68 / 302
第8章『ローレライの告白-異界への階段・壱-』
第56話『導き出された方程式』
しおりを挟む
なんでそんな単純なことに気づかなかったんだろう。
家での存在理由がない俺を見てくれたのは桜良だけだった。
どんなに消えたくても、大事な人が側にいるから頑張れたんだ。
「陽向…?」
「今の話聞いてすっきりした」
一旦少し後ろに視線をやるけど、そこにはもう詩乃先輩の姿はなかった。
気を遣わせてしまったと思うと申し訳ない気持ちになると同時に、ここまでつきあってくれた感謝がこみあげる。
そして、覚悟を決めて桜良に視線を戻した。
「俺はずっと消えたかった。自分が死ねなくなったのがそんなことを考えていたからかもしれないって思ってた」
家に帰れば、毎日のように暴力が待っている。
今でこそ色々な人と話せるようになったけど、昔は人間相手に話すことが苦手だった。
俺にしか視えないものを伝えるのは難しく、どうせ誰とも分かりあえないって諦めることにしていたんだ。
けど、そんななか同じ景色を見て一緒に過ごしてくれる相手がいた。
「俺、いつも桜良に助けられてたんだな」
「…怒ってないの?」
「全然」
ずっと居場所がなかった俺が人でいられたのは桜良のおかげだ。
今でこそ先輩や先生がいるけど、小さい頃からずっと孤独を抱えて生きてきた。
それを癒やしてくれたのは、この世界で1番大切な人だ。
「さっきの話を総合すると、俺は不死身じゃなかったってことになる。桜良が死んだら俺だって死ぬんだから」
「でも、死んでも死にきれない苦しさがずっと続くことになる。…嫌じゃないの?」
「まあ、昔は嫌だったけど…頑丈な体なの、今では結構助かってるんだ」
消えたがりの俺にとって、どんなに頑張っても死ねないのは正直苦しかった。
何故自分なのかと思ったことも1度や2度じゃない。
けど、この体質は呪いなんかじゃなくて愛だったんだ。
不安げに瞳を揺らす桜良を抱きしめた。
「恋人ってさ、普通なら絶対どっちかが先に死んじゃうじゃん?残った方はずっと寂しい思いをしながら生きていくことになる。
けど、俺たちが死ぬときも一緒なら一生一緒にいられるってことでしょ?」
無価値な俺に生きる意味なんてない…ずっとそう思っていた。
けど、桜良と一緒にいる為だと思えば頑張れる。
「…陽向に、生きていてほしかったの」
「うん」
「それが私の勝手な願いだとしても、死なせたくなかった」
「…うん」
「あのとき私がしたことは、間違ってなかった?」
「勿論。今の俺は桜良でできてるから」
桜良の寿命尽きるその日まで一緒にいられる…そんな幸せなことがあっていいのだろうか。
「今までひとりで抱えさせてごめん。ちゃんと思い出せないけど、やっぱり桜良の側にいたい。
『ふたりの物語が終わるまで一緒にいてほしい』…あのときの気持ちは変わらないよ。…いや、もしかしたら今の方が好きになってるかもしれない」
本当にふたりの物語が終わるまで一緒にいられるならそれでいい。
「俺と一緒に幸せになろう」
大粒の涙を零す桜良にそう声をかけて、背中に回した腕に力をいれる。
彼女のか弱い腕が俺を抱きしめかえした。
「まさか桜良が泣き出すなんて思わなかったな」
「…別に、泣いてない」
気づいたときには朝日がさしこんでいて、ある用事を思い出す。
「そういえば監査部の資料を作るの、全部先輩に任せきりだ…!」
「資料ならもう作り終わったよ」
「え、先輩!?」
いつの間に戻ってきていたのか、にこにこ笑う先輩の姿が目にうつる。
桜良は恥ずかしそうに俯いて、俺の胸に顔をうずめた。
「話、まとまったみたいだな」
「ありがとうございます、先輩」
「私は何もしてないよ」
今の俺は独りじゃなくなった。
先輩がいて先生がいて、ちびたちがいて…1番大事な桜良が隣にいてくれる。
あのパーカーのことはよく思い出せないままだけど、桜良とずっと一緒に生きられるんだ。
罪悪感じゃなくて、純粋に好意で隣にいてほしい。
「陽向」
「どうかした?」
「…好き」
小さく呟かれたその一言に、俺はいつだって射抜かれてしまうんだ。
「俺も愛してる!」
家での存在理由がない俺を見てくれたのは桜良だけだった。
どんなに消えたくても、大事な人が側にいるから頑張れたんだ。
「陽向…?」
「今の話聞いてすっきりした」
一旦少し後ろに視線をやるけど、そこにはもう詩乃先輩の姿はなかった。
気を遣わせてしまったと思うと申し訳ない気持ちになると同時に、ここまでつきあってくれた感謝がこみあげる。
そして、覚悟を決めて桜良に視線を戻した。
「俺はずっと消えたかった。自分が死ねなくなったのがそんなことを考えていたからかもしれないって思ってた」
家に帰れば、毎日のように暴力が待っている。
今でこそ色々な人と話せるようになったけど、昔は人間相手に話すことが苦手だった。
俺にしか視えないものを伝えるのは難しく、どうせ誰とも分かりあえないって諦めることにしていたんだ。
けど、そんななか同じ景色を見て一緒に過ごしてくれる相手がいた。
「俺、いつも桜良に助けられてたんだな」
「…怒ってないの?」
「全然」
ずっと居場所がなかった俺が人でいられたのは桜良のおかげだ。
今でこそ先輩や先生がいるけど、小さい頃からずっと孤独を抱えて生きてきた。
それを癒やしてくれたのは、この世界で1番大切な人だ。
「さっきの話を総合すると、俺は不死身じゃなかったってことになる。桜良が死んだら俺だって死ぬんだから」
「でも、死んでも死にきれない苦しさがずっと続くことになる。…嫌じゃないの?」
「まあ、昔は嫌だったけど…頑丈な体なの、今では結構助かってるんだ」
消えたがりの俺にとって、どんなに頑張っても死ねないのは正直苦しかった。
何故自分なのかと思ったことも1度や2度じゃない。
けど、この体質は呪いなんかじゃなくて愛だったんだ。
不安げに瞳を揺らす桜良を抱きしめた。
「恋人ってさ、普通なら絶対どっちかが先に死んじゃうじゃん?残った方はずっと寂しい思いをしながら生きていくことになる。
けど、俺たちが死ぬときも一緒なら一生一緒にいられるってことでしょ?」
無価値な俺に生きる意味なんてない…ずっとそう思っていた。
けど、桜良と一緒にいる為だと思えば頑張れる。
「…陽向に、生きていてほしかったの」
「うん」
「それが私の勝手な願いだとしても、死なせたくなかった」
「…うん」
「あのとき私がしたことは、間違ってなかった?」
「勿論。今の俺は桜良でできてるから」
桜良の寿命尽きるその日まで一緒にいられる…そんな幸せなことがあっていいのだろうか。
「今までひとりで抱えさせてごめん。ちゃんと思い出せないけど、やっぱり桜良の側にいたい。
『ふたりの物語が終わるまで一緒にいてほしい』…あのときの気持ちは変わらないよ。…いや、もしかしたら今の方が好きになってるかもしれない」
本当にふたりの物語が終わるまで一緒にいられるならそれでいい。
「俺と一緒に幸せになろう」
大粒の涙を零す桜良にそう声をかけて、背中に回した腕に力をいれる。
彼女のか弱い腕が俺を抱きしめかえした。
「まさか桜良が泣き出すなんて思わなかったな」
「…別に、泣いてない」
気づいたときには朝日がさしこんでいて、ある用事を思い出す。
「そういえば監査部の資料を作るの、全部先輩に任せきりだ…!」
「資料ならもう作り終わったよ」
「え、先輩!?」
いつの間に戻ってきていたのか、にこにこ笑う先輩の姿が目にうつる。
桜良は恥ずかしそうに俯いて、俺の胸に顔をうずめた。
「話、まとまったみたいだな」
「ありがとうございます、先輩」
「私は何もしてないよ」
今の俺は独りじゃなくなった。
先輩がいて先生がいて、ちびたちがいて…1番大事な桜良が隣にいてくれる。
あのパーカーのことはよく思い出せないままだけど、桜良とずっと一緒に生きられるんだ。
罪悪感じゃなくて、純粋に好意で隣にいてほしい。
「陽向」
「どうかした?」
「…好き」
小さく呟かれたその一言に、俺はいつだって射抜かれてしまうんだ。
「俺も愛してる!」
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
東京カルテル
wakaba1890
ライト文芸
2036年。BBCジャーナリスト・綾賢一は、独立系のネット掲示板に投稿された、とある動画が発端になり東京出張を言い渡される。
東京に到着して、待っていたのはなんでもない幼い頃の記憶から、より洗練されたクールジャパン日本だった。
だが、東京都を含めた首都圏は、大幅な規制緩和と経済、金融、観光特区を設けた結果、世界中から企業と優秀な人材、莫大な投機が集まり、東京都の税収は年16兆円を超え、名実ともに世界一となった都市は更なる独自の進化を進めていた。
その掴みきれない光の裏に、綾賢一は知らず知らずの内に飲み込まれていく。
東京カルテル 第一巻 BookWalkerにて配信中。
https://bookwalker.jp/de6fe08a9e-8b2d-4941-a92d-94aea5419af7/
クラシオン
黒蝶
ライト文芸
「ねえ、知ってる?どこかにある、幸福を招くカフェの話...」
町で流行っているそんな噂を苦笑しながら受け流す男がいた。
「...残念ながら、君たちでは俺の店には来られないよ」
決して誰でも入れるわけではない場所に、今宵やってくるお客様はどんな方なのか。
「ようこそ、『クラシオン』へ」
これは、傷ついた心を優しく包みこむカフェと、謎だらけのマスターの話。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
皓皓、天翔ける
黒蝶
ライト文芸
何の変哲もない駅から、いつものように片道切符を握りしめた少女が乗りこむ。
彼女の名は星影 氷空(ほしかげ そら)。
いつもと雰囲気が異なる列車に飛び乗った氷空が見たのは、車掌姿の転校生・宵月 氷雨(よいづき ひさめ)だった。
「何故生者が紛れこんでいるのでしょう」
「いきなり何を……」
訳も分からず、空を駆ける列車から呆然と外を眺める氷空。
氷雨いわく、死者専用の列車らしく…。
少女が列車の片道切符を持っていた理由、少年に隠された過去と悲しき懺悔…ふたりは手を取り歩きだす。
これは、死者たちを見送りながら幸福を求める物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる