142 / 216
笑顔の仮面
しおりを挟む
「本日もお疲れ様でした。部屋でゆっくり休んでてね」
今日も小夜さんに掃除を手伝ってもらい、そんな言葉をかける。
彼女の背中に向かってこっそり砂時計をかざしてみたが、やはり砂がびくとも落ちていかない。
この原因を探る為にも、あの人に早く帰ってきてほしいところだが...。
そんなことを考えていると、今宵もお客様がやってくる。
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」
「あの...僕、気づいたらここにいたのでここがどんな場所なのかとか全然分からないんですけど...」
「当店はカフェとなっております。お客様に合いそうな飲み物や料理、デザートを楽しんでいただくことになっています」
説明はこれくらいでいいだろうか。
「一先ず、こちらをお召し上がりください。少しずつ外が冷えてきていますから」
最近、少しだけ秋らしい気候になってきたような気がする。
夜風が冷たさを帯びるようになった今、ここまで歩いてきた彼女は凍えるような寒さを味わいながらやってきたに違いない。
「ありがとうございます。...いただきます」
彼女、で合っていると思うが、ボーイッシュな見た目だけでは判断しきれない。
「美味しい...久しぶりにこんなに美味しいものを食べられました」
暴力を受けているのか、それとも食べ物を受けつけない体なのか...あるいは、また別の理由があるのか。
「あの...これだけ美味しい料理を作れるのに、どうしてこんな山奥にお店があるんですか?」
色々なお客様に訊かれたことがあるが、どう答えるのが正解か分からない。
「ここの店主の意向です。ここまで辿り着ける人はそんなに多くありませんし、美味しいものを食べてほしいとの願いがこめられています」
それは、いつか昔にあの人が話していたことだ。
『こんな山奥まで来てくれる人たちがいるなら、美味しいものを食べてほしいって思うだろう?
わざわざ来たというより、無意識のうちに辿り着いてしまう人たちもいるんだけどね』
歩いていたらいつの間にか、ということは後者のパターンだろう。
「アレルギー等はございませんか?」
「大丈夫だと思います」
本当に残り物しかないような状態で申し訳ないが、角煮を温めなおすことにする。
それにしても、先程の言葉の意味は何だろう。
久しぶりに美味しいものを食べられた...この言葉の裏に何が隠されているのか知らなければ、きっと彼女を手助けすることはできない。
そんなことを考えていると、彼女は困ったように笑いながら息をするように言った。
「...僕は疲れてしまったんです。だから、誰かに殺してほしくて外出していたら辿り着きました」
今日も小夜さんに掃除を手伝ってもらい、そんな言葉をかける。
彼女の背中に向かってこっそり砂時計をかざしてみたが、やはり砂がびくとも落ちていかない。
この原因を探る為にも、あの人に早く帰ってきてほしいところだが...。
そんなことを考えていると、今宵もお客様がやってくる。
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」
「あの...僕、気づいたらここにいたのでここがどんな場所なのかとか全然分からないんですけど...」
「当店はカフェとなっております。お客様に合いそうな飲み物や料理、デザートを楽しんでいただくことになっています」
説明はこれくらいでいいだろうか。
「一先ず、こちらをお召し上がりください。少しずつ外が冷えてきていますから」
最近、少しだけ秋らしい気候になってきたような気がする。
夜風が冷たさを帯びるようになった今、ここまで歩いてきた彼女は凍えるような寒さを味わいながらやってきたに違いない。
「ありがとうございます。...いただきます」
彼女、で合っていると思うが、ボーイッシュな見た目だけでは判断しきれない。
「美味しい...久しぶりにこんなに美味しいものを食べられました」
暴力を受けているのか、それとも食べ物を受けつけない体なのか...あるいは、また別の理由があるのか。
「あの...これだけ美味しい料理を作れるのに、どうしてこんな山奥にお店があるんですか?」
色々なお客様に訊かれたことがあるが、どう答えるのが正解か分からない。
「ここの店主の意向です。ここまで辿り着ける人はそんなに多くありませんし、美味しいものを食べてほしいとの願いがこめられています」
それは、いつか昔にあの人が話していたことだ。
『こんな山奥まで来てくれる人たちがいるなら、美味しいものを食べてほしいって思うだろう?
わざわざ来たというより、無意識のうちに辿り着いてしまう人たちもいるんだけどね』
歩いていたらいつの間にか、ということは後者のパターンだろう。
「アレルギー等はございませんか?」
「大丈夫だと思います」
本当に残り物しかないような状態で申し訳ないが、角煮を温めなおすことにする。
それにしても、先程の言葉の意味は何だろう。
久しぶりに美味しいものを食べられた...この言葉の裏に何が隠されているのか知らなければ、きっと彼女を手助けすることはできない。
そんなことを考えていると、彼女は困ったように笑いながら息をするように言った。
「...僕は疲れてしまったんです。だから、誰かに殺してほしくて外出していたら辿り着きました」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
Tell me eMotion
黒蝶
キャラ文芸
突きつけられるのは、究極の選択。
「生き返るか、僕と一緒にくるか...」
全てに絶望した少女・雪芽は、ある存在と出会う。
そしてその存在は告げる。
「僕には感情がないんだ」
これは、そんな彼と過ごしていくうちにお互いの心を彩づけていく選択の物語。
※内容が内容なので、念のためレーティングをかけてあります。
皓皓、天翔ける
黒蝶
ライト文芸
何の変哲もない駅から、いつものように片道切符を握りしめた少女が乗りこむ。
彼女の名は星影 氷空(ほしかげ そら)。
いつもと雰囲気が異なる列車に飛び乗った氷空が見たのは、車掌姿の転校生・宵月 氷雨(よいづき ひさめ)だった。
「何故生者が紛れこんでいるのでしょう」
「いきなり何を……」
訳も分からず、空を駆ける列車から呆然と外を眺める氷空。
氷雨いわく、死者専用の列車らしく…。
少女が列車の片道切符を持っていた理由、少年に隠された過去と悲しき懺悔…ふたりは手を取り歩きだす。
これは、死者たちを見送りながら幸福を求める物語。
泣けない、泣かない。
黒蝶
ライト文芸
毎日絶望に耐えている少女・詩音と、偶然教育実習生として彼女の高校に行くことになった恋人・優翔。
ある事情から不登校になった少女・久遠と、通信制高校に通う恋人・大翔。
兄である優翔に憧れる弟の大翔。
しかし、そんな兄は弟の言葉に何度も救われている。
これは、そんな4人から為る物語。
《主な登場人物》
如月 詩音(きらさぎ しおん):大人しめな少女。歌うことが大好きだが、人前ではなかなか歌わない。
小野 優翔(おの ゆうと):詩音の恋人。養護教諭になる為、教育実習に偶然詩音の学校にやってくる。
水無月 久遠(みなづき くおん):家からほとんど出ない少女。読書家で努力家。
小野 大翔(おの ひろと):久遠の恋人。優翔とは兄弟。天真爛漫な性格で、人に好かれやすい。
ハーフ&ハーフ
黒蝶
恋愛
ある雨の日、野崎七海が助けたのは中津木葉という男。
そんな木葉から告げられたのは、哀しい事実。
「僕には関わらない方がいいよ。...半分とはいえ、人間じゃないから」
...それから2ヶ月、ふたりは恋人として生きていく選択をしていた。
これは、極々普通?な少女と人間とヴァンパイアのハーフである少年の物語。
夜紅の憲兵姫
黒蝶
ライト文芸
烏合学園監査部…それは、生徒会役員とはまた別の権威を持った独立部署である。
その長たる高校部2年生の折原詩乃(おりはら しの)は忙しい毎日をおくっていた。
妹の穂乃(みの)を守るため、学生ながらバイトを複数掛け持ちしている。
…表向きはそういう学生だ。
「普通のものと変わらないと思うぞ。…使用用途以外は」
「あんな物騒なことになってるなんて、誰も思ってないでしょうからね…」
ちゃらい見た目の真面目な後輩の陽向。
暗い過去と後悔を抱えて生きる教師、室星。
普通の人間とは違う世界に干渉し、他の人々との出逢いや別れを繰り返しながら、詩乃は自分が信じた道を歩き続ける。
これは、ある少女を取り巻く世界の物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる