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まとわられるもの
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「先程仰っていた、追われているとは一体どういうことですか?」
少年はやはり何かに怯えているのか、なかなか話し出せそうにない。
...無理矢理訊くのも酷だろう。
「しばらくお休みになっては如何でしょうか?それほど豪華なものではありませんが、一応部屋はあるのでよろしければお使いください。
あまり休めていないのなら、今はゆっくり睡眠をとった方がいいかもしれません」
「ありがとうございます...」
やはり彼は疲れているのか、ゆっくりと案内した部屋に向かって歩きはじめる。
それを急かすことなく見守りながら、そっと部屋の明かりを落とした。
「それでは、ごゆっくりお休みくださいませ」
扉を閉めると、グラスが空になっていることに気づく。
それだけ真面目な少年が追いつめられることとは、一体どんな内容なのだろうか。
彼が部屋から出てきたのは夕方で、先程よりは表情が少し和らいでいる...ような気がする。
「お客様。きちんとお休みになられましたか?」
「はい。こんなに沢山寝たのは久しぶりかもしれません。
...頭の中で少しずつ話がまとまってきました」
少年の口から言葉が紡ぎ出されるのをじっと待つ。
「僕は最初、相手が好意を持ってくれていると思っていたんですけど...全然知らない人でした」
その一言に背筋が凍る。
全く知らない相手に、自分のことは何故か知られてしまっている...まさかそんな恐ろしいことがあるとは思わなかった。
「友人も恋人も部活も全部と距離をおくようにしています。諸事情あるからとしか説明できていません。
独りになっているところで警察に駆けこんだりしているんですけど、事件性がないからって...。僕が悪いんでしょうか?」
彼は孤独とも戦っている。
それがどれだけ辛いことか、想像するだけで胸が苦しくなった。
必死に警察に助けを求めたというのにそれさえ受け入れてもらえず、ずっと逃げ続けるしかない...。
その状況で、どうすれば絶望せずにいられるだろう。
「因みに警察ではどんな話をしましたか?」
「...後をつけられて困っているって。ただ、それじゃ駄目だったみたいなんです。
思い過ごしだろうとか、青春時代によくある恋だとか...。僕は向こうの名前さえ知らないのに」
彼は体を震わせ、涙を零しはじめる。
その肩にどれだけの苦しみを背負ってきたのだろう。
『基本的に証拠がものを言う世界だったりするから、被害妄想で終わられてしまうことも少なくないみたいだ。
...ストーカーには自らがストーカーだという自覚がないしね』
あの人の哀しそうな声も思い出し、ただ少年の側に寄り添う。
どう声をかけるのがいいのか全く分からなかった。
少年はやはり何かに怯えているのか、なかなか話し出せそうにない。
...無理矢理訊くのも酷だろう。
「しばらくお休みになっては如何でしょうか?それほど豪華なものではありませんが、一応部屋はあるのでよろしければお使いください。
あまり休めていないのなら、今はゆっくり睡眠をとった方がいいかもしれません」
「ありがとうございます...」
やはり彼は疲れているのか、ゆっくりと案内した部屋に向かって歩きはじめる。
それを急かすことなく見守りながら、そっと部屋の明かりを落とした。
「それでは、ごゆっくりお休みくださいませ」
扉を閉めると、グラスが空になっていることに気づく。
それだけ真面目な少年が追いつめられることとは、一体どんな内容なのだろうか。
彼が部屋から出てきたのは夕方で、先程よりは表情が少し和らいでいる...ような気がする。
「お客様。きちんとお休みになられましたか?」
「はい。こんなに沢山寝たのは久しぶりかもしれません。
...頭の中で少しずつ話がまとまってきました」
少年の口から言葉が紡ぎ出されるのをじっと待つ。
「僕は最初、相手が好意を持ってくれていると思っていたんですけど...全然知らない人でした」
その一言に背筋が凍る。
全く知らない相手に、自分のことは何故か知られてしまっている...まさかそんな恐ろしいことがあるとは思わなかった。
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