クラシオン

黒蝶

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笑顔の仮面

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「本日もお疲れ様でした。部屋でゆっくり休んでてね」
今日も小夜さんに掃除を手伝ってもらい、そんな言葉をかける。
彼女の背中に向かってこっそり砂時計をかざしてみたが、やはり砂がびくとも落ちていかない。
この原因を探る為にも、あの人に早く帰ってきてほしいところだが...。
そんなことを考えていると、今宵もお客様がやってくる。
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」
「あの...僕、気づいたらここにいたのでここがどんな場所なのかとか全然分からないんですけど...」
「当店はカフェとなっております。お客様に合いそうな飲み物や料理、デザートを楽しんでいただくことになっています」
説明はこれくらいでいいだろうか。
「一先ず、こちらをお召し上がりください。少しずつ外が冷えてきていますから」
最近、少しだけ秋らしい気候になってきたような気がする。
夜風が冷たさを帯びるようになった今、ここまで歩いてきた彼女は凍えるような寒さを味わいながらやってきたに違いない。
「ありがとうございます。...いただきます」
彼女、で合っていると思うが、ボーイッシュな見た目だけでは判断しきれない。
「美味しい...久しぶりにこんなに美味しいものを食べられました」
暴力を受けているのか、それとも食べ物を受けつけない体なのか...あるいは、また別の理由があるのか。
「あの...これだけ美味しい料理を作れるのに、どうしてこんな山奥にお店があるんですか?」
色々なお客様に訊かれたことがあるが、どう答えるのが正解か分からない。
「ここの店主の意向です。ここまで辿り着ける人はそんなに多くありませんし、美味しいものを食べてほしいとの願いがこめられています」
それは、いつか昔にあの人が話していたことだ。
『こんな山奥まで来てくれる人たちがいるなら、美味しいものを食べてほしいって思うだろう?
わざわざ来たというより、無意識のうちに辿り着いてしまう人たちもいるんだけどね』
歩いていたらいつの間にか、ということは後者のパターンだろう。
「アレルギー等はございませんか?」
「大丈夫だと思います」
本当に残り物しかないような状態で申し訳ないが、角煮を温めなおすことにする。
それにしても、先程の言葉の意味は何だろう。
久しぶりに美味しいものを食べられた...この言葉の裏に何が隠されているのか知らなければ、きっと彼女を手助けすることはできない。
そんなことを考えていると、彼女は困ったように笑いながら息をするように言った。
「...僕は疲れてしまったんです。だから、誰かに殺してほしくて外出していたら辿り着きました」
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