裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
上 下
18 / 385
春人ルート

第6.5話

しおりを挟む
彼女は疲れないのだろうか。
いつも遅くまで起きていて、なかなか眠れていないことをよく知っている。
「その子たちと留守番してて」
「はい。…いってらっしゃい」
「いってきます」
誰かと一緒に暮らすのはどのくらいぶりだろうか。
あまり絆されないように気をつけなければと思いつつ、自らが見てしまったものを胸に仕舞いこんでいる。
「…ハル!」
「夏彦、あまりそう呼ばないでほしいと、」
「春人がいくら呼んでも気づかないから、こう呼べば反応するかなって思って」
夏彦とは腐れ縁だ。
...ただ、その優しさに甘えないようにしなければと気を引きしめる。
「もうアッキーたち来てるだろうし、早く行こう?」
「…そうですね」
あるバーの扉を開くと、そこには秋久と冬真の姿があった。
「悪いな春人。夏彦を拾ってもらって」
「ちょ、今夜は迎えに来てもらったんじゃなくてちゃんと自分で行ってたら鉢合わせしただけなんだけど!?」
「遅くなってすみません」
ただ一礼すると、何やらじっと視線を感じる。
「どうかしましたか、冬真」
「いや…同居人、大丈夫なのかなって」
「彼女には仕事があるからと説明してあります。当然詳細は話していませんが、そうしなければ流石に不安にさせてしまうでしょう?」
勿論それだけではない。
俺がやっていることは、決して正解と呼べるようなものではないからだ。
そんなことにたまたま居候している月見を巻きこむ訳にはいかない。
「一先ず会議、始めるか」
秋久の一言で緊張が走りつつ、あっという間に話し合いが終わった。
「春人にはいつものを頼みたい」
「分かりました。それでは僕はいつもどおり作っておくことにします」
「それじゃあ作戦はそれでいく。みんなよろしく頼んだ」
それぞれで解散していくものの、やはり話すことはできなかった。
「何考えてるのか分からないけど、あんまりひとりで考えこみすぎないように。
…まあ、彼女のこと考えてたんだろうけど」
夏彦は人のことをよく見ている。
その点なら冬真が1番得意そうだが、秋久も侮れない。
「彼女の捜索願は出されましたか?」
「ううん。アッキーにも一応調べてもらったけど、その形跡がないって」
「そうですか…」
他人から見れば、俺がやっていることは決して正解とは言えない。
だが、俺にとってはこれが正しいやり方だ。
「色々とありがとうございます」
「ふたりきりのときくらい、前みたいにため口でいいのに」
その言葉にはただ苦笑するしかない。
人は誰しも秘密を抱えている。
俺も月見に仕事のことは話せない。
…だからこそ、あの日見たものも幻だと思うことにしておこう。
彼女の身体中にある傷痕を思い出すと、少しだけ自らの忌々しい記憶が甦る。
自分の子どもに愛を注げないのなら、何故生んだのか不思議でたまらない。
家路を急ぎながらもやもやしたものを抱える。

──あの蔦の謎はいつか解いてみたいと考えてしまうのは、らしくないだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

きみの愛なら疑わない

秋葉なな
恋愛
花嫁が消えたバージンロードで虚ろな顔したあなたに私はどう償えばいいのでしょう 花嫁の共犯者 × 結婚式で花嫁に逃げられた男 「僕を愛さない女に興味はないよ」 「私はあなたの前から消えたりしない」

妹は謝らない

青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。 手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。 気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。 「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。 わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。 「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう? 小説家になろうにも投稿しています。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

処理中です...