クラシオン

黒蝶

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一夜限りの降臨

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あれから数日、また随分と体調を崩していた。
「...小夜さん、ご飯は冷蔵庫に入っているので温めて食べてくださいね」
彼女の目をいつまで誤魔化せるだろうか。
騙していることに罪悪感がないわけではない。
それでも、体調不良は絶対に悟られたくなかった。
「...はあ」
薬を飲んでから少し寝て料理の仕こみをしていると、目映い光が集まってくる。
驚きただ呆然としていると、衣のようなものを纏った天女らしき人物が立っていた。
「いらっしゃいませ。そちらにおかけになってお待ちください」
まさかそんな人物の接客をすることになるとは思っていなかったので、ただただ驚くばかりだ。
ただ、表情に出せばただの失礼になるのでぐっと堪え、あくまでいつもどおりを装う。
「ほうじ茶です」
「...ありがとうございます」
か細い声ではあったが、彼女はただ小さくそう呟いた。
「お疲れでしたら部屋が空いているのでそちらでお休みになっていただければ...」
「いいえ。そんなことをしている場合ではないのです」
そういえば制約があったと思い出す。
恐らく彼女は夜の間しか地上で活動することはできない。
それに今は、織姫様の為にと準備で忙しいはずだ。
『天女というものは働き者で受けた恩は絶対に忘れない。ただ、恨みも絶対に忘れないけどね』
そんな恐ろしい話をされたこともあったと、今になって思い出す。
とにかく失礼がないようにだけはしようと思っていると、目の前の女性はゆっくり話しはじめた。
「本当は逃げたくてここに来たのですが、もう疲れてしまったのです」
「...失礼でなければ、どんなことがあったのか話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「姫様がとにかく我儘で、皆困っているのです。
年に1度だからと堪えているのですが、10日も共にいると精神がすり減ります。
1番高価なものを出せだとかこの色は気に入らないだとか、暴言や暴力をふるわれた者もいます」
要するに、天女たちは織姫からパワハラを受けているということだろうか。
「悪口を言ってはいけないと思いつつ、失礼がない程度に注意しました。
そうするといきなり怒らせてしまったようでして...もう手に追えないのです」
面倒見がいい天女たちでさえ辛くなるほどのものとは、一体どれだけの仕打ちを受けてきたのだろうか。
「気休めにしかならないかもしれませんが、もしよかったらこれを書いてみませんか?」
失礼になるかもしれないと思いつつ、ただ天に願いが届いてほしかった。
...短冊を受け取った天女はさらさらと流れるように何かを綴る。
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