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イベントもの
短冊に綴る想い・弐
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「月見ちゃん、大丈夫?」
「は、はい…」
夏彦に気を遣わせたくなくて、いつもの調子でそんなふうに答えてしまう。
人は多いのは苦手だけど、折角今の時間ならと外に連れ出してくれたのだからもう少し夜空を楽しみたい。
「ここに願い事を書いた紙…短冊を結んでおくと願いが叶うんだって」
「大きい、ですね」
「今年は張り切ってたらしいよ。今までで1番大きな笹を置くんだって…」
これが笹というものなのか。
本では何度か見たことがあったものの、こうして直接間近で見るのは初めてだ。
さらさらと音がして、ここに糸を結ぶと思うと少し罪悪感が沸いてくる。
「月見ちゃん、お願い事は決めた?」
「た、多分…」
私の願いは、ただ色々な人に迷惑をかけずに過ごせるようにということだけだ。
ちらっと見えた夏彦の短冊には、《商売繁盛と月見ちゃんの幸せ》と書かれている。
…夏彦の幸せをお願いに追加しておこう。
「あ、マー君のだ」
「知り合いの方、ですか?」
「ごめん、こんな呼び方じゃ分からないよね」
「その呼び方、本当にやめて」
振り返ると、そこではトウマさんがため息を吐きながら立っていた。
「マー君、やっぱり来てたんだ」
「別にいいでしょ。僕は忙しいからもう行く」
トウマさんは無表情のまま、人混みの中へと消えていった。
「…私、何かしてしまったのでしょうか」
「マー君は悪い子じゃないんだけど、いつも言葉が足りてないというか…。
あの感じ、多分本当に急ぎの用事があったんだと思うよ」
それが気にしないように言ってくれていることなのか、それとも本当のことなのかは分からない。
ただ、人が多すぎてだんだん頭が痛くなってきた。
そういえば、先程から夏彦が何も話さない。
「あ…」
手に触れていたぬくもりが消えたことに気づき、ふと顔をあげたときには遅かった。
どうしようか困っていると、誰かに手首を握られる。
「…こっち」
「え…?」
声がした方を見てみると、トウマさんが手をひいてくれている。
「あの、えっと、」
「いいから」
それだけ話してどんどん人気がない道に入っていく。
「夏彦、見つけた」
「月見ちゃん、ごめん!」
「いえ、私の方こそ…あの、ありがとうございました」
トウマさんにお礼を言ったつもりだったけれど、言葉が返ってこない。
「ちょいちょいマー君。ちゃんと言わないと伝わらないって、この前アッキーにも言われてなかったっけ?」
「…僕は夏彦を手伝っただけだから」
そう話すと、トウマさんはまた人混みに消えていった。
完全に姿が見えなくなったところで、夏彦がため息混じりに教えてくれる。
「月見ちゃんがいなくなってるのに気づいたのは、マー君なんだ。
それで、いそうな場所を探すって自分から率先して手伝ってくれたんだよ」
「そう、なんですね…」
少し怖そうな人だと思っていたけれど、実は知らないだけで違うのかもしれない。
もう少し夏彦たちのことを知りたいと願いながら、星空のアーチをくぐって来た道を戻ったのだった。
「は、はい…」
夏彦に気を遣わせたくなくて、いつもの調子でそんなふうに答えてしまう。
人は多いのは苦手だけど、折角今の時間ならと外に連れ出してくれたのだからもう少し夜空を楽しみたい。
「ここに願い事を書いた紙…短冊を結んでおくと願いが叶うんだって」
「大きい、ですね」
「今年は張り切ってたらしいよ。今までで1番大きな笹を置くんだって…」
これが笹というものなのか。
本では何度か見たことがあったものの、こうして直接間近で見るのは初めてだ。
さらさらと音がして、ここに糸を結ぶと思うと少し罪悪感が沸いてくる。
「月見ちゃん、お願い事は決めた?」
「た、多分…」
私の願いは、ただ色々な人に迷惑をかけずに過ごせるようにということだけだ。
ちらっと見えた夏彦の短冊には、《商売繁盛と月見ちゃんの幸せ》と書かれている。
…夏彦の幸せをお願いに追加しておこう。
「あ、マー君のだ」
「知り合いの方、ですか?」
「ごめん、こんな呼び方じゃ分からないよね」
「その呼び方、本当にやめて」
振り返ると、そこではトウマさんがため息を吐きながら立っていた。
「マー君、やっぱり来てたんだ」
「別にいいでしょ。僕は忙しいからもう行く」
トウマさんは無表情のまま、人混みの中へと消えていった。
「…私、何かしてしまったのでしょうか」
「マー君は悪い子じゃないんだけど、いつも言葉が足りてないというか…。
あの感じ、多分本当に急ぎの用事があったんだと思うよ」
それが気にしないように言ってくれていることなのか、それとも本当のことなのかは分からない。
ただ、人が多すぎてだんだん頭が痛くなってきた。
そういえば、先程から夏彦が何も話さない。
「あ…」
手に触れていたぬくもりが消えたことに気づき、ふと顔をあげたときには遅かった。
どうしようか困っていると、誰かに手首を握られる。
「…こっち」
「え…?」
声がした方を見てみると、トウマさんが手をひいてくれている。
「あの、えっと、」
「いいから」
それだけ話してどんどん人気がない道に入っていく。
「夏彦、見つけた」
「月見ちゃん、ごめん!」
「いえ、私の方こそ…あの、ありがとうございました」
トウマさんにお礼を言ったつもりだったけれど、言葉が返ってこない。
「ちょいちょいマー君。ちゃんと言わないと伝わらないって、この前アッキーにも言われてなかったっけ?」
「…僕は夏彦を手伝っただけだから」
そう話すと、トウマさんはまた人混みに消えていった。
完全に姿が見えなくなったところで、夏彦がため息混じりに教えてくれる。
「月見ちゃんがいなくなってるのに気づいたのは、マー君なんだ。
それで、いそうな場所を探すって自分から率先して手伝ってくれたんだよ」
「そう、なんですね…」
少し怖そうな人だと思っていたけれど、実は知らないだけで違うのかもしれない。
もう少し夏彦たちのことを知りたいと願いながら、星空のアーチをくぐって来た道を戻ったのだった。
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