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第30章『魔王と夜紅の決着-新たな絶望の幕開け-』
第221話
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あれから10日ほどが経ったものの、驚くほど静かな日々を過ごせている。
体に変化が現れると思っていたが、特にそんな様子もなく普段どおりに過ごせていた。
「あの男は、私が死んだと思ってるのかもしれない」
「微妙なところだな。正気じゃないってことくらいしか分からなかった」
あれからほとんど毎日、先生が診察してくれている。心配だからと血液検査もされた。
ありがたいけど、先生の時間を奪っているみたいで申し訳ない。
「今日はこれで終わりだ」
「ありがとう。…なあ、先生たちから見た私って今までと違うのか?」
「違わないから調べてる。ただ、普通の人間があれだけ槍を深く刺されてそんな傷ですむはずがない」
先生の顔が歪む。
個人的には人間ではなくなった感覚もないし、不都合なことがあるわけでもない。
心身ともに特に変わったところがあるわけでもないので、そこまで深刻に考えていなかった。
「何かあるのが普通なのか?」
「自分で飲んだ奴を見たことがないからなんとも言えないが、無理矢理飲まされた奴はいきなり吐血したり病弱になったり…体の一部が妖になったりしていた」
「無理矢理飲まされるなんてこともあるんだな」
「言うことを聞かせる為に飲ませた奴、騙して実験した奴…最強の祓い屋がどうのと話していることもあったな」
神宮寺義仁も、私が飲んだ薬に準ずるものを飲んだのだろうか。
家族に認められたいという思いがねじ曲がり、暴走に繋がっている今のあの男ならなんでもやりそうだ。
「あの男が私に気づいていないなら、もうみんなを巻きこまずにすみそうだな」
「…それより、これからどうするんだ」
「普通に生活できる限りはやってみるよ。沢山相談に乗ってもらったのにごめん。
だけどもう、人間に疲れたんだ。向いてなかったんだろうな、私は」
苦しんできた人間や怪異を見てきたが、どの人も優しくて心が満たされる。
傷つけた側はこれでもかというほど幸せそうに笑っていられるのに、傷つけられた側は傷を負ったまま…それを見るのが苦しかった。
「少し不安定な不老、といったところか。顔を見せる職業は難しいだろうな。
用心棒か探偵か、便利屋という名の人間の力じゃ及ばない時間を解決するか…」
「色々やってみるよ。楽しそうだし、ここにいられたくなったら困るから」
適当に誤魔化しながらやっていくしかない。
先のことを考えても絶望ばかりではなくなったのが幸いだ。
「他の奴等には伝えなくていいんだな?」
「うん。寧ろできるだけ知られたくない。先生には負担をかけることになるけど…」
「俺のことは気にするな。これから先長くなるから気長に考えればいい」
「ありがとう」
先生が部屋を出た直後、殺気を感じてその場にしゃがむ。
その槍は間違いなくあの男のものだったが、やはり来たというくらいにしか思えなかった。
私が死んだとしたら、いる場所はここしか考えられないだろう。
槍の先から落ちた紙には、できれば読みたくなかった言葉が並んでいる。
「…そろそろ連絡してみるか」
あの男に関して何か知っていそうなのは、バイト先が同じなあの人だけだ。
義政さんが生きていることを悟られないようにする以上、他に事情を知っていそうな人物から話を聞くしかない。
【お久しぶりです。白いフードの男について教えてほしいことがあります。
お時間よろしいときに質問させていただいてもよろしいでしょうか?】
ビジネス文章もどきに苦笑しながら送信ボタンをタップする。
「先輩、おはようございます」
「おはよう。今日もよろしく」
「はい!頑張ります」
それからは何事もなかったように過ごした。
このまま陽向たちを巻きこまずにすむならそれが1番いい。
…ただ、最後は頼らせてもらうことになるだろう。
あの男が暴走した怪異より強い力を身につけていることを、この間の一件で知ってしまったから。
「うちの学校の制服を着た万引き犯が現れたみたいです」
「在校生か卒業生かから調べないとな」
監査部としての仕事もあと少し。
夜仕事に関しても手を抜くつもりはない。
体に変化が現れると思っていたが、特にそんな様子もなく普段どおりに過ごせていた。
「あの男は、私が死んだと思ってるのかもしれない」
「微妙なところだな。正気じゃないってことくらいしか分からなかった」
あれからほとんど毎日、先生が診察してくれている。心配だからと血液検査もされた。
ありがたいけど、先生の時間を奪っているみたいで申し訳ない。
「今日はこれで終わりだ」
「ありがとう。…なあ、先生たちから見た私って今までと違うのか?」
「違わないから調べてる。ただ、普通の人間があれだけ槍を深く刺されてそんな傷ですむはずがない」
先生の顔が歪む。
個人的には人間ではなくなった感覚もないし、不都合なことがあるわけでもない。
心身ともに特に変わったところがあるわけでもないので、そこまで深刻に考えていなかった。
「何かあるのが普通なのか?」
「自分で飲んだ奴を見たことがないからなんとも言えないが、無理矢理飲まされた奴はいきなり吐血したり病弱になったり…体の一部が妖になったりしていた」
「無理矢理飲まされるなんてこともあるんだな」
「言うことを聞かせる為に飲ませた奴、騙して実験した奴…最強の祓い屋がどうのと話していることもあったな」
神宮寺義仁も、私が飲んだ薬に準ずるものを飲んだのだろうか。
家族に認められたいという思いがねじ曲がり、暴走に繋がっている今のあの男ならなんでもやりそうだ。
「あの男が私に気づいていないなら、もうみんなを巻きこまずにすみそうだな」
「…それより、これからどうするんだ」
「普通に生活できる限りはやってみるよ。沢山相談に乗ってもらったのにごめん。
だけどもう、人間に疲れたんだ。向いてなかったんだろうな、私は」
苦しんできた人間や怪異を見てきたが、どの人も優しくて心が満たされる。
傷つけた側はこれでもかというほど幸せそうに笑っていられるのに、傷つけられた側は傷を負ったまま…それを見るのが苦しかった。
「少し不安定な不老、といったところか。顔を見せる職業は難しいだろうな。
用心棒か探偵か、便利屋という名の人間の力じゃ及ばない時間を解決するか…」
「色々やってみるよ。楽しそうだし、ここにいられたくなったら困るから」
適当に誤魔化しながらやっていくしかない。
先のことを考えても絶望ばかりではなくなったのが幸いだ。
「他の奴等には伝えなくていいんだな?」
「うん。寧ろできるだけ知られたくない。先生には負担をかけることになるけど…」
「俺のことは気にするな。これから先長くなるから気長に考えればいい」
「ありがとう」
先生が部屋を出た直後、殺気を感じてその場にしゃがむ。
その槍は間違いなくあの男のものだったが、やはり来たというくらいにしか思えなかった。
私が死んだとしたら、いる場所はここしか考えられないだろう。
槍の先から落ちた紙には、できれば読みたくなかった言葉が並んでいる。
「…そろそろ連絡してみるか」
あの男に関して何か知っていそうなのは、バイト先が同じなあの人だけだ。
義政さんが生きていることを悟られないようにする以上、他に事情を知っていそうな人物から話を聞くしかない。
【お久しぶりです。白いフードの男について教えてほしいことがあります。
お時間よろしいときに質問させていただいてもよろしいでしょうか?】
ビジネス文章もどきに苦笑しながら送信ボタンをタップする。
「先輩、おはようございます」
「おはよう。今日もよろしく」
「はい!頑張ります」
それからは何事もなかったように過ごした。
このまま陽向たちを巻きこまずにすむならそれが1番いい。
…ただ、最後は頼らせてもらうことになるだろう。
あの男が暴走した怪異より強い力を身につけていることを、この間の一件で知ってしまったから。
「うちの学校の制服を着た万引き犯が現れたみたいです」
「在校生か卒業生かから調べないとな」
監査部としての仕事もあと少し。
夜仕事に関しても手を抜くつもりはない。
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