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それからの彼
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「…こんばんは、夜陽炎」
『や、八尋…?』
「そうだよ」
瑠璃が言っていたとおり、噂は瞬く間に形を変え広がった。
これで彼が暴走する心配はないだろう。
何故かインターネット上から謎の掲示板は削除されていたが、あることないこと伝わるよりは寧ろその方がいい。
『八尋にはまた助けられたね』
「ごめん。俺には、こんなことくらいしかできないから…」
できることが少ないというのは非常に歯痒い。
俯いていると、ゆらゆらと揺れる手が頭を撫でてくれた。
『僕は君に2度も助けられた。ありがとう』
「いや、俺はそんなにすごいことをしたわけじゃない」
『君にとってのそんなにというのは、僕にとってはすごいことなんだ。
こんな見た目の僕に、君は優しくしてくれるしね』
「普通だと思うけど…」
確かに彼の姿は一般的なそれとは違う。
ゆらゆらと陽炎のようになっているのは、彼が昔この場所がまだホテルだった頃火災になり逃げられなかったからだと聞いている。
『今はその鳥さんが相棒?』
「相棒というか、腐れ縁というか…。だけど、今回噂が早くおさまったのは彼女のおかげなんだ」
『私は特に何もしていませんよ。それにしても、この場所は随分柘榴が置かれるようになったんですね』
「ごめん、それは俺が原因だと思う」
中身をもう少し考えたほうがよかったかもしれない…そんなことを考えながら、ふと沸いた疑問を口にする。
「そういえば、いつからあんなおかしな噂が流行りはじめたんだ?」
『それは僕には分からない。ただ、噂が広められる前に不審者が来たんだ』
「不審者?」
『白いフードに真っ赤な眼鏡、あとは…』
「黒い本を持った男?」
『そうだった、と思う。ごめん、記憶があやふやであんまり自信がないんだ』
「分かった。ありがとう」
これでほぼ確定だ。
この町にあの男が来ている。
そして、数年前のようにまた噂を…。
『大丈夫ですか?顔が青いですよ』
「ああ、うん。ごめん」
考え過ぎだと思いたいが、もしかするとカミキリさんの一件もあの男が関係しているのかもしれない。
『八尋』
「ん?」
『僕は大したものは用意できないけど、お礼。加護とかそんなすごいものが使えるくらい力が強いわけじゃないから、ただの気休めになるけど…』
「このミサンガ、どうやって作ったの?」
『昔誰かが置いていったソーイングセットの糸をもらった』
彼の顔はよく見えなかったが、なんとなく笑っているような気がした。
「ありがとう。大切にする」
『ひとりで頑張りすぎないようにね』
「…気をつけるよ」
『そろそろ寝ないといけないんじゃない?八尋、あのときみたいに怪我してるし…』
「これでも、あの頃よりは減ったんだけどね」
また会いに来ると約束して、そのまま廃ホテルを後にする。
瑠璃が肩に留まっているのを確認して、1歩1歩踏みしめながら歩いた。
…まだ確証がないし、あの男についてはしばらく黙っておこう。
『や、八尋…?』
「そうだよ」
瑠璃が言っていたとおり、噂は瞬く間に形を変え広がった。
これで彼が暴走する心配はないだろう。
何故かインターネット上から謎の掲示板は削除されていたが、あることないこと伝わるよりは寧ろその方がいい。
『八尋にはまた助けられたね』
「ごめん。俺には、こんなことくらいしかできないから…」
できることが少ないというのは非常に歯痒い。
俯いていると、ゆらゆらと揺れる手が頭を撫でてくれた。
『僕は君に2度も助けられた。ありがとう』
「いや、俺はそんなにすごいことをしたわけじゃない」
『君にとってのそんなにというのは、僕にとってはすごいことなんだ。
こんな見た目の僕に、君は優しくしてくれるしね』
「普通だと思うけど…」
確かに彼の姿は一般的なそれとは違う。
ゆらゆらと陽炎のようになっているのは、彼が昔この場所がまだホテルだった頃火災になり逃げられなかったからだと聞いている。
『今はその鳥さんが相棒?』
「相棒というか、腐れ縁というか…。だけど、今回噂が早くおさまったのは彼女のおかげなんだ」
『私は特に何もしていませんよ。それにしても、この場所は随分柘榴が置かれるようになったんですね』
「ごめん、それは俺が原因だと思う」
中身をもう少し考えたほうがよかったかもしれない…そんなことを考えながら、ふと沸いた疑問を口にする。
「そういえば、いつからあんなおかしな噂が流行りはじめたんだ?」
『それは僕には分からない。ただ、噂が広められる前に不審者が来たんだ』
「不審者?」
『白いフードに真っ赤な眼鏡、あとは…』
「黒い本を持った男?」
『そうだった、と思う。ごめん、記憶があやふやであんまり自信がないんだ』
「分かった。ありがとう」
これでほぼ確定だ。
この町にあの男が来ている。
そして、数年前のようにまた噂を…。
『大丈夫ですか?顔が青いですよ』
「ああ、うん。ごめん」
考え過ぎだと思いたいが、もしかするとカミキリさんの一件もあの男が関係しているのかもしれない。
『八尋』
「ん?」
『僕は大したものは用意できないけど、お礼。加護とかそんなすごいものが使えるくらい力が強いわけじゃないから、ただの気休めになるけど…』
「このミサンガ、どうやって作ったの?」
『昔誰かが置いていったソーイングセットの糸をもらった』
彼の顔はよく見えなかったが、なんとなく笑っているような気がした。
「ありがとう。大切にする」
『ひとりで頑張りすぎないようにね』
「…気をつけるよ」
『そろそろ寝ないといけないんじゃない?八尋、あのときみたいに怪我してるし…』
「これでも、あの頃よりは減ったんだけどね」
また会いに来ると約束して、そのまま廃ホテルを後にする。
瑠璃が肩に留まっているのを確認して、1歩1歩踏みしめながら歩いた。
…まだ確証がないし、あの男についてはしばらく黙っておこう。
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