裏世界の蕀姫

黒蝶

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春人ルート

第35.5話

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「…というわけで、今回の作戦はこれでいこうと思う。誰か他に意見がある奴いるか?」
今回のミッションは、俗に言う毒親から逃げたいと願う女性を逃がすことだ。
彼女は思考を否定され、言うことを聞かないと理不尽に暴力をふるわれ...それでも、最後の力を振り絞って依頼してきたらしい。
「掲示板のことが随分町で噂になってるみたい」
「最近僕のところに連絡がくるのはそのせいか…」
冬真は長いため息を漏らす。
隠し掲示板に辿り着ける人間自体は少ないが、どうやらそれが原因で噂話が流れているようだと夏彦は言った。
「悪いな冬真。なんとかしたいところだが、本気で助けを求めてる奴等からすれば必要なものだからな…」
「それに、ヘタに削除すれば逆におかしな噂が増えてしまいそうです」
秋久はこちらを向いて大きく頷く。
「確かに、春人が言うことも一理ある。俺の方に転送できるようにシステムを組み直せるか?」
「了解しました」
その程度の仕様変更なら問題ないだろう。
普段なら夏彦に頼むところだが、今の時期は忙しいはずだ。
「俺じゃ駄目なの?」
「忙しいだろ、デザイナーは」
やはり秋久もそれを分かっていたらしい。
「大丈夫です。僕がやっておきますから」
「悪いが頼む」
秋久は通常業務が残っているし、冬真は大学でのテスト対策があるはずだ。
こういうとき、ある程度時間の融通が利くのは俺しかいない。
…今回の作戦会議でも、月見の能力のことは話さなかった。
「ごめん。繁忙期じゃなかったら俺がやったのに…」
帰り道、いつかしたような言葉をかけてくる。
「できるひとができることをやればいい。…あの人もよく言ってた」
「あの事件、まだ調べてるの?」
「俺にとってはたったひとりの家族だから」
夏彦は一瞬不安そうな表情をしたが、何事もなかったように空を見上げる。
そして一言呟いた。
「じゃあ、俺のことは?」
「一時期居候、仲間、危なそうな奴…」
「流石にそれは酷くない?」
「…基本的には何でも話せる友人」
「やった、ハル大好き!」
「そんなに近づくな、暑い」
夏彦が悪い奴じゃないことは多分あのなかでは自分が1番よく知っている…と思う。
ただ、あの事件の日がもう近い。
「お墓参り、今年も行く?雪乃も誘ってさ」
「…そっちに都合あわせるから連絡して」
「了解!」
吹っ切れてないのは恐らく夏彦だって同じだ。
中身はだいぶ違うが、あいつだって苦しんでいるところをあの人に助けられた。
『ハル』
今だって、あの人の声も言葉も鮮明に思い出せる。
──あの人を殺した相手を見つけて、俺はどうしたいんだろう。
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