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プロローグ
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嗚呼、なんてつまらない毎日なんだろう。
周りから聞こえるのは、嘲笑する声。
獣のような鋭い瞳で私を見下ろす数々の視線に耐えきれず、屋上まで逃げてしまった。
そんなことを毎日繰り返していると、やっぱりばれてしまうみたい。
「通信制に転入してみないか?」
職員室、そう声をかけてくれた先生に私の思いを伝えに行く。
「そうか。…すぐに願書の手配をしておく」
横向きにしている左手から右手を垂直に上げる動作をして一礼すると、先生は申し訳なさそうな顔をしていた。
「俺にはありがとうなんて言われる資格はない。…守りきれず本当にすまない」
私は首を横にふる。
この先生だけはずっと親身になって話を聞いてくれた。
どんなに時間がなくても、真っ直ぐ私の言葉を受け止めようとしてくれていたことが嬉しかったんだ。
資料に名前を記入して、すぐ旧校舎に隠れる。
もう使われなくなった教室がほとんどだけど、何故か建物が残ったままで…ここなら誰も来ないから安心だ。
新しい譜面を見ながら、指だけでエアーキーボードの練習をする。
教科書をたんたん叩いていると、がらっと扉が開かれた。
「……あれ、先客?」
いつもなら誰もいないのに、今日に限って知らない人がいる。
笑顔が爽やかな人で、困ったように後ずさっていく。
「ごめん。俺がいると休めないよね」
首を横にふって立ちあがって、そのまま一礼して逃げてしまった。
本当はもっとちゃんと話したいのに、今の私じゃ日常会話すらままならない。
バイト先に行くと、いつも親切に話しかけてくれる先輩が声をかけてくれた。
「仕事には慣れたか?」
「……」
ゆっくり頷くと、先輩はふっと笑っていた。
「そっか。猫たちも慣れてきてるみたいだ」
ここで知り合ってからというもの、先輩にはお世話になっている。
「そういえば…古書店の夜のバイトの話、通しておいた。大丈夫そうか?」
メモ帳とボールペンを取り出すと、先輩は書き終わるまで待ってくれた。
「【何から何までありがとうございます。頑張ります】」
「もし気に入ったなら正社員になってほしいって言ってたよ。店主さんはいい人だし、バイトさんも優しい人たちがいるんだ。
男性が多い職場ではあるけど、私も楽しく働かせてもらってる。また何か困ったことがあったら言ってくれ」
「【ありがとうございます】」
「今日は早上がりだったな。お疲れ」
先輩は私の憧れの女性だ。
仕事をしながら胸ポケットを確認する。
メモ帳とボールペン…これが私の会話ツールだ。
ズボンのポケットに手を入れたとき、さっと血の気が引いていく。
…とても大切なものを落としてしまった。
なんとかバイトは無事にこなせたけど、どこに落としたか気になって仕方がない。
もうすぐ通信制の生徒になるという楽しみと、旧校舎であったことを思い出しながら、どうしたものかと静かに息を吐いた。
周りから聞こえるのは、嘲笑する声。
獣のような鋭い瞳で私を見下ろす数々の視線に耐えきれず、屋上まで逃げてしまった。
そんなことを毎日繰り返していると、やっぱりばれてしまうみたい。
「通信制に転入してみないか?」
職員室、そう声をかけてくれた先生に私の思いを伝えに行く。
「そうか。…すぐに願書の手配をしておく」
横向きにしている左手から右手を垂直に上げる動作をして一礼すると、先生は申し訳なさそうな顔をしていた。
「俺にはありがとうなんて言われる資格はない。…守りきれず本当にすまない」
私は首を横にふる。
この先生だけはずっと親身になって話を聞いてくれた。
どんなに時間がなくても、真っ直ぐ私の言葉を受け止めようとしてくれていたことが嬉しかったんだ。
資料に名前を記入して、すぐ旧校舎に隠れる。
もう使われなくなった教室がほとんどだけど、何故か建物が残ったままで…ここなら誰も来ないから安心だ。
新しい譜面を見ながら、指だけでエアーキーボードの練習をする。
教科書をたんたん叩いていると、がらっと扉が開かれた。
「……あれ、先客?」
いつもなら誰もいないのに、今日に限って知らない人がいる。
笑顔が爽やかな人で、困ったように後ずさっていく。
「ごめん。俺がいると休めないよね」
首を横にふって立ちあがって、そのまま一礼して逃げてしまった。
本当はもっとちゃんと話したいのに、今の私じゃ日常会話すらままならない。
バイト先に行くと、いつも親切に話しかけてくれる先輩が声をかけてくれた。
「仕事には慣れたか?」
「……」
ゆっくり頷くと、先輩はふっと笑っていた。
「そっか。猫たちも慣れてきてるみたいだ」
ここで知り合ってからというもの、先輩にはお世話になっている。
「そういえば…古書店の夜のバイトの話、通しておいた。大丈夫そうか?」
メモ帳とボールペンを取り出すと、先輩は書き終わるまで待ってくれた。
「【何から何までありがとうございます。頑張ります】」
「もし気に入ったなら正社員になってほしいって言ってたよ。店主さんはいい人だし、バイトさんも優しい人たちがいるんだ。
男性が多い職場ではあるけど、私も楽しく働かせてもらってる。また何か困ったことがあったら言ってくれ」
「【ありがとうございます】」
「今日は早上がりだったな。お疲れ」
先輩は私の憧れの女性だ。
仕事をしながら胸ポケットを確認する。
メモ帳とボールペン…これが私の会話ツールだ。
ズボンのポケットに手を入れたとき、さっと血の気が引いていく。
…とても大切なものを落としてしまった。
なんとかバイトは無事にこなせたけど、どこに落としたか気になって仕方がない。
もうすぐ通信制の生徒になるという楽しみと、旧校舎であったことを思い出しながら、どうしたものかと静かに息を吐いた。
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