路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
上 下
84 / 220
Until the day when I get engaged. -In linear light-

第45話

しおりを挟む
ー**ー
今日はいよいよバレンタイン。
俺は誰よりも早起きをして、急いで材料を用意する。
(テンパリングに時間がかからないといいけど...)
俺はてきぱきと終わらせていく。
(よし、あとは固めて形に切れば終わりだ)
「カムイ...おはようございます」
「おはよう、メル」
俺は何事もなかったかのように振る舞う。
「ご飯、作りましょう」
「そうだね」
(バレなかった...よね?)
ドキドキしながら、俺は朝食の準備をした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お世話になりました!」
ナタリーはお辞儀する。
「こ、こちらこそ...」
メルが緊張したように言う。
「そんなに肩に力を入れないでよ!」
ぱしっ、と思いきりメルの背中を叩く。
「...っ」
メルは痛そうにしている。
あの怪力でやられたら当然か。
...いや、違う。メルの身体は...
「メル、包帯替えようか」
「はい」
「ナタリーは帰る準備して」
俺はメルの手を引き、ベッドルームへと入る。
「カムイ...?」
「メル、ちょっとだけ背中を見せてくれないかな?」
ー*ー
突然言われたので、私は少しだけ驚いた。
「いいですけど...」
私は着ていたブラウスのボタンを外し、中途半端に脱ぐ。
「ここ、痛かったんじゃない?」
それは、ナタリーさんにバシッとやられたところだ。
でも、痛い理由はそれではない。
「これだけ青痣になっていれば痛かったよね...」
カムイはそっと私の背中をさする。
「カムイっ、く、くすぐったいです」
「俺がもっと早くメルに出会えていたら、メルはこれだけ痛い思いをせずに済んだのにね...」
後ろからカムイの申し訳なさそうな声が聞こえてくる。
「もっと早くなんて、きっとないんですよ」
「メル...?」
「もしあの時、カムイに見つけてもらえなかったら、私は今もきっとマッチを売っていたと思います。もしかしたら、死んでしまっていたのかもしれません。だから...ありがとうございます、カムイ」
後ろから私の腰に腕がまわってくる。
その腕はとても優しく私の身体を抱きしめる。
「カムイ...?」
「本当にメルは優しいんだね」
「そうでしょうか?」
「うん」
しばらく心地よい沈黙がながれ、カムイが腕を解いた。
「もう大丈夫だから、服着て?」
「ごめんなさい!」
私は急いでボタンをとめる。
「多分この薬を飲めば、痛みがひくはずだよ」
私は少し体がビクリとはねた。
「く、薬ですか...?」
「もしかして、薬を飲むのは苦手?」
「うっ...」
言い当てられないように気をつけたつもりだった。
でも、やっぱりカムイには敵わない。
あっという間にバレてしまった。
(薬だけは...)
「苦いのが苦手なの?」
「...はい」
「じゃあ、飲ませてあげる」
「え...?飲ませてあげるって、」
どういう意味ですか、と聞く前にカムイが口づけてくる。
「んく...」
口のなかに何かが流れこんできて、私は飲みこんでしまう。
「...ね?ちゃんと飲めたでしょ?」
カムイのその一言で、何があったのかを理解した。
「...⁉恥ずかしいです...」
「ごめん、こうでもしないと飲んでくれないと思って」
「だからって...!」
「あ、そろそろナタリーを見送る時間だよ」
カムイが誤魔化すように言う。
「...はい」
私は急いで支度をする。
カムイが先に出たあと、私はトリュフを持っていく...。
ー**ー
「ごめんなさい!」
「ナタリー...。おいらこそ悪かっただよ」
二人が抱きあう姿を見て、俺もメルも少し感動していた。
「あの女性は誰だったの?」
「あの人は、おいらが迷子の子を見つけて、肩車してたらその子の親だっただよ。『感謝してます』って飛びつかれただよ...」
「そうだったの⁉」
ベンはよく子どもになつかれる。
出会った頃からそうだった。
ベンは本当に変わらない。
(一番変わったのは俺かな)
そんなことを考えながら、隣にいるメルの背中をそっと押す。
「チョコレート、渡しておいで」
「はい。...あの、ベンさん!その、作ったんです!食べてください」
「ありがとうだよ、お嬢さん」
メルは嬉しそうにしている。
「ベン。あたしも作ってみたの。...食べてみてくれる?」
「...分かっただよ」
ここはフォローを入れるべきか悩んでいると、メルが先に話しはじめた。
「ナタリーさん、一生懸命練習したんですよ」
ー*ー
どうしてもナタリーさんの気持ちが伝わるようにお手伝いしたくて。
「ナタリーさんは手が痛くなるくらい練習したんです!ベンさんに食べてほしくて、練習したんです。だから...」
「メル...」
「お嬢さんに言われなくてもちゃんと食べるだよ」
「よかったです!」
私はナタリーさんの役に立てただろうか。
「メル、あんまり二人の邪魔をしたらいけないから、もう行こう」
「そうですね。お二人とも、仲良く過ごしてくださいね!」
私はカムイと一緒に、エリックさんの家へと馬車で急ぐ。
(家に帰ったらカムイにアップルグラッセを渡しましょう)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

死に役はごめんなので好きにさせてもらいます

橋本彩里(Ayari)
恋愛
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。 前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。 愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。 フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。 どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが…… まったりいきます。5万~10万文字予定。 お付き合いいただけたら幸いです。 たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

自死を選ぼうとした少女を救う話

エスケー春馬
恋愛
キャバクラのボーイをしている主人公 そこに少しネガティブな女性に出会う。 しかし、その子をきっかけに 主人公の人生は大きく変わる。

気がついたら無理!絶対にいや!

朝山みどり
恋愛
アリスは子供の頃からしっかりしていた。そのせいか、なぜか利用され、便利に使われてしまう。 そして嵐のとき置き去りにされてしまった。助けてくれた彼に大切にされたアリスは甘えることを知った。そして甘えられることも・・・

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二 その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。 侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。 裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。 そこで先天性スキル、糸を手に入れた。 だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。 「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」 少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。

処理中です...