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ひとやすみ
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いつものようにおかしな夢を見て目が覚めてしまった俺は、取り敢えず朝食を用意…しようとしてやめた。
【四季を楽しむのは大切よ。少なくとも、私にとっては大切なの】
あの人の言葉を思い出し、なんとなくやってみたいことができた。
フルーツ用のお弁当箱と更に1段階小さなものを用意して、ふたりが寝ている間に仕上げていく。
「…できた」
ベランダにレジャーシートを敷き、用意しておいた弁当を広げる。
『随分豪華ですね』
「いつもどおりだと思うけど…。もしそういうふうに見えるなら、天気がいいからだな」
『何故突然こんなことをやろうと思ったんですか?』
「特に大きな理由はないんだけど、最近トラブルが多かっただろう?だから、慰労会みたいなものをしようと思ったんだ。
こういうことをやったことがないから、やり方が合ってるか分からないけど…」
いつも瑠璃にはお世話になりっぱなしだし、小鞠のことも振り回してしまっている。
だからせめて、トラブルの噂がない間にゆっくりしたいと思った。
料理くらいしかできないけど、ふたりが楽しんでくれればそれでいい。
『…何』
「どうした?」
『これ、何』
小鞠の言葉はあまり抑揚がないから時々迷うものの、今回はお弁当がどういうものなのか気になったらしい。
「これはお弁当箱。この中にご飯が入ってるんだ」
『あなたが食べていいものが入っているそぅですよ』
『いただきます』
「急いで食べなくても誰も取ったりしないよ」
小鞠にゆっくり楽しむように伝えながら、小鳥の前に置いたお弁当箱を開ける。
「瑠璃の分はこれだ」
『卵焼きが入っていますね。…この大きさで焼くのは苦労したのではありませんか?』
「実は何回か失敗した。味はなんとかなってすはずなんだけど…ごめん」
『こんなふうに作っていただけただけありがたいです』
瑠璃は心なしかいつもより穏やかな表情をしている気がする。
『ごちそうさまでした』
「喜んでもらえたみたいでよかった」
『美味しかった』
「そっか。それならまた今度天気がいい日にやろう」
『八尋は楽しめましたか?』
「え?」
どうしてそんなことを訊くんだろうと疑問に思いつつただ答える。
「俺はこうやって仲間…友人と一緒にご飯が食べられて楽しかったよ」
『そうですか』
「なんでそんなこと訊くんだ?」
小鞠の口を拭きながら瑠璃の方を見ると、ゆっくり口を開いた。
『こういったものは準備が大変でしょう?』
「それはそうだけど、俺がやりたくてやってることだから苦だと思わないんだ」
『それならいいのですが…』
「大丈夫。俺は無理してないよ」
『…そうでしたか』
なんだかんだでいつも心配させてしまっていることを申し訳なく思いながら、その場に出してあったものを少しずつ片づけていく。
どこかから飛んできた緑葉が春の終わりを告げていた。
【四季を楽しむのは大切よ。少なくとも、私にとっては大切なの】
あの人の言葉を思い出し、なんとなくやってみたいことができた。
フルーツ用のお弁当箱と更に1段階小さなものを用意して、ふたりが寝ている間に仕上げていく。
「…できた」
ベランダにレジャーシートを敷き、用意しておいた弁当を広げる。
『随分豪華ですね』
「いつもどおりだと思うけど…。もしそういうふうに見えるなら、天気がいいからだな」
『何故突然こんなことをやろうと思ったんですか?』
「特に大きな理由はないんだけど、最近トラブルが多かっただろう?だから、慰労会みたいなものをしようと思ったんだ。
こういうことをやったことがないから、やり方が合ってるか分からないけど…」
いつも瑠璃にはお世話になりっぱなしだし、小鞠のことも振り回してしまっている。
だからせめて、トラブルの噂がない間にゆっくりしたいと思った。
料理くらいしかできないけど、ふたりが楽しんでくれればそれでいい。
『…何』
「どうした?」
『これ、何』
小鞠の言葉はあまり抑揚がないから時々迷うものの、今回はお弁当がどういうものなのか気になったらしい。
「これはお弁当箱。この中にご飯が入ってるんだ」
『あなたが食べていいものが入っているそぅですよ』
『いただきます』
「急いで食べなくても誰も取ったりしないよ」
小鞠にゆっくり楽しむように伝えながら、小鳥の前に置いたお弁当箱を開ける。
「瑠璃の分はこれだ」
『卵焼きが入っていますね。…この大きさで焼くのは苦労したのではありませんか?』
「実は何回か失敗した。味はなんとかなってすはずなんだけど…ごめん」
『こんなふうに作っていただけただけありがたいです』
瑠璃は心なしかいつもより穏やかな表情をしている気がする。
『ごちそうさまでした』
「喜んでもらえたみたいでよかった」
『美味しかった』
「そっか。それならまた今度天気がいい日にやろう」
『八尋は楽しめましたか?』
「え?」
どうしてそんなことを訊くんだろうと疑問に思いつつただ答える。
「俺はこうやって仲間…友人と一緒にご飯が食べられて楽しかったよ」
『そうですか』
「なんでそんなこと訊くんだ?」
小鞠の口を拭きながら瑠璃の方を見ると、ゆっくり口を開いた。
『こういったものは準備が大変でしょう?』
「それはそうだけど、俺がやりたくてやってることだから苦だと思わないんだ」
『それならいいのですが…』
「大丈夫。俺は無理してないよ」
『…そうでしたか』
なんだかんだでいつも心配させてしまっていることを申し訳なく思いながら、その場に出してあったものを少しずつ片づけていく。
どこかから飛んできた緑葉が春の終わりを告げていた。
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