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夏彦ルート
第47話
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「お疲れ様!ちょっと休憩にしようか」
「は、はい…」
思ったよりも生地が固くて、いつもよりゆっくりペースでしか仕上げることができなかった。
「先にリビングで待っててくれる?」
「分かりました」
カップをふたつ用意してどんな飲み物を淹れようか考えていると、突然腕を掴まれる。
あまりに急なことに驚いてよろけてしまった。
「ごめん!驚かせるつもりじゃなかったんだけど…大丈夫だった?」
「はい、平気です」
「それじゃあまずは指先だけ手当てさせてね」
「え?」
自分の指先をよく見ると、針でひっかいてしまったからか血が滲んでいる。
「ごめんなさい。全然気づいてなくて、カップを…」
「いやいや、それはいいんだよ。ついたものはふけば落とせるから。
だけど、傷は処置を間違えると傷痕になって残ることもあるから…気をつけてね」
「ありがとうございます」
絆創膏を巻いてもらったおかげか、痛みが少し和らいだような気がする。
夏彦は笑って、私がよく飲んでいる紅茶を淹れてくれた。
「この花のにおい、いいよね。俺も好きなんだ」
「そう、だったんですね…」
花の香りが好きでよく飲むけれど、まさか夏彦が好きだとは知らなかった。
いつも珈琲ばかり飲んでいるような気がしていたから、紅茶を飲むイメージがあまりない。
「月見ちゃん、クッキーも食べる?」
「あ、えっと…いただきます」
少し戸惑いながら、カボチャのクッキーに手を伸ばす。
一口食べるとふんわりとした甘みが広がった。
「美味しい…」
「喜んでもらえたならよかった。失敗しちゃったかと思ってたから、その反応を見ているとすごく安心する」
「夏彦が焼いたんですか?」
「うん。ちょっと時間があるときに材料をねかせておいたから、作ってみたかったんだ。毎日のお礼も兼ねてね!」
どうしよう、すごく嬉しい。
こんなによくしてもらって、迷惑をかけているのは私なはずなのに…どうして夏彦は、いつも優しさで包みこんでくれるんだろう。
私にできることなんてほとんどないのに、いつだって感謝しているのは私も同じだ。
「私の方こそ、ありがとうございます。
色々な道具を用意してもらったり、温かくて過ごしやすい場所にいさせてもらったり…いつも本当に感謝しています」
「俺、誰かがご飯をつくって待っててくれる場所に帰ることなんてもう二度とないと思ってたんだ。
だから、俺にとってはそれだけで充分なんだよ」
優しく頭を撫でられて、少しだけ心臓がばくばく音をたてる。
夏彦の側にずっといたいけれど、それは赦されることなのだろうか。
……いつまでも続くといいな。
「は、はい…」
思ったよりも生地が固くて、いつもよりゆっくりペースでしか仕上げることができなかった。
「先にリビングで待っててくれる?」
「分かりました」
カップをふたつ用意してどんな飲み物を淹れようか考えていると、突然腕を掴まれる。
あまりに急なことに驚いてよろけてしまった。
「ごめん!驚かせるつもりじゃなかったんだけど…大丈夫だった?」
「はい、平気です」
「それじゃあまずは指先だけ手当てさせてね」
「え?」
自分の指先をよく見ると、針でひっかいてしまったからか血が滲んでいる。
「ごめんなさい。全然気づいてなくて、カップを…」
「いやいや、それはいいんだよ。ついたものはふけば落とせるから。
だけど、傷は処置を間違えると傷痕になって残ることもあるから…気をつけてね」
「ありがとうございます」
絆創膏を巻いてもらったおかげか、痛みが少し和らいだような気がする。
夏彦は笑って、私がよく飲んでいる紅茶を淹れてくれた。
「この花のにおい、いいよね。俺も好きなんだ」
「そう、だったんですね…」
花の香りが好きでよく飲むけれど、まさか夏彦が好きだとは知らなかった。
いつも珈琲ばかり飲んでいるような気がしていたから、紅茶を飲むイメージがあまりない。
「月見ちゃん、クッキーも食べる?」
「あ、えっと…いただきます」
少し戸惑いながら、カボチャのクッキーに手を伸ばす。
一口食べるとふんわりとした甘みが広がった。
「美味しい…」
「喜んでもらえたならよかった。失敗しちゃったかと思ってたから、その反応を見ているとすごく安心する」
「夏彦が焼いたんですか?」
「うん。ちょっと時間があるときに材料をねかせておいたから、作ってみたかったんだ。毎日のお礼も兼ねてね!」
どうしよう、すごく嬉しい。
こんなによくしてもらって、迷惑をかけているのは私なはずなのに…どうして夏彦は、いつも優しさで包みこんでくれるんだろう。
私にできることなんてほとんどないのに、いつだって感謝しているのは私も同じだ。
「私の方こそ、ありがとうございます。
色々な道具を用意してもらったり、温かくて過ごしやすい場所にいさせてもらったり…いつも本当に感謝しています」
「俺、誰かがご飯をつくって待っててくれる場所に帰ることなんてもう二度とないと思ってたんだ。
だから、俺にとってはそれだけで充分なんだよ」
優しく頭を撫でられて、少しだけ心臓がばくばく音をたてる。
夏彦の側にずっといたいけれど、それは赦されることなのだろうか。
……いつまでも続くといいな。
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