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裏切り
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「お疲れ様です」
夜、仕事先をいつもより早く出て階段に様子を見に行く。
何ができるかなんて分からないが、とにかく相手の姿を確認できれば話ができるかもしれない。
『…行くつもりですか?』
「なんとなく夜の方が姿を見せてくれそうだから、行ってみようと思ったんだ。
それに、俺もひと目を気にせずに過ごせるからいいかなって」
左眼を誰かに見られるんじゃないかと気にすることもなく、そのままの自分で過ごせる時間がいい。
その方が相手にも失礼にならないはずだ。
少し階段をのぼると、昼間見た大きなものが目の前に立ち塞がる。
避けようとしてもきりがなく、その場で足を止めた。
「こんばんは。あの…この階段で沢山の人たちが怪我をしているんです。何か知りませんか?」
『そんなもの、わしが知るものか。それよりおまえ、生意気にもこのわしが視えるのか…』
どうやら相手は人間が嫌いなタイプだったらしい。
そう気づいたときには遅かった。
どんどん足が重くなっていって、その場に崩れ落ちる。
『ほら、これでもう立てまい。それにしても美味そうだな…』
「俺を、食べるの?」
『察しがいい奴で助かる』
「悪いけど、このまま殺されてやるわけにはいかない」
約束したんだ。
今はもういない、あの人と。
ポケットに手を入れ、そこから手作りのお守りを取り出す。
すると、それが強く光りはじめた。
『なんだこれは…力が、使えぬ…』
「…ごめん」
そういえばここ、階段の途中だったな。
そんなことを考えているうちに、意識は闇の中へ落ちていった。
『何故だ!おまえたちに言われたとおり、悪しきものは祓ったというのに、この仕打ちは…赦さんぞ…』
…誰かの怒りが聞こえる。
血だらけで倒れている女性に寄り添うようにしているのは、先程の妖ものだ。
『わしに名をくれたあの者を殺めたこの村を、わしは決して許さない。
何もかも全て、闇に引きずりこんでやる…』
そうか。彼はただ、大切な人の側にいたかったんだ。
ここに来る前にスクラップ帳を確認すればよかった。
最近、階段の近くにあった御神木に車がつっこんで燃えてしまったって、記事に書かれていたじゃないか。
【駄目よ、虹橋。私はあなたの、虹のような目が穢れていくのを見たくない…!】
倒れていたはずの女性が泣いている。
これは、あの妖の…
「──君、八尋君!」
「……中津、先輩?」
目を開けると、そこに向かって真っ白な光がさしこんでくる。
腕に痛みがはしったものの、思ったより軽症だったらしい。
「忘れ物をしてたから追いかけたんだ。がたがた音がしてたから走ったんだけど、間に合わなくてごめん」
「いえ…俺の方こそすみません。ご迷惑をおかけしました」
「それ、すごく大事なものなんだね。全然離さなかったから…」
「本当にすみません!」
先輩はただ笑って、お守りを握っている方の手に優しく手を添えてくれた。
「絶対落とさないようにね。あと、怪我をしないように気をつけて」
先輩はそれだけ話して去っていく。
ここまで運ぶだけでも大変だっただろうに、先輩は俺が起きるまで付き添っていてくれた。
左眼を見られなかったか不安になりつつ、なんとか髪で誤魔化して顔を上げる。
…先輩には悪いけど、明日また行ってみよう。
次はあの妖と、一緒に話ができるかもしれないから。
夜、仕事先をいつもより早く出て階段に様子を見に行く。
何ができるかなんて分からないが、とにかく相手の姿を確認できれば話ができるかもしれない。
『…行くつもりですか?』
「なんとなく夜の方が姿を見せてくれそうだから、行ってみようと思ったんだ。
それに、俺もひと目を気にせずに過ごせるからいいかなって」
左眼を誰かに見られるんじゃないかと気にすることもなく、そのままの自分で過ごせる時間がいい。
その方が相手にも失礼にならないはずだ。
少し階段をのぼると、昼間見た大きなものが目の前に立ち塞がる。
避けようとしてもきりがなく、その場で足を止めた。
「こんばんは。あの…この階段で沢山の人たちが怪我をしているんです。何か知りませんか?」
『そんなもの、わしが知るものか。それよりおまえ、生意気にもこのわしが視えるのか…』
どうやら相手は人間が嫌いなタイプだったらしい。
そう気づいたときには遅かった。
どんどん足が重くなっていって、その場に崩れ落ちる。
『ほら、これでもう立てまい。それにしても美味そうだな…』
「俺を、食べるの?」
『察しがいい奴で助かる』
「悪いけど、このまま殺されてやるわけにはいかない」
約束したんだ。
今はもういない、あの人と。
ポケットに手を入れ、そこから手作りのお守りを取り出す。
すると、それが強く光りはじめた。
『なんだこれは…力が、使えぬ…』
「…ごめん」
そういえばここ、階段の途中だったな。
そんなことを考えているうちに、意識は闇の中へ落ちていった。
『何故だ!おまえたちに言われたとおり、悪しきものは祓ったというのに、この仕打ちは…赦さんぞ…』
…誰かの怒りが聞こえる。
血だらけで倒れている女性に寄り添うようにしているのは、先程の妖ものだ。
『わしに名をくれたあの者を殺めたこの村を、わしは決して許さない。
何もかも全て、闇に引きずりこんでやる…』
そうか。彼はただ、大切な人の側にいたかったんだ。
ここに来る前にスクラップ帳を確認すればよかった。
最近、階段の近くにあった御神木に車がつっこんで燃えてしまったって、記事に書かれていたじゃないか。
【駄目よ、虹橋。私はあなたの、虹のような目が穢れていくのを見たくない…!】
倒れていたはずの女性が泣いている。
これは、あの妖の…
「──君、八尋君!」
「……中津、先輩?」
目を開けると、そこに向かって真っ白な光がさしこんでくる。
腕に痛みがはしったものの、思ったより軽症だったらしい。
「忘れ物をしてたから追いかけたんだ。がたがた音がしてたから走ったんだけど、間に合わなくてごめん」
「いえ…俺の方こそすみません。ご迷惑をおかけしました」
「それ、すごく大事なものなんだね。全然離さなかったから…」
「本当にすみません!」
先輩はただ笑って、お守りを握っている方の手に優しく手を添えてくれた。
「絶対落とさないようにね。あと、怪我をしないように気をつけて」
先輩はそれだけ話して去っていく。
ここまで運ぶだけでも大変だっただろうに、先輩は俺が起きるまで付き添っていてくれた。
左眼を見られなかったか不安になりつつ、なんとか髪で誤魔化して顔を上げる。
…先輩には悪いけど、明日また行ってみよう。
次はあの妖と、一緒に話ができるかもしれないから。
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