路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
上 下
199 / 220
Until the day when I get married.-Light of a new request-

第152話

しおりを挟む
ー*ー
「エリックさん」
「どうした?」
裁判所からの帰り道、私は思いきってエリックさんに聞いてみた。
「エミリーさんのこと、どうして苦手なんですか...?」
「そ、それは...」
「俺もエミリーは疑問だな。オリヴィアやユリシス、サーヤなら分かるけど...」
「その方々もエリックさんのお姉さんなんですか?」
「そうだよ」
そう答えるカムイの横で、エリックさんはとても言いづらそうにしていた。
やっぱり、聞かない方がよかったのだろうか。
「あの、話したくないなら、」
「笑わないと誓うか?」
「はい!」
「...俺は小さい頃、容姿が少女のようだったらしい。自分では分からないが...」
「それでたしか、一度スカ、」
そこまでカムイが言うと、エリックさんはカムイに銃を向けていた。
「待ってください!落ち着いてください...」
「カムイ、次言おうとしたら足が吹き飛ぶと思え」
(エリックさんがこんなに怒るところ、はじめて見ました...)
「ごめんごめん、もう言わないよ」
「...では、続けるぞ」
ー**ー
メルは自分で気づいていないようだが、表情がとても強ばっている。
本当はもう少しエリックをからかいたかったが、メルが泣きだしてしまってはいけないので黙ることにした。
「...エミリーは俺に、いきなりファンデーションを塗ってきたんだ」
...?
「そのあと、アイシャドウを塗ってきて...」
「最後にリップ?」
エリックはとてつもなく恥ずかしかったのか、顔が真っ赤になっていた。
「お化粧をされてしまった、ということですか?」
「...ああ。そのときに似合うからまたさせてくれと言われて...逃げまどう日々が続いた。だから、俺は姉が苦手なんだ」
メルは目をキラキラとさせて、エリックの方を見た。
「仲良しさんなんですね!」
メルの天然っぷりに、俺は思わず笑ってしまった。
「私、何か変なことを言ってしまいましたか...?」
「ううん、可愛いなって思っただけだよ」
「...別に仲良しじゃない」
「でも、ご家族と楽しく過ごせるのは、とても羨ましいです」
メルはそう言って笑っていたが、俺は笑えなかった。
「俺も、羨ましいなって思ったよ」
俺は兄弟がいたわけじゃない。
だが、普通に家族と過ごした時間はそんなに長くない。
エリックの話が微笑ましく聞こえてしまうのは、きっとそれも理由の一つだろう。
(でも、メルが言うと重みが違うな)
「絶対他の奴に言うなよ?」
「はい、秘密です」
「言わないよ」
エリックは自分の家に向かって歩き出す。
その背中を見送ったあと、俺はメルの腕を掴んだ。
「今日はどこかへ食事に行ってみようか」
ー*ー
「お食事、ですか...?」
「うん。バーじゃなくて、普通にレストランに食事に行ったことなかったなって...」
「レストラン...?」
私はよく分からず、首を傾げた。
カムイはそんな私の手を引いて、入ったことがないお店の扉を開けた。
(わあ...!)
そこは、私が見たことがない世界だった。
キラキラ光る電灯、はじめて見た可愛いお洋服を着ている店員さん...。
「カムイ、あのお洋服は、」
「このお店の制服だよ。メイド服...の方が分かりやすい?」
「はじめて見ました!」
「これはメニュー表。ここに書いてあるものならなんでも置いてあるから、好きなものを頼んでいいよ」
オムレツにハンバーグ...カムイと出会ってから一緒に作ったものが沢山載っていた。
「うーん...」
私が考えこんでいると、カムイが笑顔で店員さんに注文した。
「すいません、ステーキを二人前お願いします」
ー**ー
メルはきょとんとしていた。
ステーキなんて、家であまり作らない。
毎回俺がソースに苦戦してしまうからだ。
母のレシピを参考にしながら作るものの、玉葱が上手く処理できていないようだ。
「ステーキ、美味しいよ」
「でも、」
「マナーなら、メルは完壁だから。それとも...もしかして、何か食べたいものがあった?」
「いえ!ありがとうございます」
そうこうしているうちに、注文したものが運ばれてきた。
メルはなんだかあたふたしている。
(なんで気づかなかったんだ)
今さらながら、メルが何を言いかけたのか分かった。
俺はメルの分を切り分け、口に運んだ。
「はい、口開けて」
「...!」
メルは照れていたが、やがて、小さく口を開けていた。
「美味しいです、多分...」
「多分?」
「むう...」
メルは少し拗ねた様子で頬をふくらませて俺の方を見ていた。
「ごめん。眼帯があったら食べづらいよね」
「気にしないでください」
「じゃあ、俺が食べさせてあげる」
俺は自分の分も切って食べながら、メルの分も丁寧に切り分けてメルの口に運んだ。
「ごちそうさまでした」
最近あまりまともに食べていなかったせいか、二人ともあっという間に完食してしまった。
「メル」
「なんでしょ...っ!」
メルが言い終わる前に、俺はぺろりとソースを舐めとった。
「ごちそうさま、メル」
「突然やるのはやめてください!て、照れてしまいます...」
そう言うと、メルは俯いてしまった。
「...アイリスが釈放されて帰ってきたら、みんなでお祝いしようか」
「はい!」
「また俺と、こうして二人で食事にも行こうね」
「...はい」
すっかり暗くなってしまった夜道を、俺たちは手を繋いで歩いて帰った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

死に役はごめんなので好きにさせてもらいます

橋本彩里(Ayari)
恋愛
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。 前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。 愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。 フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。 どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが…… まったりいきます。5万~10万文字予定。 お付き合いいただけたら幸いです。 たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

自死を選ぼうとした少女を救う話

エスケー春馬
恋愛
キャバクラのボーイをしている主人公 そこに少しネガティブな女性に出会う。 しかし、その子をきっかけに 主人公の人生は大きく変わる。

気がついたら無理!絶対にいや!

朝山みどり
恋愛
アリスは子供の頃からしっかりしていた。そのせいか、なぜか利用され、便利に使われてしまう。 そして嵐のとき置き去りにされてしまった。助けてくれた彼に大切にされたアリスは甘えることを知った。そして甘えられることも・・・

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二 その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。 侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。 裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。 そこで先天性スキル、糸を手に入れた。 だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。 「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」 少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。

処理中です...