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蓄積
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「どうして…どうして私だけ……」
小さな誰かが泣いている。
涙を拭いたいが、俺にはそれさえできないらしい。
「私だってお外に出たい。どうして行っちゃ駄目なの?」
「申し訳ありません、お嬢様。私の一存では決められないのです」
「それじゃあ、今日のお仕事はもう終わりにして私と遊んで」
「それは…申し訳ありません。できません」
顔がよく見えないが、メイドのような女性が困惑した様子なのは分かる。
何故外に出てはいけないのか、この時点では分からない。
いきなり場面が変わったかと思うと、先程の小さな女の子が薬を飲んでいた。
「お嬢様、今日もお薬を忘れずに飲みましたね。偉いです」
「こ、子供扱いしないで…」
「そんなに照れないでください。甘いものをお持ちしましたから、一緒にお茶にしましょう」
「ありがとう」
相変わらずどちらの表情も見えないが、楽しそうな雰囲気は伝わってくる。
こんなに広い屋敷にも関わらず、登場人物はこのふたりだけらしい。
「お母様たちは今日も帰っていらっしゃらないのかしら…」
「そのうちきっと帰ってきます。それまでは、私が側におりますから」
「ありがとう」
メイドは何かを隠しているようだが、それが何か断言できるようなものは何もない。
それから場面は切り替わり、月日が流れたようだった。
「私、死ぬの?」
「大丈夫です。あなたが死ぬときは私が側におります。それから、私も追いかけます」
「…お父様もお母様も、だから私のところには来てくださらなかったのね。
あなたは新しい職場に行った方がいいわ。私は独りでも充分だから」
「お断りします。ずっとお嬢様のお側にいさせてください」
こんなに月日が流れても、家族で一緒にいるところが1度も出てこない。
それでも彼女は信じて待ち続けている。
だが、それは窓の外の世界を覗いていたときにおこった。
「お母様、お父様…?」
「…お嬢様?」
「あの子は誰なの?私はずっと、ここで待っていたのに」
「お嬢様…」
「あなたは知っていたの?」
「いいえ。あのおふたりのお子様はお嬢様だけだとお聞きしておりました…」
メイドの声に嘘を吐いている様子はない。
だが、帰ってこないことは知っているようだった。
「私、あなたがいてくれたから頑張れた。だけどもう駄目みたい」
「何をなさるおつもりですか?」
「少しの間でいいの。…お願い、独りにして」
「分かりました」
メイドがいなくなった直後、彼女は果物ナイフで首をかき切った。
大量の血液と涙が混ざりあい、とても見ていられない光景になる。
「お嬢様、失礼します…」
部屋に入ったメイドの悲鳴で何がおきたかようやく理解する。
そこまででまた目の前が真っ暗になった。
小さな誰かが泣いている。
涙を拭いたいが、俺にはそれさえできないらしい。
「私だってお外に出たい。どうして行っちゃ駄目なの?」
「申し訳ありません、お嬢様。私の一存では決められないのです」
「それじゃあ、今日のお仕事はもう終わりにして私と遊んで」
「それは…申し訳ありません。できません」
顔がよく見えないが、メイドのような女性が困惑した様子なのは分かる。
何故外に出てはいけないのか、この時点では分からない。
いきなり場面が変わったかと思うと、先程の小さな女の子が薬を飲んでいた。
「お嬢様、今日もお薬を忘れずに飲みましたね。偉いです」
「こ、子供扱いしないで…」
「そんなに照れないでください。甘いものをお持ちしましたから、一緒にお茶にしましょう」
「ありがとう」
相変わらずどちらの表情も見えないが、楽しそうな雰囲気は伝わってくる。
こんなに広い屋敷にも関わらず、登場人物はこのふたりだけらしい。
「お母様たちは今日も帰っていらっしゃらないのかしら…」
「そのうちきっと帰ってきます。それまでは、私が側におりますから」
「ありがとう」
メイドは何かを隠しているようだが、それが何か断言できるようなものは何もない。
それから場面は切り替わり、月日が流れたようだった。
「私、死ぬの?」
「大丈夫です。あなたが死ぬときは私が側におります。それから、私も追いかけます」
「…お父様もお母様も、だから私のところには来てくださらなかったのね。
あなたは新しい職場に行った方がいいわ。私は独りでも充分だから」
「お断りします。ずっとお嬢様のお側にいさせてください」
こんなに月日が流れても、家族で一緒にいるところが1度も出てこない。
それでも彼女は信じて待ち続けている。
だが、それは窓の外の世界を覗いていたときにおこった。
「お母様、お父様…?」
「…お嬢様?」
「あの子は誰なの?私はずっと、ここで待っていたのに」
「お嬢様…」
「あなたは知っていたの?」
「いいえ。あのおふたりのお子様はお嬢様だけだとお聞きしておりました…」
メイドの声に嘘を吐いている様子はない。
だが、帰ってこないことは知っているようだった。
「私、あなたがいてくれたから頑張れた。だけどもう駄目みたい」
「何をなさるおつもりですか?」
「少しの間でいいの。…お願い、独りにして」
「分かりました」
メイドがいなくなった直後、彼女は果物ナイフで首をかき切った。
大量の血液と涙が混ざりあい、とても見ていられない光景になる。
「お嬢様、失礼します…」
部屋に入ったメイドの悲鳴で何がおきたかようやく理解する。
そこまででまた目の前が真っ暗になった。
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