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偽りの笑顔
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少女は本当に美味しそうに食べてはいるものの、何かが気になっているのか外を眺めてばかりいる。
「お客様、デザートをお持ちしました」
何がいいのか分からないまま、定番のクッキーと紅茶をお出ししてみる。
どんな反応がかえってくるのか不安ではあるが、心から美味しいと思ってもらえればそれだけで充分だ。
「この形...紅葉ですか?」
「はい。申し訳ありません、もう少し手先が器用ならよかったのですが...」
型がないものは手作りしているのだが、残念なことにあの人ほど器用ではない。
もっとお客様を楽しませたいと思ってもこれが限界だ。
「庭の方を眺めていらっしゃったので紅葉がお好きなのかと思ったのですが、間違っていましたか?」
「...いいえ。ありがとうございます」
彼女に嫌がっている様子は見られない。
ただ、何故ずっと笑顔を作っているのかかなり気になる。
「お客様は、どうしてずっと笑っていらっしゃるんですか?」
「え...?」
少女は呆然としていたが、はっとしたように顔をあげる。
「ごめんなさい。そんなこと、訊かれたことがなかったから...吃驚しちゃいました」
彼女は、そうですねと思案するように言葉を続ける。
「笑っていれば、誰かに不快な思いをさせることはないでしょう?
それに、周りに笑顔で接していれば詮索されるようなことはないから...」
間違いない。彼女は傷ついている。
そして、その理由を周囲に否定されるのが怖いと感じている...だから笑顔で誤魔化して何も話さない。
傷つけられるのが怖くて何も言えないんだろう。
或いは、周囲を信用できないのかもしれない。
『笑顔を作るのが上手ってことは、本当の気持ちを殺すのが上手ってことだ。
...そんなことを続けていれば、いつか必ず迷子になってしまう。人間同士じゃなくてもいいから、話せる相手がいると心が軽くなるんじゃないかな』
あの人はそんなことを言っていた。
昔は理解できなかったかもしれないか、今ならなんとなく分かる。
「あなたは、誰かの心に寄り添おうとしているんですね」
「そうできたらいいなって思っています。笑っているだけなら、私にもできますから」
「ですが、それならあなたの心は誰が救うんですか?」
瞬間、彼女から笑顔が消える。
少しして目が合ったときには、うっすらと涙が浮かんでいた。
「...仕方ないんです。私が我慢しないと、我慢しないと...」
必死に笑顔を作ろうとしているが、頬がひきつっていて口を閉ざしてしまう。
「ここでは、弱音を吐いていいんです。その為にこの場所があるんですから」
「お客様、デザートをお持ちしました」
何がいいのか分からないまま、定番のクッキーと紅茶をお出ししてみる。
どんな反応がかえってくるのか不安ではあるが、心から美味しいと思ってもらえればそれだけで充分だ。
「この形...紅葉ですか?」
「はい。申し訳ありません、もう少し手先が器用ならよかったのですが...」
型がないものは手作りしているのだが、残念なことにあの人ほど器用ではない。
もっとお客様を楽しませたいと思ってもこれが限界だ。
「庭の方を眺めていらっしゃったので紅葉がお好きなのかと思ったのですが、間違っていましたか?」
「...いいえ。ありがとうございます」
彼女に嫌がっている様子は見られない。
ただ、何故ずっと笑顔を作っているのかかなり気になる。
「お客様は、どうしてずっと笑っていらっしゃるんですか?」
「え...?」
少女は呆然としていたが、はっとしたように顔をあげる。
「ごめんなさい。そんなこと、訊かれたことがなかったから...吃驚しちゃいました」
彼女は、そうですねと思案するように言葉を続ける。
「笑っていれば、誰かに不快な思いをさせることはないでしょう?
それに、周りに笑顔で接していれば詮索されるようなことはないから...」
間違いない。彼女は傷ついている。
そして、その理由を周囲に否定されるのが怖いと感じている...だから笑顔で誤魔化して何も話さない。
傷つけられるのが怖くて何も言えないんだろう。
或いは、周囲を信用できないのかもしれない。
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「ですが、それならあなたの心は誰が救うんですか?」
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「...仕方ないんです。私が我慢しないと、我慢しないと...」
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