裏世界の蕀姫

黒蝶

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春人ルート

第22話

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流石にもう黙っているわけにはいかない。
ただ、話す勇気がなかなか出なくて近くにいたチェリーを抱きしめた。
「ゆっくりでいいから、あの蕀について教えてほしい」
黒柿色の髪をくしゃっと掻きながら、春人はまた優しく話しかけてくれる。
…そろそろ覚悟を決めよう。
「私には、生まれつき能力みたいなものがありました。
…小さい頃は上手く制御できなくて、周りの人たちを困らせることも多かったです」
正確に言えば、保育園で友人を作れなかった。
他の人たちが普通にこなすことでも私にできることは少なかったし、あの人たちからの視線が冷たかったこともよく覚えている。
「…続けて。全部ちゃんと聞いてるから」
「私が念じれば蕀さんたちは出てくるけど、そうじゃないときは特に何もおこらなくて…。
人を傷つけようとしたことも、傷つけてしまったことも、今のところは1度もありません。
こ、これからも、そうならないように気をつけるつもりです」
「…そっか。話してくれてありがとう」
どんな反応がかえってくるのか怖かったけれど、優しい声音に少しだけ安心した。
「生まれつきってことは、それが原因で愛されなかったの?」
「…分かりません。ただ、私に対する扱いだけ他の人たちと違ったのは確かです。
化け物なんだから仕方ないって思っていたけど、違ったのでしょうか?」
「それじゃあ、蕀で他にできることは?」
「周りに何人いるとか、どんな感情を持っているとか…それくらいなら感知することができます」
もう全部正直に話してしまおう。
たとえ出ていけと言われてしまったとしても、黙って隠しておきたくない。
春人は私を迎えいれてくれて、いつも優しくしてくれた。
そんな人に嘘を吐いてまで、今の生活が続けばいいとは思えない。
「…やっと仕組みが分かって安心した」
「どういう、意味ですか…?」
彼が発した一言の意味を理解できずにいると、ゆっくり丁寧に説明してくれた。
「実は、君が蕀や蔦を出せるのは知ってた。非現実的だから、信じていいのか分からなかったけど…やっぱりそうだったんだね」
「知っていたのに、私を置いてくれたんですか?」
「誰だって言いたくないことのひとつやふたつはあるだろうし、君を保護したのは俺だから」
やっぱり春人は温かい人だ。
どうして私にここまでしてくれるのかは分からない。
分かっていて黙ってくれていた理由、お仕事について、夏彦さんに【ハル】と呼ばれて嫌がる理由…まだまだ知らないことだらけだ。
この瞬間、もっと彼のことを知りたいと思った。
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