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泣かないver.
バレンタイン当日-ランチタイムまでの時間-
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「こ、怖い...」
「大丈夫、そんなに落下したりはしないから」
隣で震えている久遠の手を握りながら、周りの景色に視線をうつす。
...なんとか緊張をほぐしてやれる方法はないものか。
「ボートにも乗れるみたいだな」
「え、どこ?」
「ほら、向こう側のコーナーにあるだろ?」
「ほんとだ...後で乗ってみたい」
どうやら周りの景色のことを話していると落ち着くらしい。
「あっちでは限定チュロスが売ってるみたいだな」
「どんな味があるんだろう...大翔はどんなものを食べるの?」
「そうだな...だいたいプレーンかチョコだけど、その場所限定のものってそこでしか味わえないから...場合によってはそういうのがあればそっちにするかも」
「そういうものなんだ...。私、こんなにわくわくしてるのは初めてかもしれない」
恐らく久遠は、人が集まりそうな場所を避けて生活しているのだろう。
俺が思った以上に厄介なものを抱えているはずなのに、彼女の笑顔にはいつも救われる。
「...まだひとつ乗っただけなのに、もう楽しいのか?」
「うん。でも、もっと色々なものに乗ってみたいな」
「次は何にするか、考えておかないとな」
この場所は本当に園内を一望できてしまうらしい。
15分ほどかけ、全てのエリアを回りきる。
「大翔、次はあのボートに乗ってみたい」
「分かったから、そんなに走るな」
とても楽しそうにしているのが見ているだけで伝わってきて、なんだかそれが微笑ましい。
「慌てなくてもボートは逃げないぞ」
「ごめん、私ばっかりはしゃいでた...」
「...走って転んだら大変だろ。だから、ゆっくりでいい」
俺の言い方がきつすぎてきちんと伝わっていないのだと、すぐに状況を理解した。
なんとか思いを伝え、そのまま手を繋ぐ。
「ほら、向こう側からの方が近いし人混みも避けられるから」
「ありがとう」
「お礼を言われるようなことは何もしてない。...ほら、ついたぞ」
久遠は目を輝かせ、無邪気な子どものように告げた。
「これに乗ったら、絵画みたいになるかな?」
「...俺が雑だから、そうならないかもしれないな」
確かにそういったものがあったような気はするが、憧れを持っていることは知らなかった。
ボートを湖畔の真ん中の方まで漕ぎ、そのまま停めてみる。
「ここで写真を撮ったら、少しは絵画っぽくなるかもな」
「大翔、ボートに乗ったことがあったの?」
「2回目か3回目だけど...悪い、やっぱり漕ぐの下手だったか?」
「その逆だよ。上手だったから習ってたのかと思った」
「兄貴に教えてもらったことはあったけど、それだけだ」
しばらくふたりだけの世界に入りこんだような気分を味わいながら、他愛ない会話を続ける。
その時間だけで充分幸せだった。
「大丈夫、そんなに落下したりはしないから」
隣で震えている久遠の手を握りながら、周りの景色に視線をうつす。
...なんとか緊張をほぐしてやれる方法はないものか。
「ボートにも乗れるみたいだな」
「え、どこ?」
「ほら、向こう側のコーナーにあるだろ?」
「ほんとだ...後で乗ってみたい」
どうやら周りの景色のことを話していると落ち着くらしい。
「あっちでは限定チュロスが売ってるみたいだな」
「どんな味があるんだろう...大翔はどんなものを食べるの?」
「そうだな...だいたいプレーンかチョコだけど、その場所限定のものってそこでしか味わえないから...場合によってはそういうのがあればそっちにするかも」
「そういうものなんだ...。私、こんなにわくわくしてるのは初めてかもしれない」
恐らく久遠は、人が集まりそうな場所を避けて生活しているのだろう。
俺が思った以上に厄介なものを抱えているはずなのに、彼女の笑顔にはいつも救われる。
「...まだひとつ乗っただけなのに、もう楽しいのか?」
「うん。でも、もっと色々なものに乗ってみたいな」
「次は何にするか、考えておかないとな」
この場所は本当に園内を一望できてしまうらしい。
15分ほどかけ、全てのエリアを回りきる。
「大翔、次はあのボートに乗ってみたい」
「分かったから、そんなに走るな」
とても楽しそうにしているのが見ているだけで伝わってきて、なんだかそれが微笑ましい。
「慌てなくてもボートは逃げないぞ」
「ごめん、私ばっかりはしゃいでた...」
「...走って転んだら大変だろ。だから、ゆっくりでいい」
俺の言い方がきつすぎてきちんと伝わっていないのだと、すぐに状況を理解した。
なんとか思いを伝え、そのまま手を繋ぐ。
「ほら、向こう側からの方が近いし人混みも避けられるから」
「ありがとう」
「お礼を言われるようなことは何もしてない。...ほら、ついたぞ」
久遠は目を輝かせ、無邪気な子どものように告げた。
「これに乗ったら、絵画みたいになるかな?」
「...俺が雑だから、そうならないかもしれないな」
確かにそういったものがあったような気はするが、憧れを持っていることは知らなかった。
ボートを湖畔の真ん中の方まで漕ぎ、そのまま停めてみる。
「ここで写真を撮ったら、少しは絵画っぽくなるかもな」
「大翔、ボートに乗ったことがあったの?」
「2回目か3回目だけど...悪い、やっぱり漕ぐの下手だったか?」
「その逆だよ。上手だったから習ってたのかと思った」
「兄貴に教えてもらったことはあったけど、それだけだ」
しばらくふたりだけの世界に入りこんだような気分を味わいながら、他愛ない会話を続ける。
その時間だけで充分幸せだった。
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