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第20章『蹴鞠の噂と幸福の鞠人形』
第143話
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「…まさかここにこんな大人数で集まることになるとはな」
先生が苦笑しながら入ってきて、瞬と桜良もやってくる。
「お邪魔します」
「…お疲れ様です、詩乃先輩」
だんだん本格的なお泊り会になってきて、だんだん楽しくなってくる。
思えば、小中とほとんど学校行事に参加してこなかった。
そんな私にとって目の前でおころうとしていることは、初めて経験するものだ。
《楽しい》
「…そうだな。きっと楽しい」
小鞠がふわりと笑ったことに安堵していると、先生が小さく息を吐く。
「幸福の鞠人形か?」
《一応ね》
「幸福の鞠人形?」
聞き慣れない言葉を反復すると、手鞠が少し苦しそうな顔をしながら話してくれた。
《私たちには創り主がいるの。まさか付喪神的なものになるとは思っていなかったみたいで、初めて話したときは驚いていたわ。
だけど、ある人間に目をつけられて創り主は殺された。私もおかしな噂を流されて壊れかけたの。それを救ってくれたのが八尋なの》
「そうだったのか…」
自分が大切だと思った相手が死んでしまうというのは辛い。
そのうえ噂を暴走させられそうになったなんて、外道の顔が思い浮かんで余計に放っておけなくなる。
「今は狙われてないのか?」
《一応落ち着いているみたい。でないと、こんなふうに勝手に出歩くこともできなかったでしょうから》
「それもそうか。…ふたりが無事でよかった」
《そんなふうに言ってもらえるのはありがたい》
もう少し話を聞こうと思ったが、それより先に瞬から無邪気な質問がとんできた。
「ふたりは普段どうやって生活しているの?」
《信頼できる人間の側で楽しくやっているわ。…今回は小鞠が邪気に反応していたから離れたけれど、仲が悪いわけじゃないの》
「邪気か…敏感ならこの町で生きていくの、ちょっと大変かもね」
《大丈夫》
「そっか。大切な人に出会えたんだね」
瞬と鞠人形たちの会話はなんだか微笑ましい。
…なんて思っていたのに、瞬が陽向に向かって枕を投げた。
「桜良は端の方が…ぶへっ!?」
「ごめんひな君、つい投げちゃった」
「ついってどういうことだよ、ついって…」
満面の笑みで話す瞬に陽向が投げかえす。
瞬は鞠人形たちに当たらないように体で受け止めた。
「危ないな…。寝るまでにもう1回当てるね」
その言葉を合図に枕が宙を舞う。
巡回する警備員が旧校舎にほとんど来ないため、多少騒いでも気づかれないのだ。
しばらく小鞠が楽しそうに応援している状況が続いた。
「ふたりとも、そろそろ終わりに、」
そろそろ止めようと声をかけた瞬間、最後の一投が瞬の本を読んでいた先生の顔面に直撃する。
「……」
「すみません先生!あの、先生に当てるつもりじゃ…」
「はしゃぐのはいいけどほどほどにしろ。合宿って名目で許可通してあるんだから、警備員さんにしこたま叱られるぞ」
「すみません」
陽向がしょげたところで、瞬が満面の笑みを見せる。
「ひな君、つきあってくれてありがとう。枕投げって楽しいんだね」
「他の人に当てなかったらな。まあ、次は絶対負けないけど」
「また勝負してくれるの?やった!」
あまりにほっこりした雰囲気だから、物々しい噂があることなんて忘れていた。
手洗い場に行くために立ちあがると、小鞠に袖を引っ張られる。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ちゃんと戻ってくるから」
小鞠の頭を優しく撫で、その場を離れる。
そのまま廊下の突きあたりまで進んだところで、気配を感じていた相手に声をかけた。
「結月はこないのか?」
《行ってもいいけど狭いでしょ?お客さんも来ているみたいだし。
それより、他にも何かあるから来たんでしょ?行かなくていいの?》
「何かあるからというより、何かないか確認しに来たんだ」
一瞬だが妙な気配を感じた。
他のみんなは気づいていなかったようだが、それには覚えがある。
周囲を探ってみたのの、それらしき人物は見つからない。
「…そうか」
階段を降りきった先に答えがあった。
そこに置かれていた不気味な封筒の中身には、はっきり一言記されている。
【どこにいても見ているよ】
…まだ諦めてくれないのか。
先生が苦笑しながら入ってきて、瞬と桜良もやってくる。
「お邪魔します」
「…お疲れ様です、詩乃先輩」
だんだん本格的なお泊り会になってきて、だんだん楽しくなってくる。
思えば、小中とほとんど学校行事に参加してこなかった。
そんな私にとって目の前でおころうとしていることは、初めて経験するものだ。
《楽しい》
「…そうだな。きっと楽しい」
小鞠がふわりと笑ったことに安堵していると、先生が小さく息を吐く。
「幸福の鞠人形か?」
《一応ね》
「幸福の鞠人形?」
聞き慣れない言葉を反復すると、手鞠が少し苦しそうな顔をしながら話してくれた。
《私たちには創り主がいるの。まさか付喪神的なものになるとは思っていなかったみたいで、初めて話したときは驚いていたわ。
だけど、ある人間に目をつけられて創り主は殺された。私もおかしな噂を流されて壊れかけたの。それを救ってくれたのが八尋なの》
「そうだったのか…」
自分が大切だと思った相手が死んでしまうというのは辛い。
そのうえ噂を暴走させられそうになったなんて、外道の顔が思い浮かんで余計に放っておけなくなる。
「今は狙われてないのか?」
《一応落ち着いているみたい。でないと、こんなふうに勝手に出歩くこともできなかったでしょうから》
「それもそうか。…ふたりが無事でよかった」
《そんなふうに言ってもらえるのはありがたい》
もう少し話を聞こうと思ったが、それより先に瞬から無邪気な質問がとんできた。
「ふたりは普段どうやって生活しているの?」
《信頼できる人間の側で楽しくやっているわ。…今回は小鞠が邪気に反応していたから離れたけれど、仲が悪いわけじゃないの》
「邪気か…敏感ならこの町で生きていくの、ちょっと大変かもね」
《大丈夫》
「そっか。大切な人に出会えたんだね」
瞬と鞠人形たちの会話はなんだか微笑ましい。
…なんて思っていたのに、瞬が陽向に向かって枕を投げた。
「桜良は端の方が…ぶへっ!?」
「ごめんひな君、つい投げちゃった」
「ついってどういうことだよ、ついって…」
満面の笑みで話す瞬に陽向が投げかえす。
瞬は鞠人形たちに当たらないように体で受け止めた。
「危ないな…。寝るまでにもう1回当てるね」
その言葉を合図に枕が宙を舞う。
巡回する警備員が旧校舎にほとんど来ないため、多少騒いでも気づかれないのだ。
しばらく小鞠が楽しそうに応援している状況が続いた。
「ふたりとも、そろそろ終わりに、」
そろそろ止めようと声をかけた瞬間、最後の一投が瞬の本を読んでいた先生の顔面に直撃する。
「……」
「すみません先生!あの、先生に当てるつもりじゃ…」
「はしゃぐのはいいけどほどほどにしろ。合宿って名目で許可通してあるんだから、警備員さんにしこたま叱られるぞ」
「すみません」
陽向がしょげたところで、瞬が満面の笑みを見せる。
「ひな君、つきあってくれてありがとう。枕投げって楽しいんだね」
「他の人に当てなかったらな。まあ、次は絶対負けないけど」
「また勝負してくれるの?やった!」
あまりにほっこりした雰囲気だから、物々しい噂があることなんて忘れていた。
手洗い場に行くために立ちあがると、小鞠に袖を引っ張られる。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ちゃんと戻ってくるから」
小鞠の頭を優しく撫で、その場を離れる。
そのまま廊下の突きあたりまで進んだところで、気配を感じていた相手に声をかけた。
「結月はこないのか?」
《行ってもいいけど狭いでしょ?お客さんも来ているみたいだし。
それより、他にも何かあるから来たんでしょ?行かなくていいの?》
「何かあるからというより、何かないか確認しに来たんだ」
一瞬だが妙な気配を感じた。
他のみんなは気づいていなかったようだが、それには覚えがある。
周囲を探ってみたのの、それらしき人物は見つからない。
「…そうか」
階段を降りきった先に答えがあった。
そこに置かれていた不気味な封筒の中身には、はっきり一言記されている。
【どこにいても見ているよ】
…まだ諦めてくれないのか。
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