クラシオン

卑下

「...は、」
息が苦しい。仕方なく、いつもどおり小さい引き出しから薬を取り出す。
お客様だっていらっしゃっているのに、体調不良で寝込む訳にはいかない。
それに、もっと頑張らないとあの人に会えない気がする。
...気のせいだとは思うが。
「お客様、おはようございます。ゆっくり休めましたか？」
「はい。ありがとうございます」
「それはよかった。こちらが朝食になります」
「美味しそう...！いただきます」
少女は食器を傷つけないように気をつけながら、一口、また一口と食べている。
そんな様子がなんだか微笑ましくて、ついじっと見てしまう。
「私なんかにもこんな美味しいご飯をありがとうございます」
「デザートもご用意させていただきます」
「ありがとうございます」
彼女は確かに言った。
『──、私なんかとか私なんてと卑下して話す人は、それだけ心を抉られてきた人なんだ。
寂しかったことをずっと言えなくて、常に孤独と戦っている。自分では気づかないうちに自虐を繰り返している人なんだよ』
...もしあの人の言葉が本当なら、目の前にいる彼女の心は爆発寸前まで傷ついているのかもしれない。
「店長さんは、私みたいな地味子にも優しいんですね」
「地味子...？」
その言葉に首を傾げると、少女は話してくれた。
「地味だけど役にたつから...あの人たちが友だちだって話していたのはそういうことだったらしいんです。
確かに一緒にいた人たちはいつも輝いていて、美人で、モデル体型で...私とは全然違うタイプです」
地味なのは仕方ない、私なんてと自棄になってしまっているのかもしれない。
だが、地味子というのは一体どういう意味で発せられたものなのだろうか。
「友だちだから何でも許して、我慢するしかないのかな...」
彼女は友人だと話しながら迷っている。
相手に小馬鹿にしたように言われたのか、そういった態度をとっていたのかは分からない。
だが、それでもただ疑問が残る。
作業していた手を止め、涙目の少女と向き合った。
そして、紅茶を置いてただひとつ尋ねる。
「あなたにとって、友人とは何でしょうか？」
「それは一緒にいる人のことで...」
彼女の声はだんだん小さくなっていき、最後には黙りこんでしまった。
彼女がそう思わなければやってこられなかったことには人間の残忍さを感じるが、自らに言い聞せすぎてそれが当然だと思いこんでしまっている。
だから、ただ思ったことを口にした。
「...嫌なことを我慢してまで、ですか？」