裏世界の蕀姫

黒蝶

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夏彦ルート

第61話

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「本当に無茶したね」
冬真さんは夏彦をにらみながら小さく呟く。
そこには間違いなく怒りがこめられていて、他の人たちもそれを察知しているようだった。
「…ごめん。今回は俺が悪かった」
頭を下げる夏彦に、春人さんたちはただ呆然としている。
「まさかおまえのそんな姿を見られるとは思ってなかったよ」
「意外」
「夏彦が頭を下げるなんて、明日は雨でも降るのでしょうか」
「3人とも、辛辣!」
夏彦の目に少しだけ明るさが戻ったような気がして、見ているだけで安心した。
彼も彼の周りもいい人たちばかりだから、苦しい思いをしてほしくない。
「アッキー、箱を崩すなんて考えたね」
「あれしか手がなかったからな。人の店を派手に破壊するわけにも行かないし、営業時間にしても大丈夫な程度の音に抑えただけだ」
やっぱり仲良しで、見ているだけで羨ましい。
ソルトを抱いたままぼんやり扉の前に立っていると、背中に思いきり固いものが突き刺さった。
「ごめん!まさか人が立ってるなんて思わなくて…本当にごめんね、月見!」
どうやら花菜が強くドアを開けて、扉の角が背中にあたったらしい。
勢いよく頭を下げられたので、すぐに気にしていないと伝えた。
「花菜、いつも周辺の動きには気をつけろと言ってるだろ」
「すみません、先輩!」
「悪いな、お嬢ちゃん。大丈夫だったか?」
「はい。ソルトも怪我をしてなさそうなので…」
今まではわいわいと賑やかなのがあんまり得意な方じゃなかった。
今でも人混みは避けたいし、できるだけ知らない人とは顔を合わせたくない。
それなのに、この人たちがわいわいしても嫌だと思わないのはどうしてだろう。
「それから…」
秋久さんの言葉にはっとして顔をあげると、他の人たちが話している場所から少し離れたところで私にだけ聞こえるように話す。
「お嬢ちゃんがいなかったら、今頃あいつの手は血で染まってたと思う。…ありがとな」
「私はただ、私にできることをしただけなので…」
「何ふたりで話してるの?」
「夏彦、相変わらずおまえは危なっかしい。気をつけろ」
「月見ちゃんと何話してたの?」
「そういう話だ。あいつに顔向けできなくなるようなことはしないように。それから…」
「分かったよ。心配しなくても俺はもう大丈夫だから」
【あいつ】という言葉に夏彦はすぐ反応した。
その速さに、相手を追い詰めていたときに秋久さんが呼んでいた名前…さっきの秋久さんの言葉がさしているのは、多分──
「ごめんね、月見ちゃん。もう少し話がまとまったら帰れると思うから…」
「いえ、大丈夫です。話が終わるまでここにいてもいいですか?」
「勿論だよ。そのまま待っててね」
彼の笑顔は花のようにきらびやかで、周りの人たちのことも明るくしている。
ソルトを抱きかかえたまま、話し合いが終わるまで壁際で待った。
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