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第23章『白フードの男-異界への階段・参-』
第167話
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「それでは、これで今日は放課です。用がない人は速やかに下校してください」
午前で放課になってくれて助かった。
帰りのホームルームが終わるのとほぼ同時に旧校舎へ向かう。
「俺が、俺ガ、オレガ……」
まだぶつぶつ言っている神宮寺義仁の目は生きている人間とは思えないほど血走り、ぎょろぎょろ目玉が動きまわっている。
「待たせて悪かった。それで、私を殺しにきたのか?」
持っている力全てを使えば炎の檻だって壊せたはずだが、そうできなかった理由があるのだろう。
真っ昼間という圧倒的不利な状況で戦うにはこれしかない。
札をぐるぐる巻きにしたナイフを構え、相手に話しかけてみる。
「私はまだ、生きている人間を殺したことはない。…何人か助けられなかったから殺したのと同じかもしれないけど、あんたよりまともだ」
「う…」
何か言葉を発したように思えて少し近づく。
それと同時に炎が消え去った。
「煩い!今日こそおまえを消してやる!」
……油断した。
長い槍を自在に操る男の攻撃を避けながら、真っ直ぐ人気がないであろう屋上を目指す。
ここは旧校舎で部活も休み…誰にも見られず私を始末するにはいい日だろう。
「ぐちゃぐちゃにしてやる!」
槍がネクタイに軽く当たったが、今回は毒を塗っていないらしい。
ただ、もう体力が限界だった。
「ほら、俺の槍であの世に送ってやるよ!」
「く……」
なんとか片手で受け止めたが、いつまで持たせられるか分からない。
追加のナイフを出そうにもポケットまで手を伸ばす余裕がなかった。
だんだん腕の力が弱まり、槍の先が首筋に軽く刺さる。
「消えろ!」
ここまでかと覚悟を決めて目を閉じる。
いくら相手が憎くても、どうしても刺していいとは思えなかった。…まだまだ甘かったんだ。
《あのさ、君煩いよ》
聞き覚えのある声がすると同時に、真っ黒な影が私と男の間に立ちふさがる。
影がこちらを向くと同時に男が倒れる音がした。
「おかげさん、だっけか。助けてくれたのか?」
《一応ね。そいつ、詩乃ちゃんの知り合い?》
「その男に執着されてる。理由はよく分からないけど、私を殺したいみたいだ」
相変わらずフードの下の表情は見えないが、おかげさんは私の手を握った。
《詩乃ちゃん、走れる?》
「動けるけど、おまえは大丈夫なのか?」
《少し離れるくらいなら平気だよ。それに俺、影さえあればどこまでだって移動できるし》
「そうなのか」
影を移動するからおかげさんと呼ばれているのかもしれない。
私にはまだ分かっていないことが沢山あって、おかげさんのことも瞬から聞いたことしか分かっていないことに気づいた。
《あの男は多分俺のところまで辿り着けない。気絶させた今のうちに逃げ切れば大丈夫だよ》
「ありがとう。どうやってふりきろうかずっと考えてたけど、いい案が思い浮かばなくて困ってたんだ」
《それなのに戦ってたの?無茶なことするな…》
おかげさんは笑っているようだが、ノープランでもつっこんでいかなければならないときもあるのだ。
監査室に入ると、陽向が驚いた顔をして駆け寄ってきた。
「先輩、その首の怪我…というか、何に憑かれたんですか!?」
「違うよ。この影は…」
影さえあればどこまでも移動できるとおかげさんは言った。
それなら、今私の影が人の形を保ったまま別のポーズをしている理由は明白だ。
《相変わらず君は失礼な子だな…。俺は取り憑いたりしないよ》
「なんでおまえが先輩と一緒にいるんだよ」
陽向は警戒しているようだが、少なくとも今回は助けてもらった側だ。
なんとか説明する為口を開こうとすると、切れたワイヤーを持った先生が入ってきた。
手が傷だらけになっていて、急いで絆創膏を用意する。
「先生、どうしたんだよそれ…」
「あの槍男が襲ってきたもんだから、ちょっとな」
「え、またあいつが出たんですか?」
先生は私の影を凝視した後、真剣な声ではっきり告げた。
「……俺たちを巻きこめ折原。御蔭さんにも手伝ってもらうならな」
午前で放課になってくれて助かった。
帰りのホームルームが終わるのとほぼ同時に旧校舎へ向かう。
「俺が、俺ガ、オレガ……」
まだぶつぶつ言っている神宮寺義仁の目は生きている人間とは思えないほど血走り、ぎょろぎょろ目玉が動きまわっている。
「待たせて悪かった。それで、私を殺しにきたのか?」
持っている力全てを使えば炎の檻だって壊せたはずだが、そうできなかった理由があるのだろう。
真っ昼間という圧倒的不利な状況で戦うにはこれしかない。
札をぐるぐる巻きにしたナイフを構え、相手に話しかけてみる。
「私はまだ、生きている人間を殺したことはない。…何人か助けられなかったから殺したのと同じかもしれないけど、あんたよりまともだ」
「う…」
何か言葉を発したように思えて少し近づく。
それと同時に炎が消え去った。
「煩い!今日こそおまえを消してやる!」
……油断した。
長い槍を自在に操る男の攻撃を避けながら、真っ直ぐ人気がないであろう屋上を目指す。
ここは旧校舎で部活も休み…誰にも見られず私を始末するにはいい日だろう。
「ぐちゃぐちゃにしてやる!」
槍がネクタイに軽く当たったが、今回は毒を塗っていないらしい。
ただ、もう体力が限界だった。
「ほら、俺の槍であの世に送ってやるよ!」
「く……」
なんとか片手で受け止めたが、いつまで持たせられるか分からない。
追加のナイフを出そうにもポケットまで手を伸ばす余裕がなかった。
だんだん腕の力が弱まり、槍の先が首筋に軽く刺さる。
「消えろ!」
ここまでかと覚悟を決めて目を閉じる。
いくら相手が憎くても、どうしても刺していいとは思えなかった。…まだまだ甘かったんだ。
《あのさ、君煩いよ》
聞き覚えのある声がすると同時に、真っ黒な影が私と男の間に立ちふさがる。
影がこちらを向くと同時に男が倒れる音がした。
「おかげさん、だっけか。助けてくれたのか?」
《一応ね。そいつ、詩乃ちゃんの知り合い?》
「その男に執着されてる。理由はよく分からないけど、私を殺したいみたいだ」
相変わらずフードの下の表情は見えないが、おかげさんは私の手を握った。
《詩乃ちゃん、走れる?》
「動けるけど、おまえは大丈夫なのか?」
《少し離れるくらいなら平気だよ。それに俺、影さえあればどこまでだって移動できるし》
「そうなのか」
影を移動するからおかげさんと呼ばれているのかもしれない。
私にはまだ分かっていないことが沢山あって、おかげさんのことも瞬から聞いたことしか分かっていないことに気づいた。
《あの男は多分俺のところまで辿り着けない。気絶させた今のうちに逃げ切れば大丈夫だよ》
「ありがとう。どうやってふりきろうかずっと考えてたけど、いい案が思い浮かばなくて困ってたんだ」
《それなのに戦ってたの?無茶なことするな…》
おかげさんは笑っているようだが、ノープランでもつっこんでいかなければならないときもあるのだ。
監査室に入ると、陽向が驚いた顔をして駆け寄ってきた。
「先輩、その首の怪我…というか、何に憑かれたんですか!?」
「違うよ。この影は…」
影さえあればどこまでも移動できるとおかげさんは言った。
それなら、今私の影が人の形を保ったまま別のポーズをしている理由は明白だ。
《相変わらず君は失礼な子だな…。俺は取り憑いたりしないよ》
「なんでおまえが先輩と一緒にいるんだよ」
陽向は警戒しているようだが、少なくとも今回は助けてもらった側だ。
なんとか説明する為口を開こうとすると、切れたワイヤーを持った先生が入ってきた。
手が傷だらけになっていて、急いで絆創膏を用意する。
「先生、どうしたんだよそれ…」
「あの槍男が襲ってきたもんだから、ちょっとな」
「え、またあいつが出たんですか?」
先生は私の影を凝視した後、真剣な声ではっきり告げた。
「……俺たちを巻きこめ折原。御蔭さんにも手伝ってもらうならな」
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