど…違った?」
春人との関係性は、なかなか口で説明できるものではない。
知り合い?友人?この場合、同居人というのが正解なような気がする。
「多分、居候させてもらっているだけです」
「『多分』?」
「ごめんなさい、上手く説明できなくて…」
「それじゃあ、春人が他の人たちと楽しそうにしていたらどう思う?」
どうして突然そんな質問をされたのか分からなかったけれど、思ったとおりに答えることにした。
「春人はすごいなって思います。私ならきっと、そんなふうには話せないだろうなって…」
本当は私もそこに交ぜてほしいと思うこともあるけれど、私なんかが一緒にいていいのかどうか分からない。
少し俯いていると、雪乃が手を握ってゆっくり話しはじめる。
「…自分なんかいていいのか分からない。誰とも関わらない方がいいんじゃないか、自分には何もできない。
そんなことを考えていたんじゃない?」
「それは…」
「何度占ってみても、あなたの心は何かに囚われている。それが何かを知ることはできないけれど、私に分かるのは自分なんかと考えることほど苦しいことはないということ。
…春人はいつも言ってる。仕事で来る度、あなたが少し心配だって」
「え…?」
それは、私が知らない温かい心だった。
「過去の自分を見ているようだけど、何もできることがないのは悔しい。あなたとの生活が楽しいみたい。あんなに楽しそうに笑う春人は久しぶりに見た。
だから…月見は、人を笑顔にできる人だと思う。春人を幸せにできるのは、きっとあなたしかいない」
やっぱりみんな優しい人だ。
私なんているだけで邪魔になると思っていたのに、いつの間にかここにいたいと考えるようになっていた。
「ありがとうございます。せいいっぱい頑張ります」
「あと、あなたは少し鈍感。もっと自分に正直でいいと思う」
「鈍感?正直に…」
「春人との生活、どうしたい?」
「できれば、このままずっと続けたいです。続けていければいいなと思っています。
いつも笑顔が素敵で、ちょっとしたことで胸がどきどきして戸惑うこともあるけれど…近くにいられたらいいなと思います」
真っ直ぐ雪乃を見つめながら話すと、彼女はやっぱりと小さく呟いた。
「気づいていないみたいだから言うけど…人はそれを恋と呼ぶ」
「この気持ちが、恋…ですか?」
新しい歯車が噛み合いはじめたように、心が忙しく動き出す。
だんだん頬に熱が集まるのを感じていると、後ろから声がした。
「…雪乃、彼女に何を言ったんですか?」
「事実と占いの結果。これからもう少し占ってみるつもり」
「あまりいじめないでくださいね」
「保護者?」
ふたりの会話が全然入ってこない。
私の心は、ぐるぐると回り続けて壊れてしまうんじゃないかと思うくらいずっと動いている。
──これが恋というものなら、私はどうすればいいんだろう。
「え?」
しばらく話しているうちに突然ふられた質問…その言葉の意味がよく分からなくて、つい聞き返してしまう。
「私と春人が恋人同士、ですか?」
「今まで依頼人を護ったことはあっても、こんなに長く一緒にいるのは月見が初めてだから気になった。
てっきり好きあっているからだと思ったんだけど…違った?」
春人との関係性は、なかなか口で説明できるものではない。
知り合い?友人?この場合、同居人というのが正解なような気がする。
「多分、居候させてもらっているだけです」
「『多分』?」
「ごめんなさい、上手く説明できなくて…」
「それじゃあ、春人が他の人たちと楽しそうにしていたらどう思う?」
どうして突然そんな質問をされたのか分からなかったけれど、思ったとおりに答えることにした。
「春人はすごいなって思います。私ならきっと、そんなふうには話せないだろうなって…」
本当は私もそこに交ぜてほしいと思うこともあるけれど、私なんかが一緒にいていいのかどうか分からない。
少し俯いていると、雪乃が手を握ってゆっくり話しはじめる。
「…自分なんかいていいのか分からない。誰とも関わらない方がいいんじゃないか、自分には何もできない。
そんなことを考えていたんじゃない?」
「それは…」
「何度占ってみても、あなたの心は何かに囚われている。それが何かを知ることはできないけれど、私に分かるのは自分なんかと考えることほど苦しいことはないということ。
…春人はいつも言ってる。仕事で来る度、あなたが少し心配だって」
「え…?」
それは、私が知らない温かい心だった。
「過去の自分を見ているようだけど、何もできることがないのは悔しい。あなたとの生活が楽しいみたい。あんなに楽しそうに笑う春人は久しぶりに見た。
だから…月見は、人を笑顔にできる人だと思う。春人を幸せにできるのは、きっとあなたしかいない」
やっぱりみんな優しい人だ。
私なんているだけで邪魔になると思っていたのに、いつの間にかここにいたいと考えるようになっていた。
「ありがとうございます。せいいっぱい頑張ります」
「あと、あなたは少し鈍感。もっと自分に正直でいいと思う」
「鈍感?正直に…」
「春人との生活、どうしたい?」
「できれば、このままずっと続けたいです。続けていければいいなと思っています。
いつも笑顔が素敵で、ちょっとしたことで胸がどきどきして戸惑うこともあるけれど…近くにいられたらいいなと思います」
真っ直ぐ雪乃を見つめながら話すと、彼女はやっぱりと小さく呟いた。
「気づいていないみたいだから言うけど…人はそれを恋と呼ぶ」
「この気持ちが、恋…ですか?」
新しい歯車が噛み合いはじめたように、心が忙しく動き出す。
だんだん頬に熱が集まるのを感じていると、後ろから声がした。
「…雪乃、彼女に何を言ったんですか?」
「事実と占いの結果。これからもう少し占ってみるつもり」
「あまりいじめないでくださいね」
「保護者?」
ふたりの会話が全然入ってこない。
私の心は、ぐるぐると回り続けて壊れてしまうんじゃないかと思うくらいずっと動いている。
──これが恋というものなら、私はどうすればいいんだろう。
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