クラシオン

黒蝶

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『化け猫』

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色々な人たちが話す言葉の意味を考えながら、毎日少しずつ飲む量が増えている薬を見つめる。
もしかすると、体がもう...
「...にゃあ」
「いらっしゃいませ。大変失礼いたしました。お客様、こちらへどうぞ」
ぼんやり考えている場合ではないとすぐさま立ち上がる。
どんな相手であれ、お客様であることに変わりはない。
...そしてこの時期になると毎年増えるのが、人間ではないお客様だ。
「猫さん...ではありませんね。ネロさん、今年もいらっしゃってくださったんですね」
そう話しかけると目の前の猫から煙のようなものが出てきて、そのなかからもふもふの猫耳が出てきた。
「僕のこと、本当に覚えてたんだね」
「1度いらっしゃったお客様のことは忘れませんので...よろしければこちらでお待ちください」
人間に化け物と言われたという話がこの時期はいつも以上に聞こえてくる。
あの人がいた頃からの常連客もいれば、独りになってからやってきたお客様もいらっしゃることも少なくない。
「人間がどんちゃん騒ぎしてくれるおかげで紛れられるのはありがたいけど、見つかったらって不安はある」
以前にも同じような内容を聞いたことがあるような気がするが、恐らく彼はそれも分かったうえで話しているのだろう。
「...困りごとがなければ、この店には辿り着けませんよ」
「大丈夫だよ、人間に見つかるなんてヘマはしてないから」
ネロさんはそれだけ話すとにししと笑った。
変わりないようで安心したが、それならば何故ここにこられたのだろうか。
「今日お客として来たのは僕じゃないよ。多分だけど、この子が近くにいたからだ」
ぱっと見ただけでは彼女が何者なのか分からなかった。
人間を毛嫌いしているネロさんが人間を連れているはずがない。
付喪神にしては雰囲気が違う。
『相手のことが分からないときはよく観察してみることだ。それによって、相手がどこの誰か分かるかもしれない』
あの人の言葉どおりにやってみよう、そんなことを考えながら相手を見つめる。
虚ろな瞳に球体関節...そういうことか。
「どこかで子どもたちの為に作られた人形さん、ということでしょうか」
「多分ね。だけどこの子、生まれてきたばっかりみたいなんだ。恨みからなのか哀しみからなのかは分からないけど、僕だけじゃどうしようもない。
一緒に連れていってもいいとは思ってるんだけど、名前とか捨てた相手についてとか知っておかないと後々大変になるでしょ?だから...」
とてつもなく冷たい空気が背筋をはしった瞬間、ネロさんの口から言葉が紡がれた。
「だからさ、僕とこの子に何か料理を作ってほしいんだ。できれば、この子の心を癒せるものをね」
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