峽(はざま)

黒蝶

文字の大きさ
上 下
99 / 133
終幕

シェフの機転☆

しおりを挟む
「佐藤さん、さっきは...」
シェフが言葉を止める。
お客さんたちがいる方を見て、何かを察したようにお店の奥にある洗い場に案内された。
「またもや申し訳ないんだけど、御舟がいない分回転が悪くて...よかったらここで食器洗いをしてもらってもいいかな?勿論、休憩しながらでいいから」
シェフは笑っているけれど、また気を遣わせてしまった。
(今度こそ迷惑をかけないようにしないとって思っていたのに...)
「シェフ、」
「気にしなくていい。...寧ろこっちはいつも佐藤さんがいるお陰で助かってるから」
「...ありがとうございます」
俯いてないで自分に今できることをしようと巾着に誓って、そのまま作業をはじめる。
せめて、なんでもいいから役にたちたい。
その一心で洗い続けていると、いつの間にかお昼の休憩時間を過ぎていた。
「佐藤、まだご飯食べてないんじゃない?」
「...集中していて、時間を忘れていました」
「ここはしばらく大丈夫だから、賄い食べておいで」
食べても満腹感がないので平気です、なんて言えるはずもなく...私は導かれるままシェフのところへ向かう。
「いただきます」
「...どうだろう?」
「食感がいいです」
「...そうか」
シェフはそれ以上何も言わないでいてくれた。
本当は沢山言いたいこともあったはずなのに、このお店の人たちは本当に優しい。
「ありがとう、ございます」
「いつも同じサンドイッチじゃ飽きるんじゃないかと思っただけだから」
わざわざホットサンドを作ってくれた理由にも、優しさがこめられていた。
「何から何まで、本当に...」
「勝手にしただけだから」
シェフの言葉は少し不器用だったけれど、そこにもやっぱり優しさが滲み出ていた。
(シェフってちょっとだけ真昼に似てるのかもしれない...)
お昼からも食器を洗って、途中からレジの手伝いをして...。
なんとか一日働くことができた。
「お疲れ」
「真昼...」
いつの間にきていたのか、真昼は料理の香りと共にやってきた。
「千夜、大丈夫か?」
「全然大丈夫、だけど...」
もしかすると、シェフや店長さんから何か聞いたのだろうか。
「後でちゃんと話すから、今は待ってほしい」
「今日は泊まりにこい。...読みたいって言ってた本、手に入ったから」
私が頷くのを確認すると、真昼は厨房へ戻っていく。
(夜までに整理しておかないと...)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...