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泣かないver.
俺の大切な...
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「お疲れ様でした」
空が茜色に染まる頃、俺の仕事は終わった。
食器洗いにテーブル拭き、備品の補給...これで全部だ。
早く久遠のところに行きたくて家路を急ぐ。
「久遠」
「大翔、お疲れ様...!」
近くの本屋で買い物をしながら待っていてくれた彼女に礼を言って、そのままふたりで歩き出す。
「どこか行きたい場所は?」
「大翔とふたりでならどこでもいいな...」
久遠にあまり無理をさせたくない。
だが、俺にはどうしても行ってみたい場所があった。
「今日、ちょっと遅くなっても大丈夫か?」
「うん。今日はお母さんも仕事場に泊まるって言ってたから、帰っても1人なんだ」
それはある意味変化だった。
久遠は知らないと思うが、彼女の母親はどんなときでも帰るようにしていたはずだ。
久遠が心配だから、そう話してくれたのを覚えている。
少しは安心してくれていると思っていいのだろうか。
「それじゃあ、こっちに行こう」
「うん...!」
久遠が持っているバスケットの中身が気になるが、大事そうに抱えているのを見ると教えてくれないだろうなと悟った。
「到着」
「わあ、すごく綺麗...!」
バスで5分、そこから徒歩3分の距離にある人があまり来ない秘密の丘。
そこからは星に手が届きそうなほど近くにある。
「もしこうやって星を掴めたら、迷子にならないかも」
ベンチに腰掛けながら発せられた言葉に、思わず少し笑ってしまう。
「発想が可愛いな」
「そ、そんなことないと思う...」
ふたりで話せるのが嬉しくて、時間を忘れてしまいそうだ。
「あのね...これ、作ってきたの」
そうしてバスケットの中から出てきたのは、トーストと蜂蜜、色々なジャムにコーンポート...それに、スコーンだった。
「美味しそうだな。ありがとう」
「ちょっと失敗しちゃったけど、食べてくれる?」
「勿論」
「あ、飲み物持ってくるの忘れた...」
「近くに自販機あったはずだから買ってくる」
人が来ないから俺は油断していたのかもしれない。
普段なら誰とも会わないから、誰かいるとは思わなかったのだ。
「久遠、おま...」
おまたせと言い切る前に、俺は男の頬に拳をねじこんでいた。
「ひ、ひろ...」
「大丈夫だから、ちょっとここで待ってて」
男は逆ギレして、そのまま俺の眼前まで迫ってくる。
「い、いきなり何するんだよ?可愛い子がいたから声をかけただけなのに...」
「嫌がってる女の子に無理矢理抱きつこうとするのが、あんたは正常な判断だと思ってるのか?」
ただ近くに立っている人間を殴るほど俺も馬鹿じゃない。
周りには、照れくさそうな笑顔を浮かべながら見せてくれたトーストのセットが散乱していた。
「おまえに関係ないだろ?」
その一言でまた殴りかかってしまいそうになる。
...ただ、もう我慢ならなかった。
「その子は俺の大切な彼女だ...嫌がってるのに気安く触るな!
そうでなくても、誰かが傷つけられてるのをただ見ているだけでいるほど俺は甘くないんだよ!」
空が茜色に染まる頃、俺の仕事は終わった。
食器洗いにテーブル拭き、備品の補給...これで全部だ。
早く久遠のところに行きたくて家路を急ぐ。
「久遠」
「大翔、お疲れ様...!」
近くの本屋で買い物をしながら待っていてくれた彼女に礼を言って、そのままふたりで歩き出す。
「どこか行きたい場所は?」
「大翔とふたりでならどこでもいいな...」
久遠にあまり無理をさせたくない。
だが、俺にはどうしても行ってみたい場所があった。
「今日、ちょっと遅くなっても大丈夫か?」
「うん。今日はお母さんも仕事場に泊まるって言ってたから、帰っても1人なんだ」
それはある意味変化だった。
久遠は知らないと思うが、彼女の母親はどんなときでも帰るようにしていたはずだ。
久遠が心配だから、そう話してくれたのを覚えている。
少しは安心してくれていると思っていいのだろうか。
「それじゃあ、こっちに行こう」
「うん...!」
久遠が持っているバスケットの中身が気になるが、大事そうに抱えているのを見ると教えてくれないだろうなと悟った。
「到着」
「わあ、すごく綺麗...!」
バスで5分、そこから徒歩3分の距離にある人があまり来ない秘密の丘。
そこからは星に手が届きそうなほど近くにある。
「もしこうやって星を掴めたら、迷子にならないかも」
ベンチに腰掛けながら発せられた言葉に、思わず少し笑ってしまう。
「発想が可愛いな」
「そ、そんなことないと思う...」
ふたりで話せるのが嬉しくて、時間を忘れてしまいそうだ。
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そうしてバスケットの中から出てきたのは、トーストと蜂蜜、色々なジャムにコーンポート...それに、スコーンだった。
「美味しそうだな。ありがとう」
「ちょっと失敗しちゃったけど、食べてくれる?」
「勿論」
「あ、飲み物持ってくるの忘れた...」
「近くに自販機あったはずだから買ってくる」
人が来ないから俺は油断していたのかもしれない。
普段なら誰とも会わないから、誰かいるとは思わなかったのだ。
「久遠、おま...」
おまたせと言い切る前に、俺は男の頬に拳をねじこんでいた。
「ひ、ひろ...」
「大丈夫だから、ちょっとここで待ってて」
男は逆ギレして、そのまま俺の眼前まで迫ってくる。
「い、いきなり何するんだよ?可愛い子がいたから声をかけただけなのに...」
「嫌がってる女の子に無理矢理抱きつこうとするのが、あんたは正常な判断だと思ってるのか?」
ただ近くに立っている人間を殴るほど俺も馬鹿じゃない。
周りには、照れくさそうな笑顔を浮かべながら見せてくれたトーストのセットが散乱していた。
「おまえに関係ないだろ?」
その一言でまた殴りかかってしまいそうになる。
...ただ、もう我慢ならなかった。
「その子は俺の大切な彼女だ...嫌がってるのに気安く触るな!
そうでなくても、誰かが傷つけられてるのをただ見ているだけでいるほど俺は甘くないんだよ!」
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