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春人ルート
第3話
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翌朝、私は勝手に使ってもいいと言われている場所をぐるりと見て回った。
これだけ広いと掃除のしがいがありそうだ。
「…できた」
喜んでもらえるかは分からないが、何もせずにはいられない。
まさかあの人たちに作ってきたものがこんなところで役に立つとは思わなかった。
「おはよう」
「えっと、おはようございます」
テーブルに並べた品を一瞥すると、春人はどこかへ行ってしまった。
いきなりこんなことをされるのはやっぱり迷惑なことで、困らせてしまっただろうか。
「あ、あの…」
「どうかしたの?」
「よかったらこれ、食べてみてください」
春人は瞬きして、そのまま椅子にこしかける。
「これ、君の分はないの?」
「ごめんなさい、あんまり食欲がなくて…」
「謝る必要なんかないって言ったでしょ?別に月見が悪い訳じゃない。…いただきます」
本当は自分のものを作り忘れただけだ。
そもそも、自分の為に料理した覚えなんてほとんどない。
他の人たちが食べているところを立って見ているのが普通で、お腹がすいてもパンの切れ端を食べる許可がおりるのでやっとだった。
そのおかげか、空腹という感覚をほとんど感じなくなっている。
…この場合、おかげという言葉は合っているのだろうか。
「…美味しい」
「……!」
「自分独りだとこんなふうに料理したこともなかったから…大丈夫?」
指摘されるまで、自分が泣いていることに気づかなかった。
涙を止めたいのに、何故か止まってくれない。
美味しいなんて言ってもらえたことなんてなかった。
どんなに小さなことでも沢山指摘を受けて、その後に待っていたのはいつも【しつけ】だ。
「ごめん。人相手に話すの、あんまり得意じゃないんだ。物言いがきつかった?」
「違うんです。褒めてもらえたことなんてなかったから…ごめんなさい」
「こんなに美味しいものを作れるのは、才能だと思う。
だから、君はもっと自信を持っていい…月見」
【あんたみたいな役立たず、いなければいいのに】
…あの人たちからかけられる言葉はそういったものばかりで、できれば思い出したくもない。
あまり不安定になりすぎると、能力が発動してしまう。
それが分かっているのに、何故か涙を止められなかった。
「座って。何も考えずに食べたけど、ご飯は誰かと食べる方が美味しいんだ。
だから、次は君と一緒に食べたい」
「…うん」
春人の心は温かい。
もう誰からも思われずに死んでいくと思っていた私にとって、とてもありがたい言葉だった。
こうして私を気にかけてくれる人がいる、それだけで充分だ。
これだけ広いと掃除のしがいがありそうだ。
「…できた」
喜んでもらえるかは分からないが、何もせずにはいられない。
まさかあの人たちに作ってきたものがこんなところで役に立つとは思わなかった。
「おはよう」
「えっと、おはようございます」
テーブルに並べた品を一瞥すると、春人はどこかへ行ってしまった。
いきなりこんなことをされるのはやっぱり迷惑なことで、困らせてしまっただろうか。
「あ、あの…」
「どうかしたの?」
「よかったらこれ、食べてみてください」
春人は瞬きして、そのまま椅子にこしかける。
「これ、君の分はないの?」
「ごめんなさい、あんまり食欲がなくて…」
「謝る必要なんかないって言ったでしょ?別に月見が悪い訳じゃない。…いただきます」
本当は自分のものを作り忘れただけだ。
そもそも、自分の為に料理した覚えなんてほとんどない。
他の人たちが食べているところを立って見ているのが普通で、お腹がすいてもパンの切れ端を食べる許可がおりるのでやっとだった。
そのおかげか、空腹という感覚をほとんど感じなくなっている。
…この場合、おかげという言葉は合っているのだろうか。
「…美味しい」
「……!」
「自分独りだとこんなふうに料理したこともなかったから…大丈夫?」
指摘されるまで、自分が泣いていることに気づかなかった。
涙を止めたいのに、何故か止まってくれない。
美味しいなんて言ってもらえたことなんてなかった。
どんなに小さなことでも沢山指摘を受けて、その後に待っていたのはいつも【しつけ】だ。
「ごめん。人相手に話すの、あんまり得意じゃないんだ。物言いがきつかった?」
「違うんです。褒めてもらえたことなんてなかったから…ごめんなさい」
「こんなに美味しいものを作れるのは、才能だと思う。
だから、君はもっと自信を持っていい…月見」
【あんたみたいな役立たず、いなければいいのに】
…あの人たちからかけられる言葉はそういったものばかりで、できれば思い出したくもない。
あまり不安定になりすぎると、能力が発動してしまう。
それが分かっているのに、何故か涙を止められなかった。
「座って。何も考えずに食べたけど、ご飯は誰かと食べる方が美味しいんだ。
だから、次は君と一緒に食べたい」
「…うん」
春人の心は温かい。
もう誰からも思われずに死んでいくと思っていた私にとって、とてもありがたい言葉だった。
こうして私を気にかけてくれる人がいる、それだけで充分だ。
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