路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
上 下
115 / 220
Until the day when I get engaged. -Of light, ahead of it...-

第75話

しおりを挟む
ー**ー
次の日。早朝に目が覚めた俺は、隣で寝ているメルをそっと見つめる。
「...」
あれは間違いなく、あいつが作った爆弾だ。
これからメルを、もっと危険なことに巻きこむことになるかもしれない。
...この恋は、間違っていないと信じたい。
だが、俺には自信がない。
メルを、守りたい。
「...俺は、メルの側を離れるべきなのかな」
「却下です!」
「え?」
いつの間に起きていたのか、メルが俺の手を掴む。
(俺、口に出てたのか?)
「離れるのは、ダメです」
「でも、」
「離れちゃイヤです。カムイはまた、一人では背負いこもうとしてます。...大丈夫です、二人一緒なら絶対負けませんから」
「メル...」
俺は何をやってるんだ。
俺よりかよわい女の子が勇気を出しているのに、俺は本当に何をやってるんだ。
俺はメルを守りたいんじゃない。
メルを、絶対に守るんだ。
「ありがとう」
「やっといつもの優しいお顔になりました...」
メルの心底安心した表情を見て、俺も安心した。
ー*ー
「二人とも、本当にありがとう」
「俺は二人を送って、それからおまえたちの家に行く。...じゃあな」
私はナタリーさんたちの馬車を見て、少し気づいたことがあった。
「あの、カムイ...」
「どうしたの?」
「あの馬車、なにか変でした」
「変...?」
「えっと、馬車の下の部分が擦れていて、あのままでは止まってしまうのではないかと思うのですが...」
車輪部分の形がおかしかった。
私とカムイが御者さんをやったときには、あんなふうに車輪は曲がっていなかったはずだ。
「大丈夫でしょうか...」
「早く伝えに行こう。今ならきっと、間に合うはずだ」
「はい!」
「メル、乗って!」
そこには、一頭の馬が用意されていた。
「...あ、待って。俺が先に乗るから」
カムイが手を差し出してくれる。
「足に負担がかからないように、先に痛む方からあげて?」
私の手をカムイがとってくれる。
「ありがとうございます」
でも、私は...こういうことに、なれていない。
馬に乗るのも二回目だ。
(それに、これだけ身体がくっつくのは緊張します!)
「メル?大丈夫...?」
前に乗った私の耳に、カムイの息がふっとかかる。
「...っ!カムイ、耳がくすぐったいです...」
「...!」
ー**ー
メルは恐らくなれていないだろうが...実は俺も、遠乗りは初めてだ。
「ごめん!」
「い、いえ...。あ、カムイ!あの馬車です!」
メルが指さしたそれは、間違いなく二人を乗せ、エリックが御者を勤めていた馬車だった。
しかし車輪は外れ、走れない状態になっている。
「みなさん...?」
「メル、降りられる?」
「はい!」
急いで駆け寄ると、馬車の近くに三人がいた。
三人とも、目立った怪我はない。
「何があったの?」
「...取り敢えず、二人を安全な場所へ運ぶぞ」
エリックはすれ違いざまに、俺にあるものを渡してきた。
『やあ。きみの邪魔なものは、僕がお片づけしてあげる!』
...それとともに、矢の欠片がついていた。
ー*ー
「カムイ...?」
カムイは怒りを露にしている。
「カムイ、落ち着いてください。まずは、その矢を調べてみますね」
「...」
「カムイ!」
私はカムイを抱きしめる。
「大丈夫です!二人一緒なら、きっと...」
「ごめん、メル。そうだね。俺は馬車の車輪を調べるよ」
私は矢の欠片を見つけた。
そして私は、眼帯を外す...。
「...この矢は、あの木から飛んできたものだと思います。毒が塗られていたわけではないということは、この馬車を止めるのが目的だったんじゃないでしょうか...?」
「うん、そうだね。それと...この車輪は、故意にここで故障するように仕組まれたようだ」
先程のカムイの様子からして、恐らくは例の人がやったのだろう。
でも私は、それを言ってはいけない気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから私たちは家へ戻り、エリックさんがやってきた。
「どうだ?何か分かりそうか?」
「もう少し調べさせて」
「ああ、分かった」
「ナタリーさんたちはご無事ですか?」
「ああ、怪我はなかったようだ」
その時、エリックさんを見て違和感を覚えた。
「失礼します」
「おい⁉」
エリックさんの洋服はビリビリに破れていて...擦り傷だらけだった。
ー**ー
「医務室にきて」
「しかし、」
「いいから早く!」
俺はエリックを無理やり医務室へと連れていく。
「大丈夫だよ、痛くしないから...」
「俺は子どもか...痛っ!」
「あんまり怪我しないでね?」
「...悪かったよ」
エリックはおとなしく治療を受け、帰っていった。
そのあとふと気づいた。
「メルはどうしてエリックが怪我をしてるって分かったの?」
「馬車の近くに、お洋服の破片が落ちていたので...」
「よく分かったね」
「はい!あ、お茶飲みますか?」
「ありがとう」
俺はそう言いながら、ある疑問がわいた。
(...メルの左眼の秘密ってなんだろう?)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

死に役はごめんなので好きにさせてもらいます

橋本彩里(Ayari)
恋愛
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。 前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。 愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。 フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。 どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが…… まったりいきます。5万~10万文字予定。 お付き合いいただけたら幸いです。 たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

自死を選ぼうとした少女を救う話

エスケー春馬
恋愛
キャバクラのボーイをしている主人公 そこに少しネガティブな女性に出会う。 しかし、その子をきっかけに 主人公の人生は大きく変わる。

気がついたら無理!絶対にいや!

朝山みどり
恋愛
アリスは子供の頃からしっかりしていた。そのせいか、なぜか利用され、便利に使われてしまう。 そして嵐のとき置き去りにされてしまった。助けてくれた彼に大切にされたアリスは甘えることを知った。そして甘えられることも・・・

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二 その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。 侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。 裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。 そこで先天性スキル、糸を手に入れた。 だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。 「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」 少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。

処理中です...