クラシオン

大切な友だち

「家に居場所がなくて、こんなふうに温かいご飯を食べられることも滅多になかった。
...そのなかで、親友との時間だけが救いだったんです」
その少女は哀しそうに俯き、ただ涙を零す。
それが自らを責めるものだということは、見ていればすぐに理解できた。
「...実は先日、あなたのお友だちがこちらへいらっしゃいました」
「え、真白がですか？」
「『あなたのせいではない』と伝えてほしいと頼まれて、」
「そんなはずありません。だって真白はもう死んでいるのに、どうやってこのお店まで来たっていうんですか？
慰めるにしてもあんまりです...！」
この様子では、どうやら彼女は気づいていないらしい。
「それなら今目の前に君がいることもおかしいということになるはずだけど...」
「どういう、ことですか？」
「本当に気づいてないの？だって君も死者なのに」
「私が、死者...？」
少女の瞳は一気に焦りを帯びたものへと変化する。
「冗談はやめてください。それならどうしてここまで...」
「その頭の傷は、君が友人と事故に遭ったときのものだろう。
でも、その手首にある不自然な傷は？どこでついたものなのか覚えがないんじゃないかな」
それでも信じてもらえそうにないので、町で手に入れた新聞を広げた。
ある記事に目を通した少女は、ただ呆然とその場に座りこんでいる。
【重大事故発生！1人死亡、もう1人は病室で自殺か】
「...これで信じてもらえたかな」
「思い、出しました。真白に会えないなら意味がないと思って、近くにあったカッターで手首を...」
震える彼女に諭すように話す。
「死んだ人間というのは、時々死んだときの記憶が曖昧になってしまうことがあるんだ。
でも、それを受け入れて進むしかないんだよ」
「受け入れてって、どうやって...」
「君には視えていないの？...あんなに大きな道があるのに」
そこには大きな虹の橋がかかっていて、それを通れるのは彼女だけだ。
「あれ、橋なんですか...？」
「そうだよ。君にしか渡れない、君のことを待っている人がかけてくれた橋だ。
そして通れるのは死者だけ、つまり君だけなんだよ」
「あ、あの...テイクアウトってできますか？」
突拍子のない質問に、俺はただ笑って答える。
「勿論。...どうかお友だちと一緒に楽しんでください」
笑顔で立ち去っていく姿を見送りながら、顧客名簿に記録する。
湯気がたちのぼるなか、俺は独り空をみあげた。