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プロローグ
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「先生、ヤヒロ君がまた嘘を言っています!」
「嘘じゃないよ、ちゃんとそこに、」
「嘘つきとは遊んでやらない」
「違うよ…!」
…どうして。やっぱり僕はここにいたらいけないんだ。
「またあの夢…」
それは昔の夢で、見るのが毎朝となるとすっかり慣れてしまった。
「…2時間か」
睡眠が浅くても活動はできる為、その点に関してはさほど問題視していない。
誰とも同じ景色が見えないと気づいた俺は、あの頃とは違って人と関わるのを諦めた。
通信制高校を卒業してすぐ深夜の書店員として正式採用してもらえた為、朝はゆっくり過ごすことができる。
「…おはよう」
誰もいない部屋にそう声をかけて、ベッドからゆっくり起きあがる。
カーテンを開けるとそこには鳥が止まっていて、思わず溜め息が零れた。
「こんな早い時間から何か用事?」
『先日はありがとうございました』
「大したことはしてないよ」
ちょっとしたことを解決しただけでお礼を言いに来るなんて、本当に律儀な子だと感じる。
だが、なんだか声が沈んでいるのは用件がそれだけではないからだろう。
『それで、その…申し訳ないのですが、少し頼み事をしたいのです』
鳥といっても、普通の人たちには視えないものだ。
…片翼が瑠璃色でもう片翼が真っ白な羽だなんて、うっかり見つかってしまったらそれこそ大変なことになるだろう。
「…いいよ。瑠璃の頼みなら無下にはできない」
名前を教えてほしいとお願いしても結局話を逸らされてしまうので、勝手に瑠璃と呼んでいる。
出会ったのは数年前、彼女が翼に怪我を負っていたところをたまたま通りかかった。
傷が治るまで置くという話になっていたはずだが、結局瑠璃が神出鬼没に現れるのでそのまま関係が続いている。
『実は最近、少し困りごとがあるのです。人の子である八尋なら何とかなるだろうと思いまして…』
歯磨きをする度考えることがある。
見た目も普通ではない俺はみんなから気味悪がられていた。
…鏡を見る度、自分の瞳がうつってしまう。
『八尋、まさかご自分に見惚れて、』
「違う。俺はそんなに自分に自信があるわけじゃないし、自分が好きじゃない」
今独りじゃないのは、みんなのことが視えるおかげだ。
この状況を恨んだりなんて絶対にしない。
『夜、この場所に来てください』
「今日は仕事があるから、それが終わってからでよければ」
『ありがとうございます。…私は八尋のその瞳、綺麗だと思います。それでは失礼いたします』
ぱたぱたと飛び去る瑠璃を見つめながら、また息を吐いた。
【翡翠色の瞳の者が様々な事柄を解決しているらしい】
…どうやら人たちからはそんなふうに言われてしまっているようだ。
「俺はそんな大したことをしたつもりはないんだけどな…」
左眼だけ翡翠色をしている自分の顔が窓ガラスにうつって、また溜め息が口から零れた。
「嘘じゃないよ、ちゃんとそこに、」
「嘘つきとは遊んでやらない」
「違うよ…!」
…どうして。やっぱり僕はここにいたらいけないんだ。
「またあの夢…」
それは昔の夢で、見るのが毎朝となるとすっかり慣れてしまった。
「…2時間か」
睡眠が浅くても活動はできる為、その点に関してはさほど問題視していない。
誰とも同じ景色が見えないと気づいた俺は、あの頃とは違って人と関わるのを諦めた。
通信制高校を卒業してすぐ深夜の書店員として正式採用してもらえた為、朝はゆっくり過ごすことができる。
「…おはよう」
誰もいない部屋にそう声をかけて、ベッドからゆっくり起きあがる。
カーテンを開けるとそこには鳥が止まっていて、思わず溜め息が零れた。
「こんな早い時間から何か用事?」
『先日はありがとうございました』
「大したことはしてないよ」
ちょっとしたことを解決しただけでお礼を言いに来るなんて、本当に律儀な子だと感じる。
だが、なんだか声が沈んでいるのは用件がそれだけではないからだろう。
『それで、その…申し訳ないのですが、少し頼み事をしたいのです』
鳥といっても、普通の人たちには視えないものだ。
…片翼が瑠璃色でもう片翼が真っ白な羽だなんて、うっかり見つかってしまったらそれこそ大変なことになるだろう。
「…いいよ。瑠璃の頼みなら無下にはできない」
名前を教えてほしいとお願いしても結局話を逸らされてしまうので、勝手に瑠璃と呼んでいる。
出会ったのは数年前、彼女が翼に怪我を負っていたところをたまたま通りかかった。
傷が治るまで置くという話になっていたはずだが、結局瑠璃が神出鬼没に現れるのでそのまま関係が続いている。
『実は最近、少し困りごとがあるのです。人の子である八尋なら何とかなるだろうと思いまして…』
歯磨きをする度考えることがある。
見た目も普通ではない俺はみんなから気味悪がられていた。
…鏡を見る度、自分の瞳がうつってしまう。
『八尋、まさかご自分に見惚れて、』
「違う。俺はそんなに自分に自信があるわけじゃないし、自分が好きじゃない」
今独りじゃないのは、みんなのことが視えるおかげだ。
この状況を恨んだりなんて絶対にしない。
『夜、この場所に来てください』
「今日は仕事があるから、それが終わってからでよければ」
『ありがとうございます。…私は八尋のその瞳、綺麗だと思います。それでは失礼いたします』
ぱたぱたと飛び去る瑠璃を見つめながら、また息を吐いた。
【翡翠色の瞳の者が様々な事柄を解決しているらしい】
…どうやら人たちからはそんなふうに言われてしまっているようだ。
「俺はそんな大したことをしたつもりはないんだけどな…」
左眼だけ翡翠色をしている自分の顔が窓ガラスにうつって、また溜め息が口から零れた。
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