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春人ルート
第1話
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「待ってください」
私の腕を掴んだのは、ハルトさんだった。
「僕のところで匿います」
「珍しく積極的だね」
「夏彦」
「はいはい、分かりましたよ。あとは俺たちに任せて。
…その子のこと、しっかり護るんだよ」
ナツヒコさんの表情はなんだか複雑そうで、けれどすぐにぱっと笑顔に戻る。
「それじゃあよろしくね。えっと…」
「月見です」
「月見ちゃんか、いい名前だね」
「あ、ありがとうございます…」
ナツヒコさんがそう話すと、ハルトさんの表情は少しだけ苦そうなものに変わっていた。
これから新しい生活が始まるんだと思うと少しだけ怖い。
ただ、ハルトさんが悪い人だとは思えなかった。
「…この部屋なら好きに使ってください」
「いいんですか?」
「寧ろその方がありがたいです。それに…引き留めたのは俺だから」
なんだか少し違う雰囲気に驚きながら、ハルトさんの方を見つめた。
「今日はもう疲れてるだろうから、近いうちに必要なものを買い揃えに行こう」
「でも私、お金持ってなくて…」
「お金を持っていたら、あんな場所で倒れたりはしない。…違う?」
「そう、ですね。ご迷惑をお掛けしました」
どうしてこの人は私を引き留めてくれたんだろう。
そのことが不思議に思えてならない。
「…この話し方でも驚かないんだね」
「はい、別に…。すみません」
「謝る必要なんてない。何か食べ物は…」
そこに並んでいたのはインスタント食品の数々で、考えた末にハルトさんに声をかける。
「あの…材料さえあれば何か作ります。何もしない訳にはいきませんから」
「今日は近くの店が閉まってるからもう無理。でも、そういうことなら明日からは何か買ってくる。
俺、料理は苦手なんだ。…お願いしてもいい?」
「勿論です」
「取り敢えず好きなものを選んで」
「あ、はい…」
机の上に無造作に置かれていたもののなかにアルバムがあるのを目にする。
そこには、《春人と夏彦の成長記録》と書かれていた。
「それは中身を見られるとちょっと困る」
「ごめんなさい」
「表紙しか見てないのに謝る必要はない。あと、息をするように謝る必要もない。
ここに君を連れてきたのは俺なんだから」
「ごめんなさ…ありがとうございます」
もう癖になってしまっているのか、つい謝罪の言葉が漏れてしまいそうになる。
「どれなら食べられそう?」
「それじゃあ、これでお願いします」
自分で選んだことなんてほとんどないけど、こうやって好きなものを食べられるのは嬉しい。
「作るからちょっとそこに座って待ってて」
「分かりました」
「…話し方も呼び方も、好きにしてくれればいいから」
「えっと…」
「その代わり、俺も月見って呼ばせてもらう。…何か分からないことがあったら言って」
「分かりました」
どんなふうに話すのが自然なのか、春人さん相手にどう接したらいいのか…。
このときの私には分からないことが多すぎた。
私の腕を掴んだのは、ハルトさんだった。
「僕のところで匿います」
「珍しく積極的だね」
「夏彦」
「はいはい、分かりましたよ。あとは俺たちに任せて。
…その子のこと、しっかり護るんだよ」
ナツヒコさんの表情はなんだか複雑そうで、けれどすぐにぱっと笑顔に戻る。
「それじゃあよろしくね。えっと…」
「月見です」
「月見ちゃんか、いい名前だね」
「あ、ありがとうございます…」
ナツヒコさんがそう話すと、ハルトさんの表情は少しだけ苦そうなものに変わっていた。
これから新しい生活が始まるんだと思うと少しだけ怖い。
ただ、ハルトさんが悪い人だとは思えなかった。
「…この部屋なら好きに使ってください」
「いいんですか?」
「寧ろその方がありがたいです。それに…引き留めたのは俺だから」
なんだか少し違う雰囲気に驚きながら、ハルトさんの方を見つめた。
「今日はもう疲れてるだろうから、近いうちに必要なものを買い揃えに行こう」
「でも私、お金持ってなくて…」
「お金を持っていたら、あんな場所で倒れたりはしない。…違う?」
「そう、ですね。ご迷惑をお掛けしました」
どうしてこの人は私を引き留めてくれたんだろう。
そのことが不思議に思えてならない。
「…この話し方でも驚かないんだね」
「はい、別に…。すみません」
「謝る必要なんてない。何か食べ物は…」
そこに並んでいたのはインスタント食品の数々で、考えた末にハルトさんに声をかける。
「あの…材料さえあれば何か作ります。何もしない訳にはいきませんから」
「今日は近くの店が閉まってるからもう無理。でも、そういうことなら明日からは何か買ってくる。
俺、料理は苦手なんだ。…お願いしてもいい?」
「勿論です」
「取り敢えず好きなものを選んで」
「あ、はい…」
机の上に無造作に置かれていたもののなかにアルバムがあるのを目にする。
そこには、《春人と夏彦の成長記録》と書かれていた。
「それは中身を見られるとちょっと困る」
「ごめんなさい」
「表紙しか見てないのに謝る必要はない。あと、息をするように謝る必要もない。
ここに君を連れてきたのは俺なんだから」
「ごめんなさ…ありがとうございます」
もう癖になってしまっているのか、つい謝罪の言葉が漏れてしまいそうになる。
「どれなら食べられそう?」
「それじゃあ、これでお願いします」
自分で選んだことなんてほとんどないけど、こうやって好きなものを食べられるのは嬉しい。
「作るからちょっとそこに座って待ってて」
「分かりました」
「…話し方も呼び方も、好きにしてくれればいいから」
「えっと…」
「その代わり、俺も月見って呼ばせてもらう。…何か分からないことがあったら言って」
「分かりました」
どんなふうに話すのが自然なのか、春人さん相手にどう接したらいいのか…。
このときの私には分からないことが多すぎた。
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