クラシオン

黒蝶

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ポリシー

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どんな種族だろうと、どんな存在だろうと関係ない。
お客様が居心地よく過ごしてくれることだけを祈り、その場を造りあげられればそれでいいのだ。
...いつかあの人が帰ってくるその日まで、俺はこの場所を護り続ける。
「いらっしゃいませ。いつものですか?」
「はい。お願いします」
この日やってきた妖精にはいつもの元気がなかった。
どんなときでも笑っていられるようにといつも話しているあの妖精が、だ。
『お客様の心の声に耳を傾けるんだ。そうすればきっと、君のことに気づいてくれる人が現れるはずだから。
...本気で向き合わないと駄目なんだよ、──』
あの人の言葉を思い出しながら、少しずつ手を動かしていく。
「お節介だったら申し訳ないんだけど、何かあった?」
「何か、とは?」
「いつも窓枠からしか受け渡せないのに、今回は店に入れてる。
...つまり、今日の君はお客様ということだ」
彼女の瞳はゆらゆらと揺れていて、どこか危うい色を含んでいた。
「詳しく話せないならそれでもいいから、新商品を試していきませんか?」
「それじゃあ...」
「お待たせしました」
そこに描いたのは、ファンシーともいえるクマの顔だった。
本来ならこんなに温厚なはずはないのだが、やはりこういったものを用意するのは楽しい。
「とても可愛らしいですね。...それに、前より上手くなったのね」
「ありがとうございます」
一口飲んだ瞬間に頬がゆるんだ彼女を見逃さなかった。
今なら話してもらえるだろうか。
「何か不安なことでもあるの?」
「...最近野蛮な人間が増えているらしいの。この前お店を通りかかったときに見掛けたから不安で...」
「先日のお客様は、」
「もしこのお店に何かあったら、」
「──シルキー」
彼女の名前を呼んだのはいつ以来だろうか。
白の妖精シルキー...そう名乗られたのが随分昔のことのように思える。
「ごめんなさい、お客様のことは話せないんですよね」
「秘密と約束は護るのが、俺の主義ですから。
...ただ、あなたは人間に傷つけられたことがあったんでしたね」
シルキーは元はお客様のうちのひとりだった。
今は商品の取引もしているが、はじめはそんな関係ではなかったのだ。
「人間の中には悪意を持っているものもいるの。...気をつけてね」
「心配してくれてありがとう。...それで心が揺らいだから、今日はお客様だったのかもしれないね」
彼女は申し訳なさそうに頷きながら、ゆっくりと立ちあがる。
「とても美味しかった。ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました」
席を立ち、いつもの商品を持って帰っていく。
そんな後ろ姿を見つめながら、彼女の言葉が反芻した。
「...『人間の中には悪意を持ったものもいる』
か」
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